第46話「揉め事」
「号外! 号外! ビックニュースだよー」
テクテクと歩いてると、校門の前で、新聞委員会の人が紙を配っていた。
恐らく何か校内で驚く事件でもあったのだろう。
麻友はその紙を一枚もらうと、内容に釘つけになった。
「え、え」
その新聞は麻友と会長が二人で一緒にいる写真が貼られてあり、しかも、『会長と生徒会の役員がキスをした』と書かれてあったのだった。
もう昨日のことが書かれているのか、いや、そもそも保健室で誰かに見られていたのが理解できた。
新聞を見おわった生徒たちは、もしかしてあの子じゃない?と噂が広まり、みんな麻友のことを見る。
「違うから…!」
そう言って、麻友は急いで校舎の中に入り自分の教室へと逃げ込む。
でも、そこは逃げ込めるような場所でもなかった。
麻友が教室の中に入ると、クラスのみんなが注目してくる。
「まーゆ!」
「うわっ」
教室内でどうしようかと戸惑っていると、後ろから、さつきが抱きついてきた。
逃げようとするが、中々難しい。
女子と女子とのスキンシップだから、抵抗もできない。
「麻友、新聞見たよ。会長とキスしたの?」
「し、してないから…!」
「でも、証拠写真がここに」
ほら、とでもいうように校門前で配っていた新聞を見せつかせる。
キス、という言葉を聞いて、クラスのみんなが麻友のことを見つめてきた。
「これはただの事故であって」
「やっぱりキスしたんじゃん」
「それは、その…」
「正直に言っちゃいなよ。会長のこと好きなんでしょ?」
麻友は好きという言葉を聞いて、今までの会長を思い出し始めた。
いつも背中を応援してくれた会長、微笑む姿。
どれも麻友にとって宝物であった。
「でも、ここで簡単に好きって言っちゃっていいのかな? 私はまだ足りないと思う」
「何が?」
「自分でもよく分からない」
何が足りないのであろうか。
麻友にとってそれは意味が分からなかった。
放課後、麻友は生徒会が始まる前の会長のクラスに寄ってみた。
自分のクラスと同様、賑やかだ。
会長はどこかとそっとクラスを覗くと、そこにいた。
「美沙、これから生徒会?」
「ええ」
「大変ね、こっちはこっちで大変だというのに」
「何が?」
「美沙知らないの? 学校内でみんなこれに騒動になってるのよ」
どれどれと思い会長は例の新聞を見る。
見ちゃダメだと思いつつ、麻友はじっと影で会長のことを見続けていた。
「これ…」
「ねぇ、美沙、本当に麻友って子にキスしたの?」
「ええ、したわよ」
その即答に、麻友は思った。
どうしてすぐに答える!
しかも、バラしてるし。
いや、自分も気付かれてるけど。
「そこの君、ちょっと」
会長のことを見続けてると、後ろから声がかかった。
何かと思い振り返ると、そこには会長と同じ高学年の生徒がいた。
「…何ですか?」
おそるおそる聞いた。
「ちょっとこっち来て」
そう言われると腕をグイグイ引っ張られた。
とても強い握り方だ。
腕が痛い。
中庭まで連れてこられると、麻友は壁に突き放された。
人数は一人。
「あんた、会長とキスしたってマジ? 気持ち悪い~」
どこにでもいる不良女だ。
でも、何故だろう。
麻友はそう思わなかった、会長とキスして嫌悪感を抱くなど。
「誰が誰かとキスしたくらいで騒ぐことですか? 子供じゃないんですし、大人になって冷静に」
「はぁ? ずっと前から思ってたんだけどさ、あんたも確か有名人なんだよね。会長に目もくれずずっと過ごしてきたってやつ。どうしてそういう子が会長のいる生徒会に入ったわけ?」
「それは会長にお願いされて」
「お願いって、あんたも有名人なんだから、自分の世界に入っていればいいものを。それを呑気に生徒会に入って更に有名人になっちゃって。私、この学校のアイドルです、みたいな人嫌いなんだよね」
「だったら関わらなければいいじゃないですか」
「嫌でも関わるんだよ。生徒全員が噂話すからそれが耳に入っちゃう。聞きたくないものが聞こえてしまう、嫌で嫌でたまらないの」
「だったら転校したらどうですか。それができないなら」
「なら?」
続きを言おうとしたが、麻友は止めた。
このままでは喧嘩になってしまう。
あまり今の状況で騒ぎは立てたくなかった。
「…何でもないです」
「はぁ? 言いかけたんだからきちんと最後まで言え…あ」
「ん?」
不良女は麻友ではなく別の方向を見ていた。
麻友も同じように目をたどると、そこには会長がいた。
「会長」
「麻友と二人で何してるのかしら?」
「それは、ですね、その、失礼しましたっ」
台風一家のようにピューと不良女は逃げて行った。
残された麻友はこちらへやってくる会長を見続ける。
「麻友、大丈夫?」
「大丈夫ですよ」
「何か悪口言われたんじゃない?」
「そんなことないです…よ? あ、あれ」
おかしい。
何故だろう、涙が出てくる。
「麻友……」
会長はそこへ抱きしめた。
とても温かい、会長の温もり。
「辛い時は泣いてもいいのよ? 溜めこんでては限界が来てしまうから」
「…っ…っ…ひくっ……か、会長……」
麻友は会長の胸元で静かに泣いた。
その悲しさを抱きとめるかのように、会長は麻友の頭を優しく撫でる。
「大丈夫、大丈夫」
その言葉に麻友は大泣きした。
優しい言葉をかけられると我慢してた気持ちが溢れてくる。
麻友は辛い時に優しい言葉をかけられると弱いのだ。
二人は悲しみの時を分かち合った。
美沙という名前は会長の名前です。
久しぶりに名前出しました。
だんだんとシリアス?になってきています、うーん、難しい。
これで会話が成立しているのかどうか…まぁ、それはさておき、麻友は麻友で辛い思いしましたね。
会長も色々と辛い思いしてきましたが、今回は麻友ということに。
次回も頑張ります。
それでは。