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6-0-1.プロローグ

評価はある程度進んでから解放します

 静かな夜。蒸し暑くなかなか寝付く事が出来なかった私は、軽く夜の散歩でもして気を紛らせようと思った。住み込みで勤めている屋敷の、使用人用の住居となっている離れから外に出る。

 蒸し暑くはあるが、爽やかな風が吹き肌に心地よい。夜の街というのも、たまに見るといいものだ。ポツリポツリと立ち並ぶ街灯が周辺の木々を照らし、いつも見ている風景も全く別のものに感じられる。


「フゥ……」


 懐中電灯を片手にしばらく道を歩き、近所にある博物館の近くに到着した。博物館前にあるバス停のベンチに腰を下ろし夜空を見上げる。なんとも綺麗な夜空だ。昔の様に星が煌きどこまでも広がっているという訳ではないが、雲も無く月も煌々と輝いている。


 何も考えずにしばらく空を眺めていると、突然背後から物音がした。カタカタと自然の中で鳴るには少し違和感を感じる物音。それが博物館の方から聞こえてきたのだ。


 こんな夜更けに誰だろうか。誰かが博物館に侵入しようとでもしているのだろうか。はたまた、野生の動物が餌を求めて人里に下りてきたのだろうか。

 恐る恐る後ろにある博物館へと目を向ける。重い格子状の鉄製の門は閉まっており、ここからでは人がいるかどうかは分からない。


「だ、誰かいるのか……」


 バス停のベンチから立ち上がり、こんな大きさで呟いても誰にも聞こえないであろうと思える声で呟きながら博物館の門へと近寄っていく。


「お、お~い……」


 この博物館は私が住み込みで働いている屋敷とも取引のある場所だ。侵入者がいるのだとしたら放っておく訳にもいかない。

 だからと言って、私に正体不明の侵入者に堂々と勇ましく立ち向かうような勇気も度量もない。せいぜい小さな声で誰かいるのかを確認する程度だ。もし、相手が凶器など持っていようものならば瞬く間に私はやられてしまうだろう。そう、怖いのだ。


 そう思いつつ格子状の門の隙間から、誰かいるのかと見える範囲で中を見渡す。すると、博物館の敷地の駐車場辺りに何か動くものが見えた。

 人影だろうか。何かを引きずるようにゆっくりと動いている。先程から聞こえてきていたカタカタという音も、そちらのほうから聞こえてくる。


 誰だろうか。動く影が見えた事で恐怖心が込み上げ来る。声をかける事も出来ずにしばらくその影に視線を向けて固まっていると、影が駐車場を照らす灯りの下へと到着した。

 徐々に見えるその姿は恐ろしく気味の悪いモノだった。


 綺麗な着物のような物を羽織ってはいるが、体から伸びる幾つモノ長い腕と足。それが、蜘蛛が地を這うようにカタカタと音を鳴らしながら這いずり動いているのだ。その体は無機質でまるで人形のようだ。無意識に手が震え、持っていた懐中電灯がそいつの方に向いてしまった。


「ひ、ひぃ……っ」


 目に入る化物の姿。同時に、照らされた懐中電灯の灯りによって、そいつが引きずっているものが目に入ってしまった。

 口に咥えて引きずっていた様で、最初は体の下に隠れてよく見えなかったのだが、よく見るとそれは人であった。それも血まみれである。辺りも暗く、遠目なので細かい所まではわからないが、引きずられていた人は所々噛み千切られている様で血まみれになっており、既に絶命しているように見える。


「カタ……カタカタカタカタカタカタ」


 私の照らしてしまった懐中電灯の灯りに気が付いたのか、そいつが此方に顔を向けた。口を開いては閉じてカタカタと不気味な音を立てながら、頭をガクンガクンと右に左に回転させている。まるで人形が意思を持って動き出しているかのようだ。


「ひぇあぁ……っ!」


 情けない声が口から漏れ、思わず後ろに転んでしまう。最早、自分の対処できるような相手ではない。そう本能的に感じ取り、慌てて逃げ出す。腰を抜かしている暇などない。


 アレはここらで昔から言い伝えられてる〝生人形〟だ。旦那様が最後に作った人形が動き出したのだ。そうに違いない。口には出して言えなかったが、だから私はあんな後妻を白鞘家に招きいれるのは反対だったんだ。亡くなった前の奥様の呪いに違いない……。

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