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間違いなんかない道の先 feat.『アイドルーレット!』

 激しいビートのOverture(入場曲)が鳴り響く中、舞台袖でメンバー四人で円陣を組む。

 この日まで練習を積み重ねてきた成果を、ぶつけてやる!

 

「よっしゃ行くぞ! おーっ!!」


 ボリュームを上げるOverture。

 いよいよステージに上がる。


 ペンライトを携えた観客たちがフロアで沸き上がる光景は、セルフプロデュースになってから初めて見るもの。そして、ずっと見たかった光景だ。


「私たち『アイドルーレッと!!』です! お披露目公演、来てくれてありがとうございます!」


 私たちのデビュー曲『MY BEST RESTART』のイントロがかかる。前グループを卒業して、セルフプロデュースを始めた自身の境遇を重ねながら歌詞を書き上げたから思い入れが強い曲だ。

 ポップなギターのフレーズに合わせて、フィンガースナップの振り付け。

 メンバーと呼吸を合わせて、テンションを高めていく。 


“待ちに待ったこの瞬間 

間違いなんかない道の先” 

 

「シズカー!!」


 パートを歌い終えた後に、自分の名前を呼ぶコールが聞こえた。

 次のパートは、ツインテールがチャームポイントのナミぽん。続いて、えりりん、みゆみゆ。どのメンバーも熱烈なコールを送られていた。

 デビュー前から活動を生配信で中継し、個人配信も地道に積み重ねてきた成果だ。


 約三十分のアクト。歌いまくった。踊り狂った。


 ライブ後、メンバーとの反省会も終えて帰宅。

 衣装の入った重たいケースを玄関に置きっぱなしにしてベッドにダイブする。


 最高のライブだった。


 観客は、ひたすらにコールを送りまくり、熱狂していた。終演後の物販、振り付けにフォーメーションで頭の中がいっぱいで、それでも何とか送ったレスに「嬉しかった」と言って貰えて、泣きそうになった。私がデザインした赤と黒のツートンカラーの衣装を褒めてくれたことも。


 思えば――アイドルを始めて最初の三年間。前グループ『午前2時のレム睡眠』にいた頃は、地獄だった。自分がなりたかったアイドルが、これっぽちも出来なかったから。グループがやっていた小難しい楽曲も、MCがほとんどないライブも、好きになれなくて。そんな自分も嫌いだった。


 あの日、思いきってメンバーに自分の思いを告げたことは、間違っていなかったんだ。


 そんな気持ちを噛みしめながら、SNSに上げたライブ終了のお礼メッセージにぶら下がったファンからの反応を見ていた。


“お披露目ライブ楽しかったよ”

“最高だった”

“可愛かった”


 そんな中で一つ目を見張る長文メッセージがあった。


 そのアカウントには見覚えがあった。見覚えがあるどころじゃない。

 離れてからも、活動内容を欠かさずチェックしていたから。


“エミリ@『午前2時のレム睡眠』


シズカちゃんへ。アイドルーれっと!! お披露目ライブお疲れ様。自分が思う最高のアイドルになりたいって夢、話してくれた時、さみしかったけど、すごくかっこよかった。そして今、写真見たら、さらに可愛くかっこよくなってて、嬉しくなったよ。シズカちゃん、これからもアイドルーれっと!!の活動頑張ってください。一緒に対バンとかできるといいね!”


 途中から視界が滲んでよく見えず、瞼を何度か拭ってやっと全文が読めた。

 遅れて現体制『午前2時のレム睡眠』のもう一人のメンバー、エミリからもメッセージが届いた。そして、元メンバーで『蒼いアクト』にボーカルとして加入したナナミからも。

 どれも今の私を祝福してくれる内容だった。


 前グループを卒業してからは、かつての仲間のメッセージに「いいね」を押すことさえ怖かった。険悪な別れをしたわけではないのに、それでも自分が違う道を選んだこと、どこかで恨んでいると思っていた。


「ありがとう」

 

 心の中から湧きあがった感情が、自然と口を突いて出た。

 同時に、『MY BEST RESTART』のあるフレーズが脳内に響く。

 

 “間違いなんかない道の先” 


 ようやく、自覚できた。

 自分が選んだ道に、「間違いなんかない」と。

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