第49話「お風呂」
「おかえりなさいませ、お嬢様」
「おかえりなさ…あ、お嬢様、そのお方は?」
麻友は自分の家から出て会長の家に入っていた。
突然、会長の家に入ると両脇から次々とメイドさんらしい女性たちがざわめいている。
「一緒に暮らすことになった麻友よ。みんな、よろしく頼むわね」
そう言うと、メイドたちは頭を下げた。
「麻友様、ようこそ高持家へ」
両脇にいるメイドたちに頭を下げられて、少し後ずさりする麻友。
「は、はい、よろしくお願いします…!」
「麻友、こちらへいらっしゃい」
てくてくと麻友は会長の後を追っていった。
一階から二階へと上っていくと、そこには大広間があった。
壁には絵画が、真上を見るとスタンドグラスがちらちら輝いていた。
「あの、会長、どこに向かってるんですか?」
「ふふ、ちょっと見せたいものがあってね。もうすぐ着くわ」
何なんだろうと頭に?マークをつくり、遅れないように会長の後をつける麻友。
広い屋敷だなと考えながら、呑気に思っていた。
「着いたわよ」
そう言われると、そこには普通のドアがあった。
「ここは?」
「入ってのお楽しみ」
会長はそういうと、ドアを開けた。
そこには女の子らしい部屋で、可愛い雑貨やぬいぐるみで満たされていた。
ここは会長の部屋なんだろうなと考えていると。
「さぁ、今日からここが麻友の部屋よ」
「えっ?」
「自分の家があっても部屋がないと過ごせないじゃない? だから、前もって準備しておいたの」
「でも、私は会長の家に必ず住むって前もって伝えておいたわけじゃないし、それに、もしかしたら、ここにはいなかったかもしれないんですよ? なのに、どうして」
「そこまで貴女のことが好きだったからよ、麻友…」
「会長…」
お互い見つめあう。
そして、急に恥ずかしくなり、麻友は目線をそらした。
「こ、ここまで会長は私のことを好きだったんですね。正直、嬉しいというか、恥ずかしいというか」
「ねぇ、麻友。お願いがあるの」
「へ? お願いですか」
「この家にいる時は会長じゃなくて下の名前で呼んでほしいの」
「…下の名前…わ、分かりました。なるべく呼ぶようにします」
「麻友…」
「か…じゃなかった、美沙…」
恥ずかしがる麻友は頬を赤く染めた。
会長は微笑んで。
「ふふふ、次第に慣れていくわ。そうだ、お風呂に入りましょ。麻友は疲れて大変だったでしょ」
「お風呂ですか、じゃあお言葉に甘えて」
着替えを持ち会長と一緒にお風呂場へ行く。
脱衣所に着くとそこはとても広くまるで銭湯のようだった。
だが、銭湯とは違った雰囲気がある。
「麻友」
「はい?」
「私、家で女の子とお風呂入るの初めてなのよ」
「え、でも、友達とか、あとメイドさんたちと入ったりしなかったんですか?」
「なかったわ、私はいつも一人だったから」
少し会長の表情が暗くなった。
「で、でも、お母さんとかはどうだったんですか?」
ますます会長の表情が暗くなる。
いけないことを聞いてしまっただろうか。
「あ、ごめんなさい。聞いてはいけないことを言っちゃって」
「ううん、いいの。いつか麻友にだけ話したいと思っていたから」
「はい」
「私の母は小さい頃ガンで亡くしてしまったの。あれはそう、私が小学生の頃ね。あの時の私は母が病気を患っていたなんて知らなかったわ。いつも笑顔で優しく元気に振る舞っていたから。でもある時突然起こった。私が夜に寝ていた時だったわ、急にうめき声が聞こえたの。何だろうと思ってゆっくり目を開けたわ。そしたら母は苦しそうにしていた。私が心配すると母は大丈夫と言ってたけど後から父が部屋に入ってきて救急車を呼んだわ。私も病院に行くことになった。そしたらね、待合室で待ってると父が来て、こう告げたわ。『ごめんな、美沙、お前の母さん空へいってしまったよ。本当ごめん』って」
「それはつまり…」
私は唾を飲み込んだ。
「ええ、空へいってしまったと聞いて当時の私は分からなかったわ。でも、後で分かったの。母は天国に逝ってしまったのだと。私は気持ちの整理がつかなくてずっと泣いてたわ」
「そうだったんですね……」
「だから、私、母と一緒にお風呂に入ったことないのよ。母は元気そうな時でも一緒にお風呂に入ろうとしなかった。なんでか分かる?」
「何でですか?」
「多分、手術した時の傷を見せたくなかったのね。だから母は私と一緒にお風呂に入ろうとしなかった」
会長は悲しい顔をしていた。
麻友は母親がいない気持ちをよく理解できた。
それはそう、自分もそうだからだ。
「み、美沙」
「なに、麻友」
「私も母親がいない気持ちよく分かります。私もそうでしたから」
「そうなの?」
「はい。あれは私が小さい頃。お父さんとお母さん二人で警察官だったんですよ。お母さんはよく警察の仕事のためによく家を空けることが多かったです。一緒に誕生日もクリスマスも過ごしたことがなく遊んだこともありませんでした。ある日突然お母さんは家を出て行ったんです。お父さんに理由を聞いたら教えてくれなくて私はどうしてお母さんが家を出て行ったのか分かりませんでした。でも、ある日手紙が届いたんです。その手紙を見ると私宛の手紙でした。手紙にはお父さんと離婚したことが書かれてあって、もう家には戻らないことが書いてありました。もちろん、私の顔も見たくないことも書いてありました。それからお母さんと連絡は途絶え会うこともありませんでした」
「そうだったのね…」
お互い暗い表情になった。
「で、でも、お母さんは今でもどこかで元気に過ごしてると信じています。会えなくても私のお母さんだってことは事実ですから」
「麻友は強いのね」
「強くなんかありませんよ。私より美沙のほうが強いと思います」
ポカンと口を開ける会長。
「私が?」
「はい。だって、今では生徒会の仕事をこなして頑張ってるじゃないですか。それに…」
麻友は頬を赤く染める。
「それに?」
「そ、それに、私に恋を教えてくれたじゃないですか」
「ふふっ、それは強いと言えるのかしら」
「強いに決まってますよ。恋愛はどんなに辛い時も苦しい時も強さに変えるものなんです」
「そう言われるとなんか恥ずかしいわね」
「わ、私もです」
まだお風呂にも入ってないのに二人はのぼせたように体が熱くなっていた。
「美沙、お、お風呂に入りましょ」
「それもそうね」
麻友は恥ずかしがらずそくさに服を脱いでいく。
だが、会長はためらっていた。
「美沙?」
「麻友、先に入っていてくれないかしら」
「いいですよ、先に待ってますね」
そういうと麻友はお風呂の中に入っていった。
一人脱衣所に残された会長はというと。
「どうすればいいのかしら、意識しすぎて、麻友を見れない」
でも、このまま立ってるわけにもいかず、会長も服を脱ぎタオルで体を隠した。
お風呂の中へ入ると麻友は体を洗っていた。
「美沙、石鹸お借りしましたよ」
「え、ええ」
会長は麻友の背中を見ていた。
とても綺麗で背中に濡れてた水が流れる度に弾いていく。
「ねぇ、麻友」
「何ですか?」
「ま、麻友はあれをした経験あるの?」
「あれ? あれって何ですか?」
「そ、その、夕陽さんと優芽さんがしてることよ」
その言葉を聞いて麻友は顔を赤く染めた。
「な、あるわけないじゃないですかっ///」
「そ、そうよね、変なこと聞いてしまってごめんなさい」
会長はおどおどしながらお風呂の中に入っていった。
何故か正面ではなく後ろ向きで入ってる。
「美沙は、その、あれしたことあるんですか?」
「な、ないわよ。一度もないわ」
「そ、そうなんですね。なんか安心しました」
体を洗い終えた麻友は会長と同じ湯舟に入る。
麻友が湯舟に入るとお湯が会長の元へと伝わっていく。
「麻友」
「はい?」
「麻友はあれを私としたいと思うかしら?」
「え/// 急にそんなこと言われても、その、分かりません」
「そうよね。まだいいのよ、麻友の決心ができてからでいいから」
「美沙は私としたいんですか?」
「もちろんよ、麻友とだけしかしたくないわ」
「あの、ちょっと考えてもいいですか。私、あれについて分からないことだらけなので考える時間をください」
「ええ、私はいつでも待ってるわ。焦らずゆっくり考えてちょうだい」
「はい」
こうして二人はお互い背を返しながら湯舟に入っていた。
その後、湯舟から出るタイミングがつかめなくてのぼせてしまったのは内緒である。
お久しぶりです。
久々の更新です。
最近百合小説を書くことから離れてしまっていて更新することもできませんでした。
でも久しぶりに高持の小説を読み直してまた書きたいと気持ちが出たので頑張って書いてみました。
少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。
次話も少しずつですが更新していきたいと思ってます。
それでは。