地に残る未練(四)
自分勝手な考えで、私は進もうとしていたんだ。それでは押しつけと何ら変わらない。
「そうだね……シンの言う通りだ。うん、ごめん……」
「今から」
「うん。今からこの子のおうちに行こう」
「お、おまえ、人の話きーてたいのかよ」
「聞いていたよ? 聞いていたから、決めたの。だって今の私にはこの子の気持ちや願いなんて分からないんだもの。それなら、一緒に考えて悩むしか方法はないじゃない」
今度こそ、シンを真っすぐ見て思いを伝える。分からないなら、分からないなりに動くしかない。結果、いい方に転がらなくても、このままこの子をここに乗せておくわけにもいかないのだから。
「俺は手伝わないぞ」
「分かってる。これは、私がやりたくてしていることだから」
綺麗ごとだということは、私も心のどこかで分かっている。しかし拾ってしまった以上、捨てることなどできないのだから。
「勝手にしろ」
それだけ言い捨てると、シンはぷいっとそっぽを向いた。本当に勝手にしろというのならば、この場から立ち去るのではないかと思ったことは、私だけの秘密だ。
さなちゃんの名前から、地域の地図を照らし合わせれば家を把握できるはずだ。しかし携帯からはさすがに地域の地図は検索出来ない。あれは各戸に配られた紙しかないはずだ。
「どこか、見せてもらえるおうちって言っても、知り合いとかいないのよね」
いきなり知らない人の家を訪ねるわけにもいかないし、ましてや商店街まで戻るには距離がある。この近くで、力を借りられそうなところなんて。
キョロキョロと辺りを見回すと、横断歩道の向こう側に石で出来た鳥居が見えた。この町唯一の人が管理している神社であり、確かうちの一族が神主だったはず。
「同じ一族だし、あそこなら借りられるわね」
一族の顔などほとんど覚えてはいないが、名乗れば大丈夫だろう。そう、たかを括る。
「地図借りてくるから、ここで少し待っていて」
日はすでに傾きはじめている。今の時期いくら日中が長いとはいえ、暗くなってから見知らぬ人の家を訪ねるわけにもいかない。そうなると、あと一時間くらいしか時間はないだろう。
私は自転車をそのままシンにお願いすると、急いで神社へ向かい走り出した。
大きな石の鳥居をくぐり、石畳をかけ上げる。運動不足なだけあって、汗が額から流れ落ち、息が上がる。しかしそれを気にする時間などない。
「すみませーん」
社務所は自宅と兼ねているらしく、玄関先で私は声を上げた。呼び鈴すらない、昔ながらの横開きの玄関は、施錠すらなく開く。その先には長く、先の見えない薄暗い廊下が続いていた。
「困ったなぁ。誰もいないのかな」
都会では考えられないような、不用心さである。しかし、こういった家はこの地域では本当に多い気がする。
「すみま……」
「なにか用か?」
「きゃー」
声は中からではなく、すぐ真後ろから聞こえてくる。前しか気にしていなかった私は、あまりのことに悲鳴を上げ、しゃがみ込む。
「わ、な、なんだよ」
振り返るとそこには、先ほどぶりである従兄の戒が、やや困ったような顔を浮かべ立っていた。




