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6-1-4.小言【山田茄々子】

 父との短い会話も終えて自室に戻る。鞄をベッドの横に放り出すと、電気もつけずにそそくさとパソコンデスクの方に向かう。霧雨学園に入学してから父が買ってくれたものだ。パソコンくらい使えないと将来仕事で苦労することになるとの事でだったが、ほぼインターネットくらいでしか使っていない。

 たまに流れてくる広告で、面白そうなゲームをいくつかダウンロードしてみた事もあるが、どれも他人との協力プレイに重きを置いたゲームで私には合わなかった。


 インターネットのブラウザを開き、最近良く見るページを開く。


「今日は更新なし……」


 『まきなの小言』という都市伝説系の怪人怪物をまとめたブログサイトだ。と言っても、有名な都市伝説の中にオリジナルで考えたものも混じっている。恐らくこのブログの管理人が描いたであろうおどろおどろしい絵とともにその解説が書かれているのだ。

 ボソリと呟きながら画面を下にスクロールしていく。


 目玉狩り、赤いチャンチャンコ、赤い部屋、二頭の鬼人……。こういった絵を描くにも時間がかかるし、最近開設されたブログという事もあり、まだ書かれている記事数は十数件と少ない。

 ブログには特に奇抜とも言えない気味の悪い絵の下に解説が書かれている。私はもうこれを何度も読み返した。本当にこんなモノが存在しているのなら恐ろしいことであるし、いて欲しくないとは思うが、本当にいたらちょっとワクワクするなと思う自分もいる。不思議なものだ。


 そんな感情からか、次はどんな怪異が紹介されるのだろうと毎日一回は覗き込むようになっていた。


 デスクのライトを点け、伯父さんに貰った家系図と写真を引き出しから取り出す。そして、ガサガサとパン屋の袋からサンドイッチを取り出し封を開けて租借する。眺める家系図を見るだけで気分が滅入ってきた。

 そして、葬儀の時に聞こえた会話が頭に蘇ってくる。


『茄癒がもういないからと言って、白鞘の家の事を蔑ろにしているのではあるまいな』

『そうですわよ。あなたはともかく、そちらの茄々子さんは白鞘家と直系で血縁が繋がってるんですからね。一応』

『すいません、娘には後でしっかりと……』


『まったく、この年になるまで親族の名前も覚えてないなんて、教育の程が知れてますわね』

『申し訳ないです……弁解のしようも……』


『だから俺は反対したんだよ。白鞘家長女と言う立場がありながら、半ば駆け落ち同然で家を出て行きやがって親父は半ば許していたみたいだが、俺等兄弟はだな……』

『ホント、不潔だわ……この親にしてこの娘ありという感じですわね』

『……』


『影が薄くて存在感もないなら、そのまま私達の視界に入らないでいただけるかしら』

『こうして呼ばれてるだけでも有難く思えよ』

『それに引き換え、ウチの拓海と青葉は……ふふっ……』

『やめておけ、比べるだけでも可哀想だ。ははは……』


 祖父の葬儀の時だ。父があそこまで頭を下げている所を見るのは初めてだった。よほど悔しく我慢していたのだろう。その時の父は握る拳が小刻みに震えていた。

 父とは普段から顔をあわせる事が少ないのでそう言う場面に出くわさなかったと言うのもあるかもしれない。だが、家に来た客人に頭を下げられている所なら何度か見た事がある。先生、先生と呼ばれて頭を下げられていた。だから、父が頭を下げる姿など想像もしていなかった。


 母は私の記憶によると、少なくともこの家で暮らしている間は幸せそうだった。なのになぜあそこまで言われるのだろうか。


 あれは恐らく長男夫婦。もう二度と会いたくないと思っていたが、また会わなければならない。ここ数日、一生分の溜息は吐いたのではないだろうか。それだけ気分が落ち込んでいる。


 いっそのこと、やはり部の合宿も親戚の会合も、仮病でも使って休んでしまいたい。

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