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6-2-3.任務伝達【椎名乃恵】

「すんません。水しかないんで」


 そう言って江里がコップに水を入れて持って来た。


「別に何でもいいわよ……」


 先ほどのショックも拭えぬまま、部屋に入りキッチンにあるテーブルの前に腰掛項垂れる。

 視線だけを泳がし部屋を見回すと、結構広くていい部屋だ。だが、殺風景で余計な物があまりない。整理整頓されているというのもあるのだろうが、部屋中散らかって足の踏み場面積も少ない私の部屋とはえらい違いだ。


「それで仕事ってなんスか。俺と乃恵ちゃんが組んでやるってのは聞いてるんですけど」


「の、乃恵ちゃん……?」


 こめかみにピキッと血管が浮かんだのが自分でも分かった。

 なぜ初対面の相手に、ましてや年下のガキにちゃん付けで呼ばれなければならないのか。小一時間ほど問い詰めて説教してやりたい気分だが、今はそんな気力もない。


「あ、別の呼び方の方がいい? 乃恵っち? 乃恵ぽん? 言ってくれればそれで呼ぶけど?」


 だが、ありがたい事に他の呼び方の選択肢が示された。そこに私の求める答えはなかったが。


「『椎名さん』と呼びなさい……気安く下の名前で呼ぶんじゃぁない……見た所あんた私より五つ位年下でしょうが……」


 今できる限りの鋭い目で睨みつけるも、江里はそんなもの気にする風もなくこちらを見ている。

 どうもつかみ所のない少年だ。


 しかも何か、所々タメ口じゃないかコイツ……。組織に属している以上、コイツにも師匠的なのや上司的なのがいると思うが、一体誰の元で育ったんだ……小一時間(以下略。


「乃恵ちゃん……任務に年の差なんて関係ないさ。そんな小さな垣根を越えてこその協力し合うパートナーでしょ?」


「乃恵ちゃんって呼ぶなつってんだろうが!! 任務には能力的なもので年の差は関係ないかもしれないけど、接し方には礼儀とかそういうもんがあるでしょうがっ!」


 私がそう正そうとするも、江里はヘラヘラと笑っているだけである。からかわれているのであろうか。


「そんな事よりさ、しょうもない言い合いしにきたんじゃないでしょ? 本題入ってよ本題」


 なぜか私が悪いみたいになっている気がする。釈然とはしないものの、江里のいう事はもっともである。私は仕事の話をしにここへ来たのだ。


「あ、うう……うん、そうね……」


 何とか怒りを抑えつつ返事を返す。

 江里が持って来た水を少し口に含み、叫んで渇いた喉を潤す。


「で、内容はどんなのなのさ。俺ってば、まだそんなに任務についたことないからよくわからなくて。師匠についていってそれっぽい事はやった事はあるんだけど」


 確かにこの年齢じゃぁ、大した任務についていないだろう。

 しかし誰だ、コイツの師匠って誰なんだ。月紅石能力の使い方とかそれ以前に、まずは目上の者に対する礼儀と礼節を教えなさいよ。


「あのね、今回の内容は……」


 今回の内容は隣県にある火徒潟町ひとがたちょうの屍霊調査である。あくまで調査。戦いは主ではない。最近、火徒潟町に蜘蛛の様な姿をして着物を着た、複数の腕や足を持つ気味の悪い化物が出没していて人を殺していると言うのだ。目撃者も出ているとの事で、私の所まで調査の仕事が回ってきたのだ。


 調査だけ。屍霊の殲滅は含まれていない。それがなぜかと言うと、火徒潟町に家を構えている〝白鞘家〟のせいだ。白鞘家は火徒潟町の有力者であると同時に、私や江里が属している組織の上層部にも絡んでいる。上としても、白鞘家から連絡が入った訳でもない屍霊と思わしき存在に勝手に手が出せないと言う訳だ。


 目撃者は白鞘家の使用人であるという話であったが、使用人は組織には一切関与していない。調査と言ってもすごくやりづらい状況になっている。


「と言う訳で、一応来週の頭にでも行って来いって事だから準備しておいてよね」


 そう言う私の言葉に、江里の顔はあまり乗り気では無さそうだった。


 ………………。

 …………。

 ……。

 バタンッ!


 と、江里との話を終えて勢いよくドアを閉める。物に当たるのはよくないが、どうも江里は自己中心的な所がある様で、言葉の端々で私の神経を逆なでしてくる。


「なにが部活の合宿と日付が重なってるよっ! 組織の任務と部活の合宿、どっちが大事だってのよっ!」


 収まりきらない怒りからか心の声が口から漏れる。

 結局、私はとりあえず一人で火徒潟町に向かい、前もって手配していた白鞘家の倉庫整理のバイトで潜り込む事になった。組織の末端で顔もあまり割れていない私だから出来るのだ。しかし、江里は合宿の合間に見に行くからとか適当な事を言っていた。


「あーもう、イライラする……」


 元々地味にイライラする日だというのに、無理してきたせいもあってか余計にしんどくなってきた。

 イケメンだからと言うから期待してきたのにこの結果。なんて日だっ!


「あー、私も長期休み欲しい……」


 街行く人々を眺めていると、学生と思わしき人が多い。学生は今夏休み真っ只中だ。連休なんていつ頃から取ってないだろうか。大学に通ってた頃も訓練訓練で休み潰されてたしなぁ……。最近もなんだかいいように雑用任されてるだけの気がするし。


 あぁ、彼氏欲しい彼氏欲しい。疲れた私の心を包み込んで癒してくれる彼氏欲しい……。忙しくなけりゃペットでも飼うのに……。チクショー……。


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