SS・平和だった日
アルとレオがまだ8歳だった頃のとある日。
その日は第一皇子ヴィルヘルムが戦から帰ってくる日だった。
「兄さん! ヴィルヘルム兄上が帰ってくるんだから! 起きないと!」
「うーん……あともうちょっと」
「さっきもそう言ったじゃないか!」
眠気を誘う日差しに負けて、アルはベッドから出れないでいた。
別に出迎えをしろと言われているわけじゃない。ただ手紙でお土産があると言われたから出迎えをしようと二人は話していた。
しかし、当日はお昼寝日和。
アルはレオにいくら言われても起きる気配がなかった。
ベッドの傍で何度もアルを起こそうとするレオだが、いつまでも起きないアルにつられて瞼が落ち始める。
兄の帰りと聞いて早起きしたツケが回ってきたのだ。
「ねぇ……兄さんってば……」
「いいだろ……出迎えなくても怒らないさ……」
「でも……」
「平気平気……」
そう言ってアルは布団をかぶって幾度目かの睡眠に入ってしまう。
起こさなきゃと思いつつ、レオも日差しに負けて両腕を枕にして目を閉じてしまう。
しかし、責任感からいけないと思って目を何とか開けようとする。
そんなレオの頭にポンとアルが手を置いた。
「後で行こうぜ……」
「それもそうだね……」
誘惑に負けてレオは眠りに入ってしまう。
そして二人はそのまま長い眠りに入ったのだった。
しばらくして二人の部屋に向かう人影があった。
「まったく……兄上の出迎えに出てくると言ったのに来ないとは」
「そう怒るな。リーゼ」
「怒ってはいません。教育が必要だと思っているだけです」
「子供が出迎えなんて堅苦しいことはしないでいい」
そう言って第一皇女リーゼロッテに対して、第一皇子ヴィルヘルムは告げる。
そして軽くノックをしたあと、返事がないためゆっくりと扉を開けた。
すると。
「仲のいい兄弟だな」
「アルだけではなくレオまで寝てるとは……」
「起こそうとはしていたようだがな」
ベッドで眠るアルに対して、レオはベッドの端で座っている。
頑張ったものの自分も眠気に負けたのだろう。
その様子を微笑ましく見つめたあと、ヴィルヘルムはそっと扉を閉めた。
「さて、あの子たちへの土産は後にしよう」
「では、私への土産を所望します」
「戦の話でもいいか?」
「もちろんです」
そう言って二人は笑い合うのだった。