第9話「思いの形」
LHR、つまり、帰りの会が終わり私たちは生徒会室へと向かった。
遠慮なく扉を開けて入ると、またもや、机の上にたくさんの紙が置かれてある。
ある一枚の紙を手に取って見てみると、どうやら、資料とかではないようだ。
「あの、これは?」
事情を聞くため、会長に聞いた。
会長は困った顔をしてる。
原因はこれだと思うのだが。
「実はラブレターなの」
ラブレター、つまり、告白だ。
内容からすると、差出人も女の子、宛先も女の子だ。
「これ全部ですか?!」
手紙の量を見て、大体、50通くらいだろうか。
いや、もしかしてそれ以上あるかもしれない。
そんな数だった。
「ええ、全部私宛に送られてきたものよ」
やっぱり。
会長は人気だから、当然だろうと思った。
「すごいですね、私、女子高に入ってから一度も貰ったことありません」
優芽も驚いていた。
すると、隣で小さく夕陽はつぶやいた。
「――優芽に近づく邪魔な物は私が消去してるから当たり前だわ」
どうやら、優芽には聞こえてないみたいだが、私にはちゃんと聞こえていた。
隣で苦笑いをしながら、本題に入った。
「それで、会長はこれをどうしようと?」
「捨てるのは相手に失礼だから、返事を書こうと思うの。よかったら、手伝ってくれないかしら?」
会長らしい対応だ。
「はい、もちろんです」
「ごめんね、夕陽も優芽も手伝ってくれるかな?」
はとは二人に聞いてみた。
「いいですよ、私、頑張ります」
「優芽が手伝うっていうなら、するしかないわね。いいわ、してあげましょう」
問題なく二人も手伝ってくれることになり、生徒会は、会長のラブレターの返事を書く作業に追われた。
「はい、手紙の返事の例文はここに置いておくわね。これと同じでも構わないから」
「分かりました」
私は会長になりきり返事を書くのは無理なので、全て、例文通りにすることに決めた。
一方、会長は自分の言葉で書くだろう。
はと先輩は分からないとして、夕陽と優芽も例文通りに書くのかな。
手紙の返事を書く作業に追われ、三十分後、私は夕陽の所に行き内容を見てみた。
「どう、上手くできてる?」
「ええ、もちろんよ」
「見せてもらってもいい?」
「構わないわ」
ちらっと夕陽の返事の内容を見てみる。
すると、夕陽らしい内容で書かれてあった。
――ふふ、可愛らしい、お手紙をありがとう。あなたの気持ち確かに受け取ったわ、でも、私はあなたに答えられない。ごめんなさい。でも、夢の中ならいつでも会えるわ。その時に、一緒に遊びましょう。いっぱい遊んであげるわ。楽しみにしておくことね。さようなら、愛する我が校の生徒よ――
「あの」
「どう、上手くできてるでしょ」
上手くできてるというか、夕陽そのものの言葉で書かれてあったので、言葉が出なかった。
私は声で呼んだので、それを聞いた会長は、私たちのところにきた。
「夕陽――」
「何でしょう、会長」
「それ却下ね」
そういって、夕陽から返事の手紙を取って、席へと着いた。
「私だったらこう書くわ」
悪魔のような笑みでそうつぶやいた。
「いや、夕陽に宛てられた手紙じゃないから」
そう、つっこむと、私は自分の席に戻りまた作業を始めた。
(よし、私も頑張ろう。え~と、一年生、二年生、三年生。すごいな、こんなたくさんの人に愛されてるんだ)
一つ一つ丁寧に手紙を見て、心の中で思う。
お姉さまになってくださいとか、恋愛として好き、先輩として好きとかいろいろあり、様々だ。
(私がこの高校に来て手紙を貰ったのは、会長から屋上へ呼び出されたあの手紙が初めてだったな。それなのに、会長はこんなにたくさん)
会長から貰った初めてで一枚の手紙。
とても大切なもので、私は、すごく印象に残っていた。
そして、六枚目の手紙の返事を書こうとした時、隣にいる会長の様子が変なことに気が付いた。
(ん?)
何やら、私のことばかりチラ見してるようだ。
みんなは返事を書くのに夢中で気が付いてないが、私は、隣にいるのですぐに気が付いた。
そわそわしてないで、聞きたいことがあったら、聞いてくればいいのに。
私は会長に自分から聞いてみた。
「あの会長」
「えっ、な、何?」
「さっきからそわそわして、何かあったんですか? もしかして、私に聞きたいことでも?」
そう聞くと、会長はあたふた慌てた。
何だか、子供みたい。
その時、可愛いと思ってしまった。
「ええっ。えっと、その――」
黙り込んでしまった。
私はじ~っと見つめてみる。
「会長」
「――麻友は、こういった手紙を貰ったりしてないの?」
そう質問してくると、恥ずかしそうにした。
「はい、貰ってないですよ。手紙を貰ったのは、会長が下駄箱に入れてくれたあの一枚だけです」
何でそんなこと聞いてきたのか分からなかった。
でも、何か意味があるのだろう。
私はあまり深く聞かないようにした。
「そう、よかったわ」
ふぅ、と安心したようだ。
何だったんだろう。
私は首をかしげた。
「会長、返事を書くのが終わりました」
「もう? 早いわね」
「はい、書くのは大好きですから」
どうやら優芽が終わったようだ。
私ものんびりしていられない、一生懸命、書いた。
「あら、なら、私のを分けてあげるわ。まだ結構あるのよ」
夕陽は優芽に残りの手紙を分けた。
すると、優芽は少し嬉しそうに、困っていた。
「で、でも、これは夕陽の分だし」
「遠慮なく受け取りなさい。それとも、私からのが嫌なのかしら?」
微妙に頬を赤らめてる優芽。
またSMか。
「嫌じゃないよ、頑張るね」
そして、また、手を動かす優芽。
いつものことなので、私は気にせず、自分の分を頑張った。
みんなで作業を始めて、二時間後。
ようやく終わりに近づいてきた。
「終わりました」
「ご苦労様。みんなのおかげで、全部の手紙に返事を書き終えたわ。どうもありがとう」
会長は感謝の気持ちを表し、礼をした。
「そんな顔を上げてください、会長」
「そうですよ、私たち、手伝えてすごく嬉しかったんですから」
優芽の後に、夕陽は言った。
「そんなに追いつめられるのが好きなのね」
「ちがっ、そうじゃないってば」
また嬉しそうにする優芽。
「ふふ、とにかく今日はお疲れ様。もう帰ってもいいわよ」
会長から帰ってもいいと許可をもらい、帰り支度を始める。
すると、会長に話しかけられた。
「麻友、今日はありがとう。すごく助かったわ」
「いえ、私たち生徒会のメンバーですから。会長のためにするのは当然ですよ」
「嬉しいわ、やっぱり、麻友を生徒会のメンバーに入れて正解だったわね。来てくれてありがとう」
「そんな、お礼を言われるようなこと私は」
照れてしまった。
「ふふふ」
すると、会長はすごく楽しそうに微笑んでくれた。
その笑顔は、私も、元気になれる最高のものだった。