第15話「高持家」
今日は会長の家に遊びに行く日。
まだ、昨日の疲れが残っている気がしたが、私は気にせず学校の校門前で待った。
「うっうぅ~。いい天気。まだ会長は着いてないのかな?」
体を起こすため、空に向かい背伸びをした。
そういえば、会長の家ってどんなのだろう?
すごくお嬢様っぽく豪華な家のような気がするんだけど、まさか、そんなはずないよね。
一人想像していると、後ろから声をかけられた。
「麻友」
「あ、会長」
いつもの学校の制服と違い、私服を着ている。
って、当たり前か。
それにしても、すごい綺麗で、私と立場が違い過ぎて一緒にいていいのか余計に不安になるな。
「お、おはようございます。晴れてよかったですね」
「おはよう。ええ、そうね、雲一つない快晴だわ」
そういえば、会長と会話をするのは、生徒会室が多く内容も仕事関係が多いから、何を話せばいいのか分からない。
というか、すごい緊張する。
「じゃあ、そろそろ行きましょうか」
「あ、はい」
会長と一緒に歩き出す。
どうやら会長も徒歩で来たようだ。
車で来るかと思ったんだけど、会長も、学校から家が近いのかな。
「あの、家は学校から近いんですか?」
「近いわよ、大体、歩いて十分ぐらいかしら」
「それならすぐに着きますね」
「そうね」
大体、家に着くまで、学校での話題で消化した。
それほど、すぐに、着いてしまったのだ。
「うわー、すごい大きい」
「私のお父さんが作ったの。学校もお父さんが作ったのよ」
「えっ、学校もですか!? あ、だから、会長の名前も高持……」
「ええ」
「会長のお父さんすごいですね。家や学校を建てるなんて、何だか、娘のために頑張ったって感じられます」
何となくだけど、そう私は感じた。
この家も学校も、娘がこれくらい大きくなるようにと、建てられたようだ。
「全然すごくなんかないわ。それに、私のために建てたんじゃないと思うから」
「え……」
「ううん、何でもないのよ。さぁ、中に入って。おいしい、お茶とお菓子が待ってるわ」
一瞬、会長の表情が曇ったように見えた。
何かいけないことを言ってしまったのだろうか。
でも、今の会長は、いつもの会長だ。
今さっきのことはあまり気にしないようにしよう。
私は会長と一緒に家の中に入った。
家の中に入ると、和室などがあり、何となく落ち着きが感じられた。
「麻友は先に部屋で待っていてくれないかしら。私は飲み物とお菓子を持っていくから。あ、部屋はこの階段を上って、すぐ左の部屋ね」
「はい、分かりました」
会長に教えてもらい、早速、階段を上る。
確か、階段を上って、すぐ左の部屋だったよね。
間違えないように、階段を上り終わると、すぐ左の部屋にそっと入った。
「お、お邪魔します……」
そう挨拶をし、ドアを閉めた。
ここが会長の部屋。
周りを見渡すと、よく整頓されてあって、とてもシンプルな部屋であった。
あ、クマのぬいぐるみがある、可愛い。
そう思ってると、会長が、飲み物とお菓子を持って来た。
「お待たせ。ごめんなさい、あまり女の子っぽい部屋じゃなくて」
「いえ、そんなことないですよ。すごく会長っぽくて、素晴らしい部屋です」
「そう? ふふ、麻友に喜んでもらえてよかったわ。さぁ、座って」
「あ、はい」
まだ緊張してる私って、一体、何なんだ。
とりあえず、座ろう。
座布団の上に座ると、会長は、真正面に座った。
そうだ、今日、会長の家に来たのはあれを聞くためだった。
今まで忘れていたことを思い出し、話しかける。
「会長、あの、昨日私が言ってた寝言のことなんですが……」
「分かってるわ。麻友が言った寝言はね……」
ゴクリと唾を飲み込む。
いよいよだ。
あまり変なことを言ってなければいいんだけど。
「はい……」
不思議な沈黙が流れる。
そして。
「何も言ってなかったわ」
「え?」
一瞬、ポカーンとなった。
何も言ってない?
そんな、まさか。
「え? え。だって、昨日、夕陽が寝言を言ってたって」
「ふふ、それはきっと嘘ね。麻友が可愛いから、きっと、からかったんだと思うわ」
そんな。
夕陽め、あとで、しからないと。
「そうだったんですか……なんだ。ん? 会長はどうして私を誘ったんですか? 何も寝言を言ってないなら、昨日、教えてくれれば解決したのに」
「麻友と、遊びたかったからかしら」
「私と?」
「ええ、まだよく麻友のこと知らないし、あまり二人きりで話したことがないでしょ。だから」
なるほど、何だか、会長は楽しいな。
すごい和むっていうか、何ていうか。
「会長って楽しい人ですね」
「そ、そんなことないわ」
微妙に頬を赤らめる。
可愛いな。
「まぁ、私も会長のこといろいろ知りたかったので、誘ってくれて嬉しかったです。ありがとうございます」
「ふふふ、どういたしまして。さぁ、いろいろとお話しましょう」
「はい」
学校や家族、将来のことなどいろいろと話をした。
会長と話すと、楽しくて、つい笑顔が溢れる。
そして、時間も忘れそうになるくらいに、幸せな時が流れた。
「あ、そういえば、会長の小さい時ってどんな感じだったんですか?」
「あまり面白くないわよ」
「それでもいいんです、会長の小さい時を知りたいなって」
「分かったわ。ちょっと待ってて」
そういって、会長は立ち上がり、部屋の隅に移動した。
そして、ガサゴソと探り、分厚い本を取り出した。
「それは……」
「アルバムよ。私が小さかった頃の写真が入ってるの」
会長が小さかった時のアルバム。
見てもいいのかな?
「あの、見てもいいんですか?」
「もちろんよ」
会長から許可をもらい、早速、見ることにした。
アルバムを開け、ゆっくりとページを捲っていく。
「うわ~」
「何だか恥ずかしいわね」
「小さかった時の会長、すごく可愛いです」
「ありがとう」
「あっ、これ七五三ですよね。すごい小さい」
「あ、こっちは遊園地のお化け屋敷から出てきて、泣いちゃったところかな。見ていて、その時の場面が想像できます」
「麻友といると、何でも楽しく感じられるわ」
会長は微笑んだ。
その微笑みはアルバムの写真と変わらない笑みであった。
「でも、本当にこのアルバムと今の会長は何も変わらなくて、可愛いです」
そう優しく、いうと、会長は顔を赤らめて私の傍に近寄り、顔を耳元までくっ付けた。
そして、耳元で会長は囁いた。
「……麻友も、すごく可愛いわよ……」
耳元で甘い声で囁かれ、私も、顔を赤らめた。
そして、何故か心臓がバクバクして、呼吸が乱れる。
何これ、何だか、ドキドキが止まらない。
会長は囁いた後、私の傍から離れた。
「あ、あの……」
「ん?」
「な、何でもないです。その、し、失礼します」
私は帰ることにした。
だって、あんなことがあったから。
このドキドキも止まらないし、あのままいても、変なことを言ってしまうだけだろうし、とにかく、落ち着かないと。
「学校まで送るわ」
「い、いえ、大丈夫ですから。それでは、また明日、学校で」
会長には玄関まで送ってもらい、帰路についた。
ふぅ、とりあえず安心したけど、でも、まだドキドキしてる。
一体、何なんだろう。
私は変な気持ちを抱えたまま、家へと向かった。