SS・クリスマス
配信で書いたクリスマスSSですm(__)m
良いクリスマスを(`・ω・´)ゞ
「クリスマスですか?」
フィーネが小首をかしげて聞き返してくる。
それに対して俺はため息を吐きながら答える。
「元々はドワーフの行事だ。最近じゃあちこちで行われているけれど、帝国じゃマイナーだな」
「そのクリスマスがどうかしたんですか?」
「手伝えと言われた」
「どなたにですか?」
「ドワーフのクソジジイだ」
吐き捨てるように言うと、フィーネはすべて理解したかのように、ああ、とつぶやく。
そのまま俺はシルバーとしての服装に着替えると、上等な酒を一本手に持つ。
「それじゃあ行ってくる」
「行ってらっしゃいませ」
■■■
ドワーフの里。
そこにあるエゴール翁の家へ転移した俺は、予想通りの光景にため息を吐いた。
「もっとじゃ! もっと酒が必要なんじゃ!」
「お酒はおしまい! 今日はやることがあるんでしょ!?」
酒を大事そうに抱えるエゴールと、その酒を奪おうとするソニア。
よく見た光景だ。
「用がないなら帰るが?」
「おお! シルバー! 良いところに来た! 酒に付き合え! 儂は今、最高に気分がよいのでな!」
「さっきまで死にそうだったくせに……」
俺の持つ酒が目に入ったせいか、エゴールはあっさり持っていた酒をソニアに手渡し、俺が持ってきた酒を美味そうに飲み始めた。
「ぷはぁっ! 良い酒じゃな!」
「酒を届けに来たわけじゃない。手伝いがいるというから来ただけだ。さっきも言ったが、用がないなら帰るぞ? エゴール翁」
「そう急ぐな。もう少し酒をだな……」
「帰るぞ?」
「まったく、若いもんはせっかちでいかん」
そういうとエゴールは何やら赤い衣服に着替え始めた。
しばらく見守っていると、モコモコとした赤い何かがそこにはいた。
「なんだ? それは?」
「サンタじゃ。ドワーフの聖人じゃ。知らんのか?」
「いや聞いたことはあるが……」
文献の説明と何かが違う気がする。
赤いマントを羽織って、貧しい者に食べ物を分け与えた聖人のはずだが……。
「聞いたことがあるなら話は早い。今日はクリスマスじゃ。儂はドワーフの年長者としてサンタに扮して、プレゼントを渡さねばならん」
「それでなぜ俺を呼ぶ?」
「儂は道案内がなければプレゼントを届けられんでな。道案内を頼む」
「……この世に俺を足代わりに使う奴がいるとはな」
「怒らないで! これも子供たちのためだから! プレゼントもこっちで用意してあるからね! お願い!」
ソニアが両手で頼み込んでくる。
たしかに家には大量のプレゼントがある。
エゴールがこれを一人で届けるのは無理だろう。量の問題ではない。
正確に家に届けるのが不可能なのだ。
しかも今は酔っている。
無理な任務といえるだろう。
「しょうがない。さっさと終わらせるとしよう」
「ありがとう! これ地図!」
ソニアが渡してきたのはドワーフの里の地図だった。
しかし。
「量が少なくないか?」
「うん、ちょっとプレゼントを揃えすぎちゃって……東部の公爵に頼んだら張り切って用意してくれてね」
「なるほど」
エゴールとてSS級冒険者だ。
酒に費やしているとはいえ、金は持っている。
それをラインフェルト公爵に渡したんだろうな。そしたら思ったよりプレゼントが増えたんだろう。
ドワーフの里の子供たちにあげるにしては、多すぎる。
「余ったら帝都でバラまけばよい!」
「大混乱だろうな」
上空からプレゼントをばらまき、それに殺到する民。
父上は怒りで倒れるかもしれない。
「それについては俺が預かろう。とりあえず、さっさと始めるぞ」
そう言って俺はエゴールに手を差し伸べる。
すると、エゴールは白い袋に目いっぱいプレゼントを詰め込み、それを軽々と片手で持つと俺の手を掴んだのだった。
■■■
「あ、エゴール様だ」
「エゴールではない! サンタじゃ!」
いきなり家に転移しては失礼なため、マークされている家の前に転移して、そこからエゴールが家に入っていく。
思いっきりバレているが、エゴールは懲りずに訂正してプレゼントを渡していく。
この家でドワーフの里は最後だ。
「まだかなりあるな……」
「虹貨数枚を渡したからのぉ。東部の公爵の屋敷にもまだまだあるぞい」
「金の使い方を知らん老人というのは恐ろしいな」
ラインフェルト公爵が本気になるわけだ。
しかし、エゴールの家だけではなく、ラインフェルト公爵の屋敷にまであるとなると困ったものだ。
買った以上、使わねば損だ。
「しょうがない。エゴール翁、少し付き合ってもらうぞ?」
「おお! よいぞ! 酒の礼だ!」
気安くエゴールは引き受ける。
まぁ無茶なことを頼む気はない。
エゴールなら容易いことだろう。
■■■
夜。
帝都はまだまだ寝静まっていなかった。
外で飲み歩く冒険者もいるし、そんな冒険者たちを客とする商売人たちもいる。
まだまだ寝付けない子供たちも。
そんな帝都の空。
突然、鈴の音が鳴った。
鈴の音はどんどん大きくなり、やがて帝都の真上にやってくる。
トナカイにソリをひかせた赤い服の老人。
それが空を舞っていた。
そして老人は白い袋から何かを帝都にばらまいた。
それはゆっくりと帝都へ降下していく。
白い光の粒子。
雪のように帝都へ降り注ぎ、帝都を彩る。
けれど、どれだけ幻想的でも非現実な光景は恐ろしさを含む。
ゆえに俺は帝都の上空へ姿を現した。
そして空中で一礼する。
それだけでシルバーの仕業だとわかった帝都の民は喝采をあげた。
けれど、仕掛けはそれだけじゃない。
白い光の粒子はゆらゆらと動き、子供の下へと向かっていく。
そして光の粒子が子供の手に落ちたとき、それらは多種多様なプレゼントへと様変わりした。
「手間をかけて悪かったな、エゴール翁」
「お安い御用じゃ」
すべては幻術。
俺がエゴールを空中で飛び回らせ、大量のプレゼントを帝都にばらまかせた。
プレゼントは幻術で光の粒子に見せて、ゆっくりと降下させる。
それらは子供の手に渡るとプレゼントへと変わるという仕掛けだ。
大人たちにとってはただの粒子だから、大した騒ぎにはならない。
噂を聞きつけた子供たちが家から出てきて、まだ空に漂う粒子に手を伸ばし始める。
これで子供たちにプレゼントが渡るだろう。
俺はそのままエゴールを家へ連れ帰り、自分の部屋へ戻る。
「お帰りなさいませ」
「ただいま、フィーネ」
言いながら俺は手に持ったいくつかのプレゼントを机に広げる。
「それはなんです?」
「さすがに城まで届かせられなかったからな。クリスタたちの分だ。ただ……」
「どう渡すか悩んでおいでですか?」
「そうなんだ。他の子どもたちは空からプレゼントが降ってきたわけだし、それに似た形で渡したい」
「ふふふ……アル様らしいですね」
フィーネはクスリと笑うと、俺の傍へ寄ってきた。
そして。
「では二人で考えましょうか」
ニッコリと笑う。
それに頷きながら、俺はフィーネと共に頭を悩ませたのだった。