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6-6-2.おいてけぼり【田中覚】

 おかしい、おかしいぞ。

 確かに広鐘に「トイレに行くからちょっと待っててくれないか」と言ったはずなのに。

 広鐘も確かに「早くしてねー」と返事をしてきたはずだ。

 それなのになんだ。確かに大きい方で少し時間は長かったかもしれないが、どうなっているんだ。


 辺りを見回すも、榎本先輩も広鐘も金田も姿が見えない。

 もしかして、置いていかれたのか。最近思うのだが、部内での俺の扱いがちょっと酷くないか。いくら俺が寡黙でクールなイケメンだからと言って、そんなに恥ずかしがる事ないだろうに。


 そう思いつつ、あまり整備のされていない林道を下っていく。来る時は特に何も思わなかったのだが、昼間であると言うのに寂れた神社跡というだけに一人でいると気味が悪い。風が吹き木々が揺れる姿を見て徐々に怖さがこみ上げてきた。


 早く追いつかねば、バスに乗るのが一本でも遅れてしまえば一大事だ。


「くそっ、何で俺は部員の電話番号を誰一人聞いていないんだ……SNSだって部のグループがあってもいいはずなのに……」


 思わず声が漏れる。何か悲しくなってきた。一人でも聞いておけば何とかなったかもしれないのに、女子に電話番号を聞くという勇気の要る行為を怠ってしまったが為にこの有様だ。女子の方が多い部活で合宿だなんて、密かに期待を募らせていたのに、こんな事なら先輩女子の声かけにホイホイついて行ってあれよあれよと言う間に入部なんてするんじゃなかった。


 虚しい想いを胸に滑らないよう慎重かつ足早に歩いていると、ふと脇にある竹薮からガサガサと音がした。今まで聞こえてきていた、風に揺られる竹薮の音ではない。何かが竹に当たって揺れ聞こえてきた音。そんな感じであった。


「ひっ」


 一人で心細く歩いている時に突然聞こえてきたものだから吃驚してしまった。

 野生動物か何かだろうか。何か妙に興味をそそられ、見てみたいという衝動に駆られてしまった。

 ソロリ、ソロリと音のした方に慎重に近づき、覗き込んでみる。

 距離がそこそこあって対象が何であるかが認識できない。もう少し近づいてみようかと足を踏み出すと、足元に落ちていた乾いた竹の枝をふんずけ、パキッっと言う音が鳴り辺りに響いてしまった。

 すると、俺の存在に気がついたのか、俺が目を向けた場所に蹲っていた野生動物らしき影が、カタカタと妙な音を鳴らしながら素早く飛び跳ね遠くへ逃げていってしまった。


 猿だろうか。こんな所に猿がいるのか?

 いや、猿にしては妙にでかかったような気もするし、格好も猿の毛皮と言う感じでもなかったような……。

 一瞬の事でその姿を捉えることは出来なかった。しかし、自分に外をなす存在ではなかったと分かるとどこかほっとした。


 気分が落ち着いたのも束の間であった。その逃げた影が蹲っていた場所に問題があった。

 人が倒れている。見た所、男性だ。

 遠目で見ている感じには動いている気配がない。生きているのだろうか。


「あ、あの~……大丈夫ですか~……?」


 恐る恐る近づいてみる。

 ピクリとも動かないその人物に近づくと一つの異変に気が付く。男性の衣服が真っ赤に染まっているのだ。

 そして、五メートル程の距離まで近づいた所だ。気付いてしまった。見てしまった。


「ひ、ひえあぁぁわぁぁぁぁ……」


 思わず情けない声を出して腰を抜かしてしまった。


 男性は腹から胸にかけて着物ごと体を引き裂かれ、内臓を引きずり出されていた。

 それが作り物などではなく、本物の人間の死体である事は見て直に分かった。

 そしてそれはやはり知っている人物であった。


 とてつもなく恐ろしい物でも見たかの様な恐ろしい形相で目を見開き倒れているその人物は、旅館の番頭さんであった。



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