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6-4-3.忠告【山田茄々子】

「茄々子様、来てらっしゃったんですか……」


 そう言う巻街の声は先程より少し落ち込んでいるように聞こえた。

 ここから親族の話などされるなら長くなるかもしれないし、あまり部活の人には聞かれたくない。

 部長には先に言っていて欲しいと言って、部員を連れて場を離れてもらった。


 そんなオカ研部員達の背中を見送ると、巻街が此方に顔を向け口を開き始めた。


「茄々子様、悪い事は言いません、すぐに霧雨市にお帰りになられた方がいい」


 何を言っているのか分からなかった。

 送られてきた手紙の筆跡からして、私と父を遺言開封の会合に呼び出す手紙を書いたのは巻街だったからだ。


「どういうことですか……?」


 正直、本音を言うならば帰れるものなら帰りたい。

 だが、部活の合宿の事もある。会合に出るなと言うだけの事ならばまだしも、街を出ろと言うのは素直に受け入れれるものではない。


「さっきチラッと聞こえてたんですが……平八様の人形の件です」


 どうやら盗まれた生人形・死人形について巻街は何か知っている様だった。

 私がその話に耳を傾けていると、阿武隈と長宗我部も話をやめて視線を此方に移していた。

 だが、二人ともどこか呆れたような表情をしている。


「死人形は分かりませんが、生人形が化物に取り憑かれて人を殺しておるんですよ。先日も白鞘家に出入りしている業者の人間が一人殺されまして……」


 それはとても「はいそうですか、なら帰ります」と言えるような話の内容ではなかった。帰りたいのは山々だが、父にそんな話をして「それなら仕方がない。会合には出席しなくていい」等と言って貰える様なものではない。巻街はなぜそんな絵空事のような話を私にするのだろうか。

 そんな突拍子もない話を聞いて黙ってしまった私を見かねてか、受付から此方を見ていた阿武隈が声を上げた。


「こら、巻街さん、アンタまた変なこと言って。いくら白鞘の人形が盗まれたからって、そんなうわ言を誰も信じるわけないでしょうが」


 しかし、そんな阿武隈の言葉に巻街も黙っていなかった。

 今までの怯えたような表情から一変、怒りを露わにする。


「なんだと!? 俺は間違いなく見たって言ってんだろうが!! アレは桐乃様の呪いなんだよ! 呪いはまだ続いているんだ……っ! 桐乃様はまだ白鞘家に復讐するつもりなんだ!!」


「あのねぇ……」


「……そうだ、そうなんだよっ! 死人形だってきっと龍乃丞たつのじょう様の……! だから俺は……あんな人形作るの反対だったんだ……遺骨や遺品を使うなんてっ」


 桐乃と言うのは私の祖母だ。だが、私は会った事はない。三十年以上前に亡くなっているからだ。同じく名前の出てきた、白鞘家の三男である龍乃丞を生んで間もなく亡くなったらしい。その龍乃丞も、すでに故人である。若くしてなくなっていると聞いた。


「そんな事言って、製作してる時には平八さんには反対だとか言わなかったんでしょ?」


「ぐっ……それは……弟子ならまだしも、使用人である俺がそんな口出し……」


 図星をつかれて、阿武隈から視線を逸らし黙り込む巻街。

 みるみるうちに表情が曇っていく。


「あのな、アンタが見たってのも夜中で外灯の薄暗い灯りの中でのことだったんだろ? 野生の動物かなんかと見間違えたんだろ。警察も熊の仕業だろうって、今、猟友会が貴駒で山狩りをしてるじゃないか」


「熊なものか! 俺は目撃して逃げ帰っちまったが、長宗我部は遺体の第一発見者で状態見たんだろ!? お前、アレが熊の仕業だと思うのか!?」


「まぁ、確かに酷かったかも知れんが、動物のやることだし……俺等には分からんよ。それにな巻街さんよ、実際のところは白鞘家の人には実害でとらんだろう。アレから何日も経ってっけど、今のところ出入りしとった業者のモンが一人殺されただけでよ」


「行方不明者も何人か出とるだろう!」


「アンタの所の弟子か? ありゃあ、どう見ても穣治さんと梅子さんの指導が厳しすぎて逃げたんだろ」


 そんな長宗我部の言葉に阿武隈もウンウンと頷いている。


「もういい! お前等じゃぁ話にならん!! あれは実物を見た俺にしか分からんのだ!」


 必死になる巻街に、二人は呆れて困り果てている。

 私もどうしていいか分からなかった。

 そして巻街は平静を取り戻したような顔つきでこちらを見ると、静かに喋り出した。


「ともかく茄々子様、私は生前の茄癒様の優しさに何度も助けられました。だからこそ茄癒様の忘れ形見であるあなたにだけはお伝えしているのです。会合に出席しなければならないのは私も重々承知しておりますゆえ、明日の会合が終わりましたら早々に帰られた方が宜しいかと思います」


「……はい……」


 私の戸惑ったような小さな返事を聞くと、巻街は少しバツが悪くなったのか足早に博物館を後にしてしまった。


「ゴメンね茄々子ちゃん。普段はあんなに声を荒げる人じゃないんだけど……何かこの話になるとすごくムキになってね」


「いえ、私は別に……」


 普段大人しい人があそこまで感情を露わにすると言う事に、私も巻街の話を一から百まで信じる訳ではないが、何かあるのではないかと思ってしまった。

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