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地に残る未練 (一)

 あれからどれぐらい泣いていたのだろうか。私からすれば数分のことも、もしかしたらもっとだったのかもしれない。それでもシンは何一つ文句を言わず、ただ側にいてくれた。


「……ごめんね……ありがとう」

「んぁ? ああ。ちっとは落ち着いたか?」


 シンの言葉に、私は少しぎこちなく視線を合わせた。こんな近い距離で、しかもすがり付いていたなんて。今更ながらに恥ずかしさが、込み上げてくる。


「うん。シンのおかげで、少し落ち着いたよ」

「それならいいんだが……。すんごい、不細工な顔になってるぞ?」


 考えるよりも先に足が出る。


「な、だ、だからいってーって」


 蹴られた脛を押さえ、シンがびょんびょんとその場で跳び跳ねていた。


 先ほどの、嬉しくて照れくさい気持ちを返して欲しいものである。言われなくとも、散々泣いた顔が酷いだろうことなど分かっている。それをいちいち口に出した当然の報いだ。


「一言多い」

「せっかく助けてやったのに、それはないだろう」

「せっかく格好よく助けてくれたのに、台無しです」

「あ、いや……それは悪かった」

「分かればよろしい」

「以後気をつけます? あん? なんかおかしくないか、これ」


 それでも素直に謝ってくれたシンに、思わず私は吹き出す。シンもやや膨れながらも、つられて笑い出した。


「なんで自転車が動かなかったの?」

「んなもん、余計なものを拾ってくるからだろ」


 シンの言う、余計なものとはなんのことだろうか。私が自転車を見渡しても、特に異常は見当たらない。


「なんにも、ないみたいだけど」

「はぁ。これだから無自覚のやつは困る」


 シンはやれやれと言わんばかりだ。そんなことを言われても、元からなんの力もないのだから。


 そう考えて、一度止まる。それでも長は私には力があると言っていた。もし自分の中で、それを見ないようにしているとしたら。自分の強い意思ならば、逆も出来るのかもしれないと。


「無自覚なのかな。でも、無自覚ってことは自覚さえすれば、どうにかなるの?」

「それは、俺が出す答えではないだろ」


 そうだ。そんなところまで、シンを頼るわけにはいかない。これは自分自身のことなのだから。


「自覚……」


 あの時、自転車は誰が乗ってきたように重くなって動かなくなった。もし何かが乗っているのだとすれば、チャイルドシートの部分と考えるのが普通だろう。


 私はもう一度目をこらし、自転車を見る。ここに何かいる。私にも見えるはずだと、自分に言い聞かせながら。


「……モヤ? ……なんだろ……見えそうで、ん? 人なのかな?」


 うっすらと、白いモヤの影が見てとれる。ただ、それが何かというと、今一わからない。自転車にちょこんと座るように、その形はある。


「ま、それだけ見えれば合格だろ。それは元々、すごく弱い零体のようだからな」

「ふーん。弱い零体……って、お化けってこと?」

「んまぁ、そんなもんだ。生きているものが死ねば、皆そうなる。ただ、この世に未練のない者は地上に残ることはほとんどなく、上にあがるんだがな」

「ということは、この子は未練を残して亡くなった子ってことなのね」


 姿ははっきりとは見えないものの、ここに座るということ自体、幼い子なのではないかと思える。


「でもそれだけじゃあ、どうにも出来ないし……」


 見えたところで、どうしたものなのかというところだ。しかし、このままではいけないことだけは分かる。ただこの子の未練になったものを探すとしても、この子が誰なのかが分からなければ対処のしようがない。


「携帯で検索したって、過去の事故がどこまで出てくるのか……。ん-」


 事故が出てきたところで、名前が分かるとも限らない。どうしたらと思う私の目の端に、苔むす道祖神が見えた。

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