45万部記念SS 誕生日
タイトルのとおり、出涸らし皇子の書籍が45万部を突破しました(*`・ω・)ゞ
お礼もかねて記念SSですm(__)m
これからもよろしくお願いします。
45万部記念
誕生日
「アル! 誕生日よ! 誕生日!」
公国に出発する前。
突然、エルナがそんなことを言ってきた。
「あー、十八歳おめでとう。これでいいか?」
「私の誕生日じゃないわよ!」
たしかにエルナの誕生日は今日じゃない。
だが。
「なんだ? 祝ってないから祝えってことじゃないのか?」
「私は帝都で盛大に祝ってもらったからいいのよ! アルとレオの誕生日! 祝ってないでしょ?」
「ああ、そう言えばそうだな」
誕生日を別々に過ごすという経験自体、初めてだった。
俺は藩国、レオは国境にいたし。
そういうときもあるだろう。
いつまでも一緒にはいられない。
ましてや、今はこういう情勢下だ。
「残念じゃないの?」
「一応、フィーネには祝ってもらったよ。それよりも藩国の貴族たちと過ごした時間のほうが長かったけどな」
王の弟で、宰相の誕生日だ。
藩国の貴族たちはこぞって俺のところにやってきた。
よく考えればフィーネともろくに祝えてなかったな。まぁ忙しかったし。
きっとレオも同じ感じだろう。
「想像しただけで嫌な誕生日ね」
「贅沢は言えないさ。レオも国境だったんだ。レティシアに祝ってもらっただろうけど、まぁ質素だったと思うぞ」
「それよ! それ! 二人の十九歳の誕生日だったのよ?」
「だからなんだ?」
「次は二十歳でしょ? 十代最後の誕生日! 思い出に残る形で盛大にするべきだと思わない?」
「思わないな」
「なんでよ!」
エルナが俺の机を叩く。
衝撃で書類が床に落ちた。
「おいおい、大事な書類なんだが?」
「今はどうでもいいわ!」
「仕事しろって言ったり、どうでもいいって言ったり、お前は忙しいな」
そう言って俺は笑う。
すると、部屋の扉が開いた。
「やぁ、賑やかだね」
「うるさいの間違いだろ?」
部屋に入ってきたのはレオだった。
俺の言葉に苦笑しているあたり、レオも同じことを思っていたらしい。
「レオ! 聞いて!」
「うん、聞くよ」
「アルが誕生日を思い出にしなくていいって言うのよ!?」
「誕生日?」
「俺とお前の過ぎ去りし十九歳の誕生日のことだよ」
「ああ、なるほど。僕はレティシアに祝ってもらったよ?」
「国境っていう最前線で質素にでしょ? どうせその日も仕事ばかりだったんでしょ?」
「さすがだね。ご名答」
「何年、幼馴染やってると思うのよ! アルなんて、藩国の貴族たちに祝われたらしいわよ!? 祝いってより呪いじゃないかしら? それって」
「失礼なやつだな。まぁ、贈り物の趣味は悪かったけど」
「やっぱり、二人の誕生日がそんなんじゃ駄目よ! 盛大に祝いましょう!」
「別に良いかな、僕も」
レオは味方だと思っていたエルナが固まる。
そしてレオをジト目で睨みつける。
「どうしてよ……?」
「俺たちは双子だからな。誕生日を盛大に祝ってもらうってのは苦手なんだよ。二人とも」
「子供の頃は仕方なかったけど、やっぱり落ち着いた雰囲気のほうが僕は好きだからさ」
子供の頃は大勢の貴族が俺たちの誕生日のために、城にやってきた。
盛大なパーティーも開かれたし、参加しないわけにもいかなかった。
だが、正直、俺もレオもそういうのは好きじゃない。
「落ち着いたお祝いならいいよ、僕は」
「それじゃあ特別感がないじゃない……」
「いつもどおりでいいんだよ。特別なことをする必要はない」
「でも……」
「お前だって盛大なパーティーとか苦手だろ?」
「そうだけど……いいの? 祝ってもらわなくて」
「言ったろ? いつもどおりでいいって。祝ってもらうのが嫌なんじゃない。近しい人だけなら問題ない。な? レオ」
「うん、エルナとフィーネさん、あとはクリスタと母上かな?」
「招待は任せる。今日の夜、勇爵家の屋敷でいいな?」
「仕方ないわね。それで納得してあげるわよ!」
そう言ってエルナは笑顔を浮かべたのだった。
■■■
勇爵家の屋敷に行くと、いつものようにおかえりなさいと迎えられた。
「もうレオ様とクリスタ殿下、それとミツバ様はついているそうですよ」
「そうか。あとは誰がいるんだ?」
「エルナ様とあとは私とアル様。聞いているのはそれだけです」
フィーネの言葉に頷き、俺は勝手知ったる勇爵家の屋敷を歩いていく。
勇爵家主宰ってことはエルナの母でもあるアンナさんもいるだろう。
まぁそれくらいがちょうどいい。
人が多くなるとそれだけ気を遣う。
「あら? 出迎えようと思ったのに」
「こんばんは、アンナさん」
「ご招待に感謝いたします。アムスベルグ勇爵夫人」
「こちらこそ、来てくれて嬉しいわ。エルナったらアルとレオの誕生日が祝えなくて悔しかったみたいなのよ。ほら、近衛騎士になってから祝えてなかったでしょ? だから、今年こそはって」
「お母様! 適当なこと言わないで!」
「あらあら」
エルナに怒鳴られ、アンナさんが笑ってどこかへ消えていく。
仏頂面のエルナに苦笑しながら、用意された部屋に入ると、レオたちがいた。
「アル兄さま、遅い……」
「悪い悪い」
クリスタにとがめられて、俺は肩を竦める。
見れば母上はさっさとお酒を飲み始めている。
元々、強いから酔うってことはないだろうけど。
「主役を待つ配慮はないんですかね?」
「遅いんだもの。それにレオに許可は取ったわよ?」
「僕は喉が渇いたって言われたから、どうぞって答えただけだよ?」
まったく。
この母は。
まぁ母上らしいといえば母上らしいか。
そんな会話をしていると、アンナさんが大量の料理をもってやってきた。
「さぁ! 私の手料理よ! 一杯食べてちょうだい!」
「お腹空いた……」
「じゃあさっさと始めるか」
身内だけのささやかなパーティーだ。
特別な挨拶も必要ない。
俺とレオがグラスを持つ。
「それじゃあ少し遅いお祝いといくか」
「そうだね。それじゃあ誕生日おめでとう、兄さん」
「おめでとう、レオ」
互いに互いの誕生日を祝う。
いつものことだ。
なにせ誕生日は一緒にやってくる。
グラスに入った上等なワインを飲み干し、パーティーが開始された。
その夜は久々に気兼ねなく過ごした夜となったのだった。