6-6-1.背後霊【榎本果歩】
「あーっ、暑い暑い暑い~! 何でこんな暑い日に真昼間ッから心霊スポット巡りなんてしなきゃいけないですかぁっ! 私も博物館の方にしておけばよかった~」
そう言って愚痴をこぼしているのは後輩の金田だ。そんな金田を見て広鐘は呆れ返っている。
今現在私達は、火徒潟町に点在する心霊スポットをいくつか歩いて巡っている。
レンタル自転車でもあれば楽だったのだろうが、この街にはそういった気の利いた物はなかった。
私は心霊スポット巡りをするなら夜に回った方が雰囲気が出るのではと言う提案はしたのだが、会議の時に柴島先生から「夜に出歩くのは教師として見過ごす事が出来ない」と言われたのと、山田さんの家の事情も汲んで、活動は二手に分かれてやろうと言う事になってしまったのだ。
今日はこういった部の活動が中心だが、明日はバーベキュー場でバーベキューの予定だ。明日は家庭の事情で合宿から抜ける山田さんには悪いが、今日と言う日を耐え忍べば明日は楽しめるだろう。
「あのねぇ……当初はみんなで博物館へ行く予定だったでしょうが。アンタが心霊写真撮りたいとか言ってダダこねるからこうなったんでしょ……つき合わされてる私達の身にもなりなさいよ……」
広鐘の的を射た発現に金田も少し大人しくなる。
「うぐっ……そ、それは、オカルト研究部としてそれっぽい活動を入れ込んだ方がいいと思ったから提案しただけで……っっ」
「どうせそれで金儲けの一つでもしたいとか考えてたんでしょ……」
二人ともお互いの顔を見ることもなくブツブツと言い合いをいている。
照りつける日差しの中、そんなやり取りを見ているとこちらまで溜息が出てきた。
部長がいればもうちょっと大人しいのだろうが、いないとコレだ。金田のこういう所があまり好きではない。
静かに寡黙に文句の一つも言わずに、背後霊の様に後方を守りながら付いて来ている田中君を見習って欲しいものだ。
そう思い後ろを振り返ると、広鐘と金田の姿しか見当たらなかった。
「あ、あれ? 田中君は?」
私のその言葉に二人も立ち止まり辺りを見回す。だが、私達の見える範囲にその姿は映りこんでこなかった。
「そう言われれば……あいつ無口だから気がつかなかったわ」
金田がだるそうに遥か後方を眺めている。だが、田中君が姿を表す気配は微塵もなかった。
「ちょ、ちょっとちょっと。どこかに置いて来ちゃったって事? バスとか乗り遅れてたらかなり離れてるよ!? 二人とも田中君のスマホの番号とか知らないの?」
そんな私の言葉を聞いて自身のスマホ画面を眺める二人。
およそ一分後、二人は無言で此方に顔を向けた。
「あ、あんた等……」
「そう言う榎本先輩だって知らないんじゃないですか」
「い、いや、広鐘さん、あんたは副部長でしょうが。部員の電話番号くらい」
「まぁ、どこではぐれたんでしょう……戻るのもだるいし、ちょっとそこのコンビニでアイスでも食べて待ちませんか」
広鐘がそういい指差す先には一件のコンビニがあった。
正直私もこの暑さの中、来た道を戻るのはしんどさを感じる。巡る場所も後一箇所だと言うのに、旅館に戻るのが遅くなってしまう。
「そうね……。ちょっと休憩も兼ねてそこで体冷やそっか。ルートの地図は田中君も持ってるはずだから、田中君もルート通りに歩いてるなら追いつくと思うし」
流石に暑さとだるさと面倒臭さで私も疲れてきた。
「そうしましょう! どうしても駄目なら白石先生に電話して連絡とってもらえばいい事ですし!」
金田はよほど暑かったのか、そう言うとコンビニに向かって駆け出して行ってしまった。
「アイツはあのまま消えてしまえばいいのに……」
そしてぼそっと呟く広鐘の冷たい言葉が耳に入ってきた。




