第13話「Maiden's tail」 後編
教室を出た後、目的の生徒二人の尻尾を狙っていたので、隣を覗いてみるといなかったので諦めた。
恐らく、私が会長と話してる間に、逃げてしまったのだろう。
捜すのも、気力がないので、私は校舎から離れることにした。
「とりあえず、一旦、学校に戻ろう」
私は高持女子高へと目指し、向かった。
純光女学院から歩いて、三十分、更に疲れが溜まる気がする。
それでも、諦めず学校へと歩いた。
学校に着くと、涼しい風が私を癒してくれた。
す~っと深呼吸をし、リフレッシュする。
「あ! みんな行くわよ、あそこに高持の生徒が」
少し遠くの方でそう聞こえた。
敵だ!
人数は三人ぐらいだろうか、こっちに向かって走ってくる。
「やばい」
敵はとても強そうなので、私は逃げることを決めた。
純光と違って、私の学校はもう校舎全てを覚えていた。
なので、この学校で逃げることは、とても有利だった。
「どこか隠れないと。どうしよう」
今、グラウンドに出た。
どこか隠れる場所はないかと、素早く、周りを見渡す。
他の生徒もちらほらとグランドで戦っているが、私には気が付いてないみたいだ。
私は、他の敵を気にせず、すぐに目がとまった体育倉庫の中に入った。
「はぁはぁ、これで遠ざかってくれればいいけど」
息を堪え、様子をうかがう。
「いた?」
「ううん、でも、きっとこの近くにいるよ。探そう」
声が聞こえた。
私のことを探してるのだろう。
(早くいなくなって)
とにかくそう願った。
すると、少し奥の方で物音が聞こえた。
「え」
誰かいるのだろうか。
でも、奥は薄暗くて、よく見えない。
「誰かいるの?」
誰かいるのなら、返事をしてくれるだろう。
そう思って、声をかけてみた。
「………」
だが、返事はない。
気のせいかな。
また、扉越しに耳を当てて、敵が近くにいるか探ってると、いきなり倉庫のドアが開いた。
「うわっ!」
驚いて、尻餅をつくと、会長が目の前に立ってるのが見えた。
「か、会長」
「もう大丈夫よ、敵はいないわ」
「あ、はい…」
とにかく立ち上がった。
会長はとても涼しげな表情をしていて、あまり疲れてないみたいだ。
「あの、どうして私がここにいるって分かったんですか?」
そう質問すると、会長は、待ってと言い倉庫の中に入った。
そして、全部というまでにはいかないが、少し光が入るくらいまで閉めた。
「たまたま、麻友がここに入っていくのが見えたの。それだけよ」
「なるほど」
ホッと息をつくと、疲れがどわっと来た。
さっきまで敵に追われ、見つかるかと、気を張っていたのでそのせいだろう。
「麻友、こっちにいらっしゃい」
会長は、マットの上に座って、太ももの上に来るように招いていた。
「こっちって…だ、駄目ですよ、会長。今、競技中ですし、それに、その…」
恐らく私の顔は真っ赤になってるだろう。
だって、いきなり、会長の太ももの上に来いだなんて、ドキドキして恥ずかしいから。
「大丈夫よ、少しだけの間だから。それに、麻友は自分で気が付いてないかもしれないけど、顔が少し青いわ」
「本当ですか?」
「ええ。さぁ、こっちに」
確かにちょっと体がだるく具合が悪いかもしれない。
そして、今まで我慢してきたが、眠い。
私はおぼろな目で、会長の元に向かった。
「じゃ、じゃあ、失礼します!」
ペコリと頭を下げ、私はしゃがみ、会長の太ももの上に頭を乗せた。
ふわりと甘く優しい香りが広がって、とても肌が柔らかい。
(いい香り…そして、すごく会長の太もも柔らかい。何だか、すぐに寝ちゃいそう)
だんだんと目がとろんとしてきた。
すると、サワッと髪が何かに触れた。
会長が私の頭を撫でてくれている。
「麻友、おやすみなさい」
「――おやすみなさい、会長」
会長に頭を撫でられながら、私は眠りに落ちた。
とても心が安らぎ、全ての疲れが取れそうだった。
眠ってからどれくらいの時間が経っただろうか。
私が目を覚ますと、そこに、会長の姿はいなかった。
「あれ?」
まだ眠い目をこすりながら、周りを見渡す。
すると、夕陽と優芽が鑑賞していたかのように、私を見ていた。
「おはよう、麻友。いい夢は見れたかしら。ふふふ」
「おはよう、麻友」
夕陽は面白げに微笑み、優芽は優しく微笑んでいた。
「夕陽に優芽、こんな所で何をしてるの?」
「さぁ、何をしてたのかしら。私たちが何をしてたって、麻友には関係ないでしょう」
うっ、確かにそうだが。
ただ、夕陽の悪魔のような微笑みが気になる。
「そ、それはそうだけど、どうして私を見てたのかな~って」
冷や汗をかきながら、聞いてみる。
「教えて欲しい?」
「うん」
「分かったわ、なら、こっちに来なさい」
どうして夕陽のところまで行かないといけないのか。
すぐそこにいるのだから、話せば、聞こえるのに。
仕方なく、私は夕陽の傍に行くことにした。
「それで、どうして私を見てたの?」
そう聞くと、夕陽は、フッと微笑んだ。
そして、私の耳元で囁く。
「麻友の可愛い寝顔を見ていたのよ。会長がいた時からずっと……。あ、たまに、寝言を呟いていたわ。とても可愛くて、食べてしまいたいくらいだったわ」
耳元で囁かれ、とろけそうになったのを堪えた。
私の弱点は耳なのだ。
「なっ……」
顔が真っ赤になり、私は、頭の中で整理して言葉が出てこなかった。
(会長がいた時からずっとってことは、私が、会長の太ももの上で寝ていたところも見られてたってこと。え、ちょっと待って、寝言って? もしかして、会長に聞かれちゃってってことはないよね)
「ゆ、夕陽……」
「何かしら?」
「も、もしかして、寝言会長に聞かれたってことは……」
おそるおそる聞いてみた。
お願い、聞かなかったことに。
「もちろん、聞かれていたわ。会長ったら、微笑んでいたわよ」
「なっ!」
そんな。
「え、ねぇ、私寝言で何て言ってたの?」
「教えて欲しいのなら、私の靴を舐めなさい。それで話してあげるわ」
また、SMプレイか。
一番聞きたい時に、もう。
「止めておくよ、私、そういう趣味ないから」
「あら、本当にいいの? 麻友、寝言であんなこと言ったのに」
気になる、でも、するわけにはいかない。
「うっ……ちょ、直接、会長に聞くから」
私はそう言って、物置から出た。
すると、グラウンドは人がいなかった。
校舎に戻ってみると、みんな、体育着から制服へと着替えていた。
どうやら行事は私が寝てる間に終わったらしい。
勝負の結果というと、引き分けのようだ。
私は、体育着から制服へと着替え、生徒会室へと向かった。