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第18話「会長と林檎」

「麻友♪」


「え、えーと」


 これは一体どういうことなのだろうか。

 昨日、転校してきたばかりの黒川林檎が、私に抱き付いてきてるという。

 しかも、まだ会話してない。

 もしかして、小さい時に会ったことがあり、再開を果たしたとか。

 いや、それはない。

 私は、覚えがないし、会ったこともない。

 

「麻友、大好き」


「えっ」


 いきなり、しかも、間近で大好きといわれ、少しドキッとしてしまった。

 何とか正常を保たないと。

 一瞬の隙で、何をしてくるか分からない。

 油断は禁物だ。


「ゴホン、麻友。これを手伝ってくれるかしら」


「あ、はい」


 そして、会長は少しイライラしているような感じだ。

 どうしてイライラしているのか分からない。

 やっぱり、昨日、転校生のことを詳しく話さなかったのが原因なのかな?


「じゃあ、これとこれはAグループに、あれとあれはBグループに分けていってね」


「分かりました。えーと、これとこれはAグループと」


 慣れた手つきで、作業をする。

 すると、腰に手が回された。


「ひゃっ」


「麻友、私も手伝ってあげる」


「いや、大丈夫だから」


「そんなこといわずに。ねっ」


 本当に大丈夫なんだけど。

 それより、腰に手が回されて、しかも、首筋に息がかかってくるから集中できない。

 すごくくすぐったい。


「あ、あの、本当に、大丈夫だから」


「はい、これAグループ。できたよ」


 私と林檎さんが一緒に作業をしていると、会長が話しかけてきた。


「二人とも、イチャイチャするのはいいけど、場所を考えてね」


「会長、そんなんじゃありませんから」


 私と林檎さんはそんな関係じゃない。

 何とかして誤解を解かないと。


「でも、今ここでしているのが事実。するなら、生徒会室以外で私のいない場所で」


「会長」


 私が何かを言おうとする前に、林檎さんが間にはいってきた。


「何かしら? 林檎さん」


「ちょっとこちらへ」


 訳が分からないまま、会長は林檎さんの後についていってしまった。

 何を話すのだろう?

 すごい気になる。


「すごいことになってきたわね」


「うん。林檎さん、私と離れようとしないの。絶対何か企んでると思うんだけど」


「そうね。でもいいじゃない。向こうは麻友に気があるみたいだし、そのまま付き合っちゃえば」


 夕陽は簡単にそういった。

 

「簡単にいうけど、私は夕陽みたいに誰でも好きになれないの。本当に好きな人しか、付き合えない」


「あら、私だって誰とでも付き合うわけじゃないのよ。ただ、遊んでるだけ」


「それって、優芽が聞いたら……」


 辺りを見回してみる。

 よかった、優芽はいない。

 そう安心していると、ガタっと生徒会室のドアの外から音が聞こえた。

 思い切ってそちらを見てみると、最悪なことに優芽がいた。


「あ……」


「夕陽……私以外の子と遊んでるの……?」


「優芽、違うわ。そういう意味じゃなくて」


「そういう意味ってどういう意味? 私は普通に遊んでるのって聞いたんだけど」


「え、あ」


 夕陽は意味を違ったようで、混乱する。

 するとその間に、優芽は飛び出してしまった。

 

「あっ、優芽!」


 同じように夕陽も飛出し、生徒会室に一人だけとなってしまった。

 会長と林檎さんは生徒会室の隣の教室にいる。


「相変わらず、二人のバカップルには手が負えないな」


 そう口に出してみたが、これを本人たちの前にはいえないであろう。

 これが最初で最後ということにしておく。


「一人で暇だな。少しだけ隣の教室を盗む聞きしちゃおうかな」


 ここで待っていても暇だし、時間の無駄なので会長たちがいる教室に向かった。

 気づかれないように教室のドアに耳を立てる。

 中ではこのような会話をしていた。


「何の用かしら? 林檎さん」


 林檎は窓の外を見ている。

 だけど、くるりと振り返り、会長と向き合った。


「会長、あなたはとても弱いと思います」


「えっ、何のこと?」


「あなたは積極的に行動しない。本当に好きな人なら、アピールするのが当然です。でも、会長、あなたはアピールするどころか、他の生徒と同じように接している。これが好きな人に対する態度ですかっ」


 突然のことに会長は混乱して驚いていた。

 何とかして状況を読み取ろうとする。


「林檎さん、突然で何を言っているか分からないのだけれど」


「会長は相川麻友が好きなんですよね」


「えっ」


 顔を赤くして、麻友のことを思い出す会長。


「やっぱり」


「やっぱりって? どういうことかしら」


 そう聞かれると、林檎は真剣な目で会長に伝えた。


「私も相川麻友が好きなんです」


「そんな」


「昨日転校してきたばかりの生徒が、一日で好きになるっておかしいですよね。でも、本当に好きになったんです」


 両手に軽く拳を作って、必死に林檎は話す。


「私は本当に好きになった人になら、積極的に行動します。アピールや触れ合い、告白……いや、まだ告白は……」


 急に真っ赤になって、手をごにょごにょさせた。


「とにかく、会長が麻友のことを好きというのであれば、私は全力で戦います。受けて立ってくれますよね」


「えっと、ちょっと待って、林檎さん。あなたが麻友のことを本当に好きということは分かったわ。事実、私も麻友のことが好き。でも、林檎さんはどうして私が麻友のことを好きって分かったの? 林檎さんとはさっき会ったばかりなのに」


「私が元純光の生徒だって知ってますよね?」


 元純光の生徒、それと繋がりがあるのかと会長は考えた。


「ええ」


「私は元純光の生徒で、元スパイでした。新しい場所に来ると、いろいろな情報が十秒で分かるんです。なので、会長が誰が好きなのかってことがすぐに分かりました。


「そうだったの」


「はい、でも、今は高持女子高の生徒でスパイじゃないですから、安心してください」


 ニコッと笑顔を見せる。

 その笑顔はとても可愛いものだった。


「それで、会長。麻友のことなんですが」


「林檎さんはどうしたいの?」


「もちろん、麻友と両思いになって付き合いたいと思ってます。でも、会長も麻友のことが好きなんですよね」


「そうよ」


「だったら、ライバル同士ということになりますね。会長、私と戦う気はありますか?」


 戦うといっても物理的ではない。

 

「もちろん、負けるつもりはないわ。林檎さん、あなたのことはまだ分からないところもあるけど、少しずつ調べさせてもらうわよ」


「上等です。これからも高持女子高生徒会のメンバーとして、よろしくお願いします」


「こちらこそ、いろいろとよろしくね」


 話は終了し、二人は活きがあったような雰囲気を持った。

 その頃、麻友はまだ教室のドアに耳を立てていたが、今日は運悪く空を飛行機が飛んでいるせいで会長と林檎の話をずっと聞こえなかったらしい。









 



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