第6話「ばれた嘘」
その日の放課後、私は、夕陽と優芽と一緒に生徒会室へと向かっていた。
二人が前を歩き私は少し後ろを歩いてる。
(あれは気のせいとしておいた方がいいのか? いや、でも、見てしまったんだし、事実を話した方が。いやいや、でも、ここは話さないべきか)
一人考え込む。
あまり嘘は付きたくないので、見てしまった事実を本人たちに、話した方が気も楽になるしいいかもしれない。
けど、言ったら、特に夕陽に怖いことをされてしまいそうでためらっていた。
「はぁ」
軽くため息を付くと、不思議そうに夕陽は麻友を見た。
数分後、三人は生徒会室に着いた。
相変わらず机には紙が置かれていて、会長と、はとが作業に追われている。
「あの私は何をすればいいですか?」
優芽が会長に聞いた。
「そうね、これの計算をお願いしようかしら。まだ少しあるのよ」
「はい、分かりました」
元気よく返事をする。
私も何かした方がいいと思い、会長に聞いてみた。
「あの、私は何をすればいいですか?」
あまりすることがないのだろうか、会長は、深く考えた。
すると、思いついたのか、教えてくれた。
「そうだわ、体育館に行って、バスケをしてる部活動の部長さんからプリントを貰ってきてくれないかしら。まだ、あの部活だけ、貰ってなかったから」
「プリントですね、分かりました」
これなら楽だと思い、私は生徒会室から出ようとする。
すると、夕陽は、会長に何かを伝えたようだ。
「会長、確か、卓球部の部長からも貰ってなかったんじゃないかしら?」
「え、そうだったの? あれ」
会長はそれぞれの部活から貰ったプリントを調べる。
結構、忘れっぽいところもあるんだな、と私は思った。
「あ、ほんとだわ。ごめんなさい、私としたことが。じゃあ、卓球部の部長さんからも貰ってきてくれないかしら。お願いするわ、夕陽さん」
「はい、分かりました」
返事をすると、夕陽は、入口の前で見てた私の所に向かってきた。
そして、一緒に、生徒会室を出る。
(これは嫌な予感が……)
夕陽と二人っきり。
もしかしたら、お昼のことで感づいてるのかもしれないと、心が騒いでいた。
生徒会室から出て無言のまま、歩き続けた。
このまま何もないといいな、と思いながら歩き、体育館まであと少しというところ。
夕陽が話しかけてきた。
「麻友、もしかして悩みとかあるの?」
「えっ、ど、どうしたの? 急に」
私は慌てた。
無理もない、あの光景を見てしまった以上、夕陽が少し怖いのだ。
その、私もお仕置きされるんじゃないかと。
「何でもないわ、ただ、悩みがあるのかと思って。さっき生徒会室に向かう時、ため息をついてたから気になっただけよ」
「あ、あぁ、そうだったんだ。悩みじゃないよ、ちょ、ちょっと呼吸を整えていたというか、何というか」
自分でも焦ってるということは分かっていた。
これは誰でも嘘を言ってると気づくであろう。
特に、勘が鋭そうな、夕陽とかには。
「本当に?」
やっぱり、探ってきた。
「ほ、本当だよ」
「ふっ、私はね、嘘を付いて慌ててる子って可愛いって思っちゃうのよ。例えば、妙に目を泳がせてるところとか、会話が自然になってないところとか」
ギクッ、冷や汗が出そうだ。
そして、心臓がバクバクと打ち、脈がだんだん速くなってる気がする。
「へぇ、私、普通なんだけど」
とにかく、普通をよそおることしかできなかった。
「そうは見えないのよね、私、何度も女の子を見てきていろいろな動作を知ってるから」
小悪魔みたいに、微笑を浮かべた。
これはSの表情だ。
「じゃあ、今の私はどんなことを考えてると思う?」
「そうね、とにかく、嘘を付いてることは分かったわ」
もうばれかけていた。
これは逃げられない。
いっそう、話した方が楽なのかもしれない。
「もし、もしだけど、私が嘘を付いてたらどうする?」
あまり聞きたくない質問だが、こうしないと前に進めなかった。
「ふふ、そんなの決まってるじゃない。お仕置きするに決まってるわ」
「やっぱり」
私は言葉をもらしてしまった。
それに夕陽は気づいた。
「あら、私がいつお仕置きしてるって言ったかしら」
「あ、ええと、その」
これはもう言葉の意味で逃げられることはできない。
となると、体で逃げるしかない。
そう思い、私は走った。
「こら、待ちなさい」
私が走り出すと、夕陽も走り出した。
どちらも負けずと、距離を譲らない。
(どうしよう、このままだと捕まっちゃう。どこかいい場所は)
隠れるようなところを考えたが、思いつかない。
とにかく、相手を疲れさせるようにいっぱい走り回り、保健室へと逃げ込んだ。
夕陽は保健室の周りを行ったり来たりして、私が隠れてることに気づいてないようだ。
「ふぅ、疲れた」
ちょうど保健室の先生は、出張なため、いなかった。
鍵は、いつでも生徒が何かあった時のために、開けてるらしい。
それなので、入ることができた。
私は疲れをとるため、保健室のベッドに横になった。
「これからどうしよう。外に出たら見つかるし、何とかしないと」
今は午後四時半、あと、三十分で生徒会も部活も終わる時間だ。
ベッドの上に横になってると、急に、眠気に襲われたのでゆっくりと目をつぶっていった。
寝てから何時間が経ったであろうか、私は、目を覚ました。
「いけない、寝ちゃってたんだ」
会長に頼まれた用件を思い出し、私は慌てて、ベッドから離れようとする。
だが、両腕が手錠で縛られていた。
「えっ、何これ!?」
「ふふ、やっと起きたのね。麻友」
「ゆ、夕陽……」
寝ていてすっかり夕陽のことを忘れていた。
そういえば、追っかけられていたんだっけ。
「これで存分にお仕置きができるわ」
そういうと、夕陽は私をベッドに押し倒し、上に乗りかかってきた。
一度もしたことがない経験に、恐怖になる。
「あ、あの、こういうことなら優芽ちゃんにした方が……」
「やっぱり今日のお昼、見ていたのね」
嘘を付いても仕方のないこと、いや、もうばれているのでためらわず言った。
「うん、全部じゃないけど、少しだけ」
「そう、ま、見られてもいいことだけど」
「え、見られてもいいんじゃ、別にこうしなくっても」
許してもらえると思ったが、大きな間違いで。
「何を言ってるの、それとこれとは別。あなたがあの時、逃げなければこうしないで済んだわ」
本当だろうか。
でも、あの時の夕陽の表情は、する気満々であった。
「嘘、逃げなくてもしてたでしょ」
「どうかしら、でも、どっちも同じことね」
「お、同じじゃなーい」
私は逃げようとしたが、彼女は強い力で私を抑え込んだ。
「うぅ」
「可愛いわね、その声。もっと啼かせたくなったわ」
「お願い、本当に止めて。優芽ちゃんが悲しむと思うの」
優芽は夕陽と付き合ってるんだから、きっと、他の人にこうしてると知ったら悲しむだろう。
だが、夕陽は続けようとした。
「そうかしら? 私にはそう思えないけど」
「え、だって、優芽ちゃんと付き合ってるんじゃ」
「私が? 優芽と? ふっ、何を言ってるの。私は優芽と付き合ってないわ、ただの、SM関係よ」
冷たくそう言った。
「そんな……」
ということは、さつきが言ってたのは噂だったのか。
まぁ、今はどっちにしろ、この状況から解放されたい。
「周りから見ればそう見えるのかもしれないわね、普段、一緒にいるから」
「そうなんだ」
「さぁ、優芽の話はもういいわ。続きをしましょう」
「ちょっと待って。ほら、会長に頼まれてたでしょ。それをちゃんとしないと」
会長の用件を思い出してもらおうと、少し熱く言う。
「そういえばそうだったわね」
ふぅ、と少し安心の息が漏れる。
「でも、私は続けたいの」
ダメだ、夕陽は引かないようだ。
そう思って、諦めようとした時、突然夕陽は私の胸に倒れこんでしまった。
「えっ、ちょっと、夕陽!?」
私は驚き、指で、夕陽のおでこを触ってみる。
すると、熱があるのか、すごく熱かった。
「ちょっと待っててね、今、先生を呼んでくるから」
私だけではどうすることもできないと思い、先生を呼びに行った。
もちろん、手錠をかけられたまま。
先生を呼んでから三十分後、夕陽の両親が迎えにきた。
どうやら夕陽は、小さい時から、興奮すると熱が出てしまう体質のようで、結構苦労したとか。
私は先生と一緒に、学校の入口で見送った。
そして、生徒会室に戻り、夕陽が倒れたことを会長に話した。
すると、会長は心配してくれて、最後まで付き合ってありがとうと伝えてくれた。
「でも、よかったわ。麻友と一緒で。夕陽一人だけで倒れてたら、誰にも気づかれずだったかもしれないから」
「はい、私もそう思います」
とにかく安心だ。
私は落ち着いた。
「それで、麻友。あなたの手首にはめられてるものだけど」
「えっ」
会長は手錠を見て、不思議そうな目をしていた。
「あ、こ、これは、何でもないんです。ただ遊びで」
「分かってるわ、麻友がそんな趣味がないってことくらい」
私は強く思った。
これは誤解してるなと。
そして、本日の生徒会は終わった。