6-1-2.親戚は嫌い【山田茄々子】
会議も終わり、今日はこれにて解散と言う事で部室を出る。もう既に合宿先が部長の中で決まっていたという事もあり、いつもより早い解散となった。残って合宿先での見学ルートなどを相談する部長と副部長、そして榎本先輩を除いた部員は、皆部室を後にする。
「山田先輩」
部室を出て新校舎への渡り廊下へ足を向けて歩いていると後ろから声をかけられた。
振り向くとそこにいたのは紅谷さんだった。彼女は前髪が長く顔が少し隠れてしまっているせいもあってか、いつもどういう感情なのかが読み取りにくい。口元も不気味にニヤついている事が多いので尚更である。
「何? どうかした……?」
「その、私は火徒潟町でも嬉しいです。それに、夏休みは丁度、火徒潟人形博物館で呪いの人形展をやるって聞いてましたので……その……」
「そう……」
「……」
元々私も紅谷さんも口数の多い方ではない。紅谷さんは私に対してちょくちょく話しかけてくるし、私に対して好意的な印象を持っているというのは感じられる。
だが、苦手と言う訳ではないのだが、口数が少ないというのもあって面と向かっていてもこうして会話が止まってしまう事がしばしばある。
「あ、あの、金田の言う事は気にしないでいいと思います。あいつはお金の事しか頭にないから」
「……心配しなくても気分を害したりなんてしてない。それに、元々私も火徒潟町に行くのは乗り気じゃなかったから……」
私がそう言うと紅谷さんは意外そうに視線を上げた。
私が宿を取ったのに、その張本人が乗り気ではないというのだから当然だろう。
「そうなんですか? 部長の説明だと……てっきり山田先輩が提案したのかなと」
あの感じだと他の部員にそう取られてもおかしくないだろう。だが、いちいち一から百まで説明するのも面倒臭い。
「あのね、私の父の知り合いが……火徒潟町で民宿を経営しているの。それが部長にバレてしまって……」
実の所、少し前に部長や榎本先輩と実家の話をしている時にポロッと口からこぼしてしまったのだ。
火徒潟町といえば私の実家の事もなのだが、いわくつきの場所や心霊スポット的な場所が多いのだ。
そこに目をつけられたという訳だ。
「なるほど、それで……。でも、民宿となると大部屋ですかね……先輩方と同じ屋根の下で夜を明かせると思うと、今から胸が高鳴ります。ウフ、ウフフ……」
紅谷さんはそう言うと、不気味な笑いを浮かべつつ「では、お先に失礼します」と一礼して軽い足取りで立ち去っていった。私が言うのもなんだが、なんともよく分からない娘である。
紅谷さんは楽しみだと言ってくれていた。その事に関しては素直に受け止めて私自身も嬉しく思う。
だが、この合宿に参加するかどうか迷っている自分もいる。私は親戚が大嫌いだからだ。
実はと言うと、合宿の日取りと親戚会合の日が一部重なってしまっている。今回の会合は亡くなった祖父の資産的価値のあるもの以外の遺産相続に関してと言う事で、一族全員の参加、つまり私も余程の事が無い限りは参加しなければならないと父から聞いている。部長にはその事を話して、途中少し抜けるという了承は取ってあるが正直乗り気ではない。
思い出作りの為に合宿に参加したいという気持ちはあるが、実家のそれがあるので行きたくない、親戚の会合ごと仮病でも使って休みたいというのが本音である。
最近そのせいで、ずっと気分がモヤモヤしている。
私は一族の長女の娘だ。一族直系である母はすでに他界しているし、一族に血縁のない父だけに参加させる訳にもいかないと言うのは分かっている。でも、私は親戚が嫌いだ。
特に私自身が嫌な事をされた訳でもない。亡くなった祖父も私の事は良くしてくれた。
でも、父と母が駆け落ち同然で結婚した事もあり、一部の親戚達の視線は少し冷たい。
そんな事もあって私は親戚が嫌いなのだ。