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6-4-1.火徒潟人形博物館【山田茄々子】

 旅館で街を巡る準備と少しの自由時間。そして昼食をとり終えて部の活動に移る。

 外に出ると、夏の日差しが照りつけ暑さが感じられる。元々そんなに体も強い方ではないので、帽子を持って来ればよかったかと少し後悔しつつも、グループを先導する部長の後を付いていく。


 火徒潟町ひとがたちょうは霧雨市と違い、外であまり人影を見かけない。夏休みだというのに人の声よりも蝉の鳴き声の方が多く耳に入ってくる。

 蝉の鳴き声も、夏の日差しもどちらかと言うと好きではない。私にとっては、あまり好ましくない季節だ。


「納得できない、納得できないわ……なんで金田が山田先輩と同じ部屋なのに私は……」


 そんな中、不気味な柄の扇子で自身を扇ぎ、簾の様な前髪をバサバサと暴れさせている紅谷が呪詛でも呟くかのようにブツブツと何か呟いている。

 そんな紅谷を見て部長は呆れ顔である。


「ほーら紅谷べにやん。女子の部屋割りはくじ引きで決めたんだからしょうがないでしょ。いつまでもブツクサ言ってないでしゃきっとしなさい。シャキッと」


「だって……だって私は山田先輩と夜を過ごすことだけを楽しみにこの合宿に参加したのに……こんなことなら男子共みたいにサボれば……私、楽しみで昨日あまり寝れなかったんですよ。ほら、目にもクマが……これは誰かの陰謀を感じる……クジを作った田中が怪しいわ。そうよ、アイツは悪霊に取り付かれてるのよ。だからあんなにも影が薄い……」


 紅谷の方を見ると、前髪の隙間から見える目の下には確かにクマがある。だがそれはいつもの事だ。今日に始まったことではない。


「そんな事言わないの。紅谷べにやん、人形博物館も楽しみにしてたんでしょー? これから行くんだからそんな辛気臭い顔しないのっ。ねー、山田さん」


「えっ……あ、はい……」


 急に此方に振られても困る。

 チラッと紅谷を見ると、私の方を見て少し申し訳なさそうな顔をしていた。いや、暑さでだれているだけか。


 そう、私達はこれから火徒潟人形博物館へと向かうのだ。火徒潟町にある数少ない観光スポット。心霊スポットは多いらしいのだが、観光スポットは少ないのだ。その数少ない観光スポットですら呪いの人形展なんてモノをやっているものなのだから、そういう街なのかと思ってしまう。


 現在はあまり大所帯で行動してもという事で、二手に分かれて行動している。私のいる博物館へ行くグループは、私と部長、紅谷、江里の四人だ。後の四人は近場の心霊スポット巡りをするらしい。白石先生はと言うと何かあった時の為に旅館で電話番。留守番だ。


「部長ー、まだっすかー? もう暑くて死にそうっすよー」


 江里がシャツの胸元をパタパタとさせて中から熱気をかき出している。少し歩いただけなのに顔からも汗をダラダラと流して、私達女子三人とは大違いだ。


「もうすぐよ。来る時にもバス停に下りたんだから、どのくらいか分かってんでしょ」


 そして、旅館から出て十分程歩いた所だろうか。火徒潟人形博物館に到着した。

 到着した時にも見たのだが、誰がデザインしたか分からない珍しいデザインの建物。見ていると不思議な感覚に囚われてしまう。


「とうちゃーく」


 部長はそう言うと足早に館内へと入っていく。素振りは見せなかったが、部長もこの暑さに参っていたのだろう。そんな部長の後を追い、私と紅谷と江里も館内へと足を踏み入れる。

 自動ドアの隙間から冷気が流れ出てくる。人形の博物館と言うこともあって、冷えるような涼しさと言う訳でもなかったが、今の私達にとってはそれでも十分な涼しさであった。


 部長が受付で入館チケットの購入をしている。受付をしている女性は私も知っている人だ。だが、よく喋る人であまり得意な人でもない。気が付かれない様に背を向け部長が戻ってくるのを待つ。


「あー、こっちで良かったわ。心霊スポットめぐりなんてしたら、熱中症なっちまうぜ」


「アンタは暑がり過ぎなのよ……」


 紅谷と江里が珍しく会話している。

 そんな二人を眺めつつボーっとしていると、私の思惑は見事に崩れ去った。


「おや……?」


 知った声が聞こえてきた。

 その声に紅谷と江里もその声の主に目を向ける。


「白鞘さんとこの茄々子ちゃんじゃないのかい?」


 受付に背を向けていたのに、逆方向から男の人がやってきて声をかけられてしまった。

 清掃員の長宗我部ちょうそがべさんだった。


 違いますともいえず、挨拶を返すしかなかった。


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