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6-4-2.古ぼけたプレゼント【山田茄々子】

「ほう、夏休みの合宿にこんな近場の街へねぇ。また珍しい」


「まぁ、近い方が何かあった時にさっと帰れますし、うち等の部活はレクリエーションみたいなモンですから」


 部長と長宗我部ちょうそがべはすっかり打ち解けて話をしている。二人とも人見知りはしないタイプだし、そうなるのも必然だろう。

 私はと言うと、相手が知っている人物であっても躊躇してしまう。


「しかしまぁ、ちょっとタイミングが悪かったわね。もうちょっと早かったら平八先生の大型人形見れたかもしれなかったのに」


「んだなぁ。ありゃあ見ごたえあったのにな。それにオカルトってと、ちょっとそれっぽい君らの活動にぴったりな材料も使われたらしいしな」


 二人の会話に受付の阿武隈あぶくまが口を挟むと、それに長宗我部も同意する。もうちょっと、とはどういうことだろうか。そう思い受付の横に張り出されていたポスターに目を向ける。


『白鞘平八作 生人形・死人形 展示期間 七月一日~八月三十一日迄』


 と書かれていた。


 今日は七月二十九日だ。

 このポスターに記載されている人形の展示期間には十分間に合っているはずだ。なのに『見れたかもしれなかった』と言うのはどういう事だろうか。


「今は見れないんですか?」


 部長も同じ事を思ったのか、二人に質問をぶつける。


「ああ。ちょっと前に人形が盗まれてな。でかい人形だったのにどうやって盗んだか分からねぇって警察の人らも頭抱えてたんだが……展示してた部屋の壁もブチ抜かれてよ。そりゃあ酷い有様だ」


「そうなのよ。それで展示室は今は部屋ごと立入禁止になってるのよ。犯人もまだ捕まってないし……」


 私は生人形と死人形に関しては製作過程の物を一度見た事がある。確かに大きく、一体一体の大きさは人の大人と同じくらいの大きさだった。それを二体も盗んでまだ犯人も見つかっていないとはどうなっているのだろうか。


 そんな話をしていると、館の事務所のドアが開き、一人の男性が姿を現した。

 これもまた知っている人物だ。白鞘家で使用人をしている巻街辺平太まきまちへんぺいたという人物であった。


 この人は白鞘家の人には愛想いいのだが、その他の人には比較的無愛想である。博物館の客である私達に軽いお辞儀の一つもしないのもその現われだろう。

 巻街は事務所から出て来ると、私達の方を見ることもなく手に持っていた包みを受付のカウンターに置き阿武隈に話しかけた。


「おい、これどうするんだ。荷物の搬入で棚の整理してたら奥から出てきたぞ」


「あら、こんなのあったかしら」


 巻街が差し出した包み袋をしげしげと見つめながら阿武隈が言う。

 袋は少し埃を被っていて少し古そうなものであった。


「十二年前の日付でプレゼント用と書かれた箱に入っていたが、もう取りに来ないんじゃないのか。白鞘の製作になっているが、中身を少し見た所白鞘人形でもないみたいな感じだったが。宛名は書いてあるが、十二年も前のものじゃぁ……」


「うーん、ちょっと記憶にないわねぇ。でも、十二年も取りに来てないって事はいらないんじゃないかしら。そんな古い物誰も取りにこないだろうし、依頼主ももう覚えてもないでしょ。何でもかんでも倉庫に入れっぱなしにして置いてもかさばる一方だし……巻街さん、捨てるか引き取るかしてくださる?」


「まぁ、そちらがそう言うなら……」


 そう言い巻街が包み袋を手に撮ろうとした時、長宗我部の待ったの声が入った。


「まてまてまて、まだ誰が作った物かもわからんだろ。ちょっと気になるしよ、もうちょっと置いておこうぜ。台帳とか調べたらどういう経緯のモンか分かるかも知れんしよ。何も調べねぇで捨てるってのも忍びねぇだろうさ」


「あのねぇ、長さんがいつもそう言うから倉庫がいっぱいになって物の置き所が……」


 そんな二人の会話を見ていると部長が此方に振り向き小さく声をかけてきた。


「さ、私達はそろそろ見学に行きましょうか。いつまでも受付で油売ってる訳にも行かないしね」


 そんな言葉を聞いて頷く部員一同。

 だが、そううまくは行かなかった。今度は巻街が私の姿に気がついて此方に歩み寄ってきた。

 しかし、その様子は普通ではなかった。阿武隈等と話している時とは違い、どこか焦って怯えているような視線。どうしてそんな目をするのかが私には分からなかった。

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