SS・二度目の出会い
今日で出涸らし皇子が連載二周年を迎えました!
これも応援してくださる読者の皆さんのおかげです!
これからもよろしくお願いします!
二周年の特別SSはエルナとアルの二度目の出会いです(・ω・)ノ
十一年前。
帝国にとって重要な事件が起きた。
王国との戦争中。皇国がドワーフの国を侵略、その難民を帝国が受け入れた。
下手をすれば帝国対王国皇国連合の構図となっていた。帝国にとっては二正面作戦となり、絶対に避けたい事態だった。
しかし、結局は王国側と緊急停戦し、皇国との全面戦争を辞さないという皇帝の強硬姿勢に皇国が折れ、帝国対皇国の戦争は起きなかった。
その事件の最中。
二人の子供が出会った。
片や皇帝の七人目の息子。
片や勇爵家の跡取り娘。
もっと違う出会い方もあっただろうが、奇しくも二人はそこで出会った。
そしてそれから半年。
「準備はいいかい? エルナ」
「はい! お父様!」
腰に剣をつけたエルナが返事をする。
あれから半年。エルナはずっと修行に明け暮れた。
あの日のような思いは二度とごめんだと心に誓って。
誰かに庇われて、何もできない。
自分がまったく影響を発揮できず、物事が決まっていく。
それをエルナは許容しなかった。
大臣だろうと、使者だろうと、皇帝だろうと。
誰もが一目置くほどの強さがあれば、あんな思いはしなくて済んだ。
だからエルナは強くなることを強く決意していた。
それからのエルナの伸びは父である勇爵ですら、目を見張るものだった。
そして今日。
あの日以来、エルナは初めて城へと向かう。
この日をエルナは心待ちにしていた。
お礼が言いたかった。
謝罪がしたかった。
それが言える自分になるために、自分を鍛えた。
その日が来たのだ。
「行きましょう! お父様!」
そう言ってエルナは意気揚々と城へと向かったのだった。
■■■
目の前に起きたことが信じられない時。
人の思考は止まるのだと、エルナは初めて知った。
勇爵から許可をもらい、エルナは城の中であの日の皇子を探していた。
それが許されるまでに、エルナは変わっていた。
そんなエルナが皇子を見つけたのは城の広場だった。
いじめられていた。
あの日、自分を庇って皇帝に嘘を貫き通した皇子が。
大したことのない貴族の息子たちに。
いくら多勢に無勢でも、一方的にやられすぎだった。
殴られているし、蹴られている。
自分の権威を主張すれば、怯むだろうに。何もせずに、大人しく殴られていた。
その光景を少しの間、茫然と見ていた後。
エルナはようやく正気に戻った。
そして。
「いい加減にしなさい!」
気づけば皇子と貴族の息子たちとの間に割り込んでいた。
「な、なんだお前は!?」
「この人が誰だかわかっているのか!?」
リーダー格の少年がエルナを睨む。それに合わせて周りの取り巻きも声をあげた。
同年代の中では身長の高いリーダー格の少年は、エルナを見下ろして告げる。
「僕はホルツヴァート公爵家の長男!」
名を名乗ろうとするその少年の手首を捻って、エルナは容易く投げ飛ばす。
柔らかい芝生の上だったため、痛みはあまりない。だが、驚きは隠せなかった。
周りの取り巻きも唖然としている。
「なっ……なっ……!?」
「誰だろうと関係ないわよ」
「こ、後悔するぞ!? 僕はギード・フォン・ホルツヴァートだぞ!?」
「だから?」
エルナは倒れたギードを見下ろす。
そこでようやく取り巻きたちは、目の前にいる少女がとんでもない特徴を持っていることに気付いた。
「ぎ、ギード様……」
「こ、この女、いや、この方は……」
「なんだ!? ビビりやがって! お前みたいな女の家は取り潰してやる!」
「その台詞、よく覚えておくわ」
エルナはそう言ってキッとギードを睨む。
そこでギードは気づいた。
桜色の髪に翡翠の瞳。
その特徴が意味することを。
「お、お前……あ、アムスベルグ勇爵家の……?」
「エルナ・フォン・アムスベルグよ。家を取りつぶすというなら掛かってきなさい! あなたの家の騎士じゃ私相手にだって勝てっこないわよ!」
「あ、あ……くそっ! 覚えてろよ!」
くだらない捨て台詞。
それを吐き捨てながらギードは取り巻きと共に逃げていく。
そんなギードたちを睨みつけたあと、エルナは後ろを振り向く。
そこでは。
「……何してるのかしら?」
「……防御態勢だ」
ボソリと皇子が呟く。
皇子は体を丸めて、亀のように小さくなっていた。
その姿に覇気はない。
自分の中にあった理想の皇子像がガラガラと崩れ去るのを感じながら、エルナはふらりと一歩後ずさる。
そんなエルナを気にせず、皇子は呟く。
「余計なことはしなくていいのに……」
「な、なんですって?」
「またあいつらはやってくる。何もせずにやり過ごすのが一番だ。何かすると苛立ちが増すからな」
やれやれと皇子は言いながら立ち上がる。
そんな姿に我慢できず、エルナは大声で叫んだ。
「このっ……軟弱者! 弱虫!」
「な、なんだよ、いきなり……?」
「こっち来なさい! その根性をたたき直してやるわ!」
そう言ってエルナは皇子の首根っこを掴み、城の稽古場へと向かう。
「おい!? 離せ!」
「私が鍛えてあげるわ! そうすればあんな奴らにいじめられることもないから!」
「余計なお世話だ!」
「あなたには必要なことよ! アルノルト皇子!」
「俺のこと知ってるのか? 勇爵家のお嬢様が」
「ええ、よく知ってるわ! まさかこんなに情けないとは思わなかった! 安心して、私が立派な皇子にしてあげる!」
「だから余計なお世話だって……」
抵抗は無意味と判断したアルは、そのまま引きずられていく。
それはやがて城の恒例行事となるのだった。