記念SS シルバーの一周年
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SS級冒険者シルバー。
大陸に四人しかいなかったSS級冒険者。
その五人目となった謎多き銀仮面の魔導師。
その男の登場により、帝都支部の業務は大きく変わった。
帝国は情勢不安であり、冒険者ギルドもそのあおりを受けていた。人が荒めば、モンスターが蔓延る。
しかし、あまりモンスターが発生するような場所でない帝国の冒険者ギルド支部には、高ランクの冒険者がいなかった。
そのため、手つかずの依頼が山積みになっていたのだ。
それをシルバーは自ら率先してこなしていった。
本来、SS級冒険者に依頼する場合は高額の依頼金を支払わなければいけない。しかし、SS級冒険者が自ら受けるとなれば話は違う。
おかげで山積みとなっていた依頼はすべてなくなり、たまに来る高ランクの依頼もシルバーがやってくれるため、各支部はその支部に在籍する冒険者の適正依頼だけを回すということができていた。
すべてシルバーのおかげ。
そんなわけで、帝都支部はシルバーが帝都支部に来てから一周年を記念して、盛大な催しを企画していた。
のだが……。
「申し訳ありません……!!」
受付嬢のエマは深々と頭を下げた。
ここまで深く頭を下げたことはエマの記憶にはなかった。
それくらい申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
「別に謝るようなことじゃない。ただ、軽率だったことは反省したほうがいい。酒を飲んだこいつらに欠片でも信用を置くと、こうなる」
そう言ってギルドに招かれたシルバーは、宴後の支部に目を向けた。
大量に用意された食事、そして酒。
その大半が消え去っていた。
この準備のため、ギルド職員はあちこち奔走していた。
そしてあとはシルバーを呼ぶだけという段階で、いくつか仕事が入ってしまった。
その間にエマは冒険者たちから目を離してしまった。
戻ってきたときには全員が酒を開けており、大宴会状態。
止めても聞かず、主賓であるはずのシルバーが来たときには、すべてが終わったあとだった。
「ううぅ……誠に申し訳ありません……」
「君が気に病むことじゃない。それに俺は人前で仮面を外さない。用意してもらって悪いが、何か口にすることはしなかっただろう」
「そ、それでも……」
「言いたいことはわかる。祝いたいと思ってくれたその気持ちだけで十分だ」
何か口にしないまでも、しっかりと盛り上がった状態で迎えたかった。
そんなエマやギルド職員の気持ちをシルバーは汲み取っていた。
「それに……これも悪くない」
「それは……どういう意味でしょうか?」
「後先考えず、酒を飲み、食事を食らう。全員アホ面で寝ている。人の迷惑を考えないし、好きなように生きている。だから冒険者は嫌いだという奴もいるが、俺はそんな冒険者を気に入っている。別に酒も食事もいらない。ただ、彼らが俺の一周年を理由に酒を楽しんだというなら、それだけで十分だ。得体の知れない魔導師を受け入れたことに感謝する」
「シルバーさん……」
なんて人のできた人だろう。
エマはうっすら涙を浮かべて、感動した。
しかし。
「とはいえ、同じことをやられては困るからな。マナー違反には罰だ」
そう言ってシルバーは寝ている冒険者たちを一斉に転移で飛ばしてしまった。
一瞬の出来事にエマは固まる。
「……」
「安心しろ。大通りに飛ばしただけだ。風邪で済むだろう」
「……寛大さに感謝すべきでしょうか?」
「君に任せる」
そう言ってシルバーはスッと転移で消え去ったのだった。