第12話「Maiden's tail」 前編
パンパンと花火が空に打ち上げられた。
今日は、本番の日。
学校行事にとってふさわしく、天気は快晴であった。
「今日は決戦の日、みんな、準備はいいわね」
開会式が始まる前に、生徒会室でみんな集まっていた。
会長から負けられない熱い気持ちが伝わってくる。
「もちろんです」
「ええ、問題ないわ」
「はい」
私、夕陽、優芽が答える。
他のみんなからも熱い気持ちが感じられた。
「ふふ、そんなに張り切らなくてもいいのよ。張り切るのは、開会式が終わって、始まったらでいいの。だから、まだ落ち着いて」
「え、あ、はい」
確かに会長のいうとおり。
今、張り切っても、無駄に力を消費してしまうわけだ。
それにしても、会長が微笑むと、力が緩んでしまうのはなぜだろうか。
とても気持ちが楽になる。
「まだ時間があるから、それまで、ここでゆっくりしてもいいわ」
開会式が始まるのは午前9時から。
今は、8時30分なので、ゆっくりとできる。
「分かりました」
会長の言葉に甘えて、私は、ここでゆっくり時間がくるまで待つことにした。
いつもの自分の席に座り、体をだらーんと、机に伏せる。
「だらしないわね、私が今ここで、あなたの体を教育して起こさせてあげましょうか」
それは遠慮したいところだ。
大体、夕陽の教育は分かってる。
お仕置きだろう。
「いや、結構」
「あら、私の教育を受け入れないというのね。なら、仕方ないわ」
夕陽は諦め、優芽のところに行ってしまった。
何だ、もっと攻めてくると思ったのに、今日はあっさりなんだな。
夕陽も今日のために、力を蓄えてるのか。
まぁ、私もあまり余計な力を使いたくないので、とても助かった。
「麻友」
一息ついてると、今度は、会長が優しく落ち着いた感じで話しかけてきた。
私は、だらんとしていた体を起こし、姿勢をよくする。
「はい」
「ふふ、そんなに固くならなくてもいいのよ。今のままでいて」
「え、あ、はい――」
つい会長に言われると、気持ちを固くしてしまう。
今のままでいてと言われたが、会長に対して失礼なので、姿勢をよくしたまま気持ちを緩めた。
「今日はとても大変な日になるわ。きっと、けが人が出るくらい」
「…………」
「頑張るのはいいけど、無理して怪我をしてしまったら、元も子もない。だから、楽しんで頑張りましょう」
会長は私を心配してくれた。
その温かい言葉は、私の心を温かくする最高の思いだった。
「はい、お互いに、無理をせず頑張りましょう」
私も会長に言葉を送る。
すると、ニコっと会長は微笑んでくれた。
何だかんだで生徒会室で時間を潰したら、開会式が始まる時間となって、20分で終了した。
今は、もう、学校の生徒たちが緊張で敵を来るのを待っている。
「もうすぐで来るよ」
「どうしよう、怖いよ」
「ねぇ、どこかに隠れようか」
敵がもうすぐで来る中、生徒は、不安でいっぱいになっていた。
ある者は隠れようとし、ある者は身構えてる生徒もいる。
私は、校庭の真ん中で、夕陽と優芽と一緒にいた。
「さぁ、来るならかかってきなさい。私が話し合いで全て終わらせてみせるわ」
「夕陽、私はあなたの背中を守るわ。だから、夕陽は私の背中をお願い」
優芽が校舎側を見て、夕陽に背中を向けた。
「ふふ、ええ、任せるわ。でも、終わったら、私は優芽の前を狙うから、気を付けていなさい」
「え、それって」
優芽は頬を赤く染めた。
何となく、パートナーがいるっていいなと、私は思った。
「あ、来たよ! みんな気を付けて」
ある一人の生徒が、敵が来てることに気が付き、全校に聞こえるように教えてくれた。
みんな、身構えたり、逃げだすものもいる。
「来たね。夕陽、私とここでお別れだけど、負けないでよ」
「私たちが負けるわけないでしょ、それより、麻友も負けないように気をつけなさい」
「分かってるって。じゃあ」
夕陽たちに別れを告げ、私は、敵に向かって走り出した。
他の生徒も同じように向かってる者もいる。
「くっ……絶対に負けないから!」
そう言って、走った。
敵もこちらに向かい、二校の生徒は衝突した。
衝突し、逃げたり、向かったり、避けたりして一時間半後。
私は、敵の学校、純光女学院に来ていた。
今はほとんどの生徒が、私の学校に来ているので、あまりいない。
どうして敵の学校に来たのかというと、体力を回復するためと、数少ない生徒の尻尾を取るためだった。
「はぁはぁ、たぶん、隠れてる生徒もいるだろうから、小規模の所から攻めていかないと」
純光女学院の校舎に入った。
私が校舎に入るのは、これで、二回目。
最初に入ったのは、会長たちと、この学院の会長に挨拶をするためだった。
一回来ただけじゃ、全然、校舎の中を知らないから、とても困る。
「へぇ、私の学校とすごい違うんだ。って、当たり前か」
歩きながら、見学していく。
教室の中には入らないが、小さい小窓から見れるので、大体分かった。
「一階にはいないみたい。となると、二階」
二階へと続く階段の前でそうつぶやいた。
校舎は三階建てとなっており、とても広い。
ちゃんと通路を覚えてないと、迷子になりそうだ。
階段を上り、二階のフロアと到着した。
(絶対に一人か二人いるはず。そうだ、歩いてるから、気配が分からないんだ。なら、まず、止まってみよう)
歩いていては見つからない。
私は廊下の真ん中に立ち止まって、人の気配を感じ取ろうとした。
目を閉じ、耳を澄ませる。
「…………」
「ねぇ、誰も来ないよ。私、そろそろ出たいよ」
「駄目、あともう少し待って。さっき誰かいたような気がしたから」
聞こえた!
どうやら、数は二人らしい。
声のした方からすると、二つ目の教室だ。
私はそっと近づく。
(二人となると、挟み撃ちにされるかもしれない。でも、やるしかない!)
気持ちを落ち着かせるため、唾をのみ込む。
素早く行動し、素早く尻尾を取る。
これで少しでも遅かったら、どうなるのか分からないので、最初の一歩が全てだ。
(うん、行ける!)
私は教室の中に入ろうとする、が、急に後ろのドアが開いて、私はその別の教室に誰かに引っ張られてしまった。
「えっ、ちょっ」
そして、私が入った教室は誰かにドアを閉められ、口を押えられてしまった。
「んぅ、うぅ」
声を出そうとするが、手で口を押えられているので、話すことができない。
一体、誰なのか。
教室の窓にはカーテンで閉められていて、薄暗い。
相手の顔を見ようとするが、見られない。
「ふふっ、これはまた面白い子ネズミが入ったわね」
私の口を押えてる人物が喋った。
この声、聞いたことがある。
冷たく、怖い感じの声。
「んんっ」
私は声を何とか出そうとした。
「喋りたいのね、いいわ、離してあげましょう」
口から手が離れ、私は、振り返った。
すると、そこにいたのは、純光女学院の会長だった。
「はぁはぁ、か、会長さん」
「確か、高持女子の生徒会の役員にいたわね。新しく入ったとか」
「そ、そうですけど」
あまり純光の会長と話したことがないので、緊張した。
目が怖く、闇そのものみたいな感じだ。
光というと、もちろん、私の学校の会長だけど。
いや、そういってる暇じゃない。
「そう。あなたよく見ると、可愛いのね。ロープで体を縛って、ずっと見ていたい」
これは、まさしくSだ。
私はそう思った。
「嫌です、私はそんな趣味ないですから!」
どうして私の前に現れる人はSの人が多いのだろう。
夕陽もSだし、この会長もSだ。
でも、会長は夕陽と違って、少し怖さを感じられた。
夕陽のはそう、愛があるような、そんな感じ。
「残念ね、でも、経験していけばだんだん気持ちよくなってきて、たまらなくなるのよ」
「それは特定の人だけだと思います、私は、そんな快感に目覚めることはありません」
まったく、何を考えてるのか分からない。
少しでも多く敵の尻尾を取りたいのに、会長に、足止めをされていて何もできないのが困る。
今すぐにでも目の前の会長の尻尾を取りたいと思ったが、何だか、近寄りがたい雰囲気なので動けずにいた。
「ふっ、まぁいいわ。私はこれで失礼するわね。せいぜい、残りの時間を楽しみなさい」
「え、ちょっと待ってください」
会長が私の尻尾を取らずに、行こうとしたので、呼び止めた。
今は争ってるのだから、会長ならすぐに私の尻尾を取ると思ったのだが、何もしないのはおかしい。
「何?」
「尻尾を取らないんですか? 会長ならすぐに取れそうな雰囲気ですけど」
そう聞くと、会長は微笑を浮かべる。
「もしかして取って欲しいの?」
いや、そうではないんだけど、これでは戦ってる気がしない。
「違います。今は争ってるのだから、攻撃してこないのはおかしいなと思ってるだけで」
「そういうことね、私は、無駄な体力を使わないようにしてるの。体力を使う時はいじわるすることと勉強すること、後は、別の意味での運動ね。まぁ、普通の運動もするけど、それはとても短いわ」
何となく理解できたが、私は、あまりこの人と関わらない方がいいと思った。
「――それでも私の心は満たされない、どうしてなのかしら――」
「え?」
会長はとても悲しそうな目をしていた。
私は会長の意外な一面を知った。
「何でもないわ。さようなら」
そういって、会長は教室から出て行った。
後ろ姿はとても寂しそうで、何か、辛そうに見えたのは気のせいだろうか。
私は、気がかりなまま、教室を出た。
書いてる内にSキャラが増えてしまいました。
中々、難しいものです。
とにかく、夕陽と違うように書いていきますので、暖かく見守ってくれると嬉しいです。
次は後編頑張ります。