第17話「黒川林檎」
翌日、教室で待っていると、先生が入ってきた。
みんな、急いで自分の席に戻る。
「おはようございます。LHRの前に、皆さんに紹介したい人がいます。どうぞ、入って」
先生の声に従い、ガラガラと教室のドアが開いた。
みんなが声をあげる中、生徒は、足を進め黒板の前に立ち止まった。
「このクラスに転校することになった、黒川林檎といいます。よろしくお願いします」
丁寧にお辞儀をし、輝いた瞳で周りを見渡している。
髪形は短く、目はクリクリッとしていて、まるでりんごのように顔はふっくらだ。
頬が赤くなったら、本当にりんごのようになるんだろうな。
そう考えて、転校生を見つめていると、ふと目が合った。
「えーと、黒川さんの席は………」
「先生、あの子の隣が空いています」
そういって、転校生は歩き出した。
真っ直ぐと私のほうに向かってくる。
そして、横を通り過ぎて、隣の席に止まった。
「よろしくね」
転校生はそう挨拶すると、席に座った。
この子が、元純光の生徒か。
見た感じ、とても優しそうで、いい子に見えるけど。
でも、そう思わせるのが純光の狙いなのかもしれない。
私は身を引き締め、授業を受けた。
夕方。
私はいつも通り、生徒会室に向かった。
ドアを開けると、お馴染みのメンバーが仕事をこなしている。
「失礼します。たった今、終わりました」
「ちょうどよかったわ、みんなも今来たところよ」
LHRが遅く、もしかしたら遅刻かなと心配していたが、そうでもなかったらしく、会長は暖かく迎えてくれた。
「それで、例の転校生はどうだったのよ」
机の上には資料が置いてある。
どうやら、これをホッチキスでまとめるらしい。
私はまとめながら、夕陽の話にのった。
「普通だったよ。りんごのように可愛い子で、優しそうだった」
「ふーん、でも、まだ分からないのよね」
「ま、まぁ」
一日で分かれば苦労はしない。
ずっと一緒にいてくれたら、いろいろと分かるんだけどな。
まだ友達にもなってないし、これから大変そうだ。
「でも、学校生活はまだまだ長いし、これからゆっくり調べていくよ」
「そうね、麻友頑張って」
「はい」
会長から応援してもらったことだし、本当に頑張ろう。
まずは、目の前の仕事を。
そう張り切ろうとすると、コンコンと生徒会室のドアを叩く音がした。
「はい、どうぞ」
会長が許可すると、ドアが開き、一人の生徒が入ってきた。
「失礼します。あの、生徒会のメンバーに入れてもらいたくてきたんですけど」
「えっと、今、募集とかしてなくて…」
「な、何でもいいんです。会長のお茶くみとか、掃除とか、いっぱい動かしてこき使ってもいいので生徒会に入らせてください!」
あまりの必死さに私たちは顔を見合わせた。
しかも、今日転校してきた黒川林檎さんとは。
一体、何を企んでいるのだろう。
「会長、こんなに必死にお願いしてますから、入らせてあげてもいいんじゃないですか?」
夕陽は賛成しているようだ。
次に優芽も同じらしい。
「私も夕陽と同じ意見です。是非、入らせてあげてください」
これは困ったな。
まだみんなにはこの子が転校してきた生徒だと教えてない。
もしかしたら、何か企んで入りたいのかも、と教えたいところだが、空気が悪くなってしまうかもしれないので私は考えていた。
すると、会長が私を見つめてきた。
これは、私の意見が聞きたいということなのだろう。
ここで、反対するわけにもいかない。
私はみんなと同じ意見を出した。
「私も賛成です。会長、この子を入らせてあげてください」
その一言で、会長は安心したようで、林檎さんを見た。
「分かったわ。この子を生徒会のメンバーに入れることにします。みんな、意見はないわね?」
「はい」
三人同時に返事をした。
林檎さんは嬉しそうに喜んでくれた。
「では、あなたの名前を聞かせてもらおうかしら」
「はい。麻友と同じクラスになった『黒川林檎』です」
え、さっき私の名前を呼び捨てにされたような。
どういうことなのだろう。
「同じクラスになった、ということは、もしかして今日来た転校生?」
優芽がそう聞くと、みんな緊迫の時間が流れた。
「うん、よろしくね」
これから先どうなってしまうのだろう。
元純光の生徒が生徒会のメンバーに入ってしまった。
楽しくなるとは思うけど、あまり厄介なもめごとはしたくない。
それが私の思いだった。