SS・RT企画4・セバスとアル
SS四個目です。
残念ながら800RTは行かなかったんですが、700RTまで伸ばしてくれた読者の皆さんに感謝をこめて投稿しますm(__)m
五つ目はまた機会があれば投稿します(・ω・)ノ
ありがとうございました!
RT企画は今日までなので、SS投稿はこれが最後です!
アルが七歳の頃。
この頃になると、アルはよく城の外へ遊びに出るようになっていた。
当初は近衛騎士が護衛についていたが、護衛に気付くとアルは近衛騎士を撒こうとする。
今のところ、大事に至ってはいないが、見失って皇子が危険に晒されたとあらば責任問題に発展する。
そのため、どうにかしてほしいという相談がミツバのところへやってきたのだった。
「近衛騎士団を困らせるなんて、大したものね」
「まったくですな」
普通の妃ならば、なんてことをと焦る場面だが、ミツバは静かにお茶を飲みながら呟く。
後ろに控えるセバスも同様だ。
自由奔放なアルを止める気など、さらさらないのだ。ゆえに焦らない。
しかし。
「でも、危険に巻き込まれたら困るわね?」
「そうですな」
「仕方ないわ。セバス、アルの護衛をお願いね」
「しかし、そうなるとレオナルト様のことを見ることはできませんが?」
「私がその分、レオのことを見るわ。あの子は城にいることが多いから」
城にいるならば護衛の心配はない。
母親としてレオの傍にいれば、寂しい思いもさせない。
父親が皇帝のため、一般的な親子の関係は成立しない。あまりに多忙だからだ。
だからこそ、これまではセバスが二人の傍にいた。
しかし、二人が別行動を始めたならば対策が必要だった。
「では、私はアルノルト様を見守ることにしましょう」
「好きなようにさせてちょうだい。命さえ無事なら平気だから」
「かしこまりました」
とても皇子に対する言葉とは思えない。
そんなミツバに苦笑しつつ、セバスはその場を後にしたのだった。
■■■
帝都の路地裏。
そこにアルはいた。
視線の先にはみすぼらしい姿の子供たち。
彼らは一人の少年を暴行していた。
「早く渡せよ!」
暴行されているのは小さな少年。
その腕の中にはか細く泣く子猫がいた。
子猫をおもちゃにしようとする少年たちから、庇っているんだろう。
それを見てアルは小さくため息を吐く。
周りを見渡すが、誰も気づかない。
いつもはしつこいくらい傍にいる近衛騎士の姿も見えない。
「皇子を放置とは……平和な国だな」
言いながらアルはしっかりとした足取りで路地裏へ向かう。
足音を聞き、少年たちは一斉にアルのほうを見た。
「なんだ、お前!?」
「俺か? 誰でもいいだろ? というか、お前たちこそなんだ?」
「なんだと……?」
少年たちは明らかにアルより年上で、ガタイもよかった。
すぐに囲まれたアルは笑う。
「なんだ? 俺を殴るのか? やめておけ、すぐに父上がやってくるぞ?」
「どこの貴族のお坊ちゃんか知らないが、それでやめると思ってるのか!」
少年たちは一斉にアルを殴り始めた。
すぐにアルは体を丸くして、地面にうずくまる。
そんな中、アルは視線を殴られていた少年へと向かう。
少年はどうしたらいいかわからず、茫然としていた。
だが、アルはその少年を睨みつけたあと、顎で道を示す。
今の内に逃げろという合図だった。
察した少年は泣きそうな顔でその場を逃げ出したのだった。
ひとしきりアルを暴行した少年たちは、アルが上等な服を着ていることに気付き、アルの持ち物を漁る。
そしてアルの財布を奪ったあと、そのまま立ち去ったのだった。
思いっきり殴られたアルはしばらく動けなかった。
ようやく動いた時、背後に気配を感じた。
「……どうして助けないんだよ……?」
「あなたがしたことでは? 私が助ける必要はないと判断しました」
「皇子が殴られたんだぞ……? 大問題だぞ……?」
「ミツバ様より好きにやらせるようにと仰せつかっていますので。逆に質問したいですな。こうなるとわかっていたのに、なぜあの少年の身代わりに?」
背後に立ったセバスの言葉にアルは押し黙る。
そしてそのまま立ち上がり、無言で歩きだす。
その後ろをセバスも無言でついていく。
「……」
「……」
互いに無言のまま、城が近づいてくる。
アルは自分の服を見て、顔をしかめた。
泥だらけだ。
このまま城へ行けば大問題。勝手に外へ出るのも許されなくなるだろう。
そんなアルにセバスは持っていた袋を差し出した。
そこには子供用の服が入っていた。
「……準備がいいな?」
「問題になると私の首も危ないので」
「そうかい」
セバスの返答に面白くなさそうな顔した後、アルは物陰でさっと着替えを済ませる。
出た時と違う服なのに気づく者はそんなにいないだろう。
幸い、顔は守っていたので傷はない。
「……なぜと聞いたな?」
「はい」
「理由は……なんとなくだ」
「なるほど。なんとなく、気分が悪かったのですかな?」
「違う。なんとなく、気に食わなかった」
「皇族らしい答えですな」
「どこがだよ……」
「いつぞや、皇帝陛下は気に食わないという理由で、貴族から領地を取り上げました。領主が圧政を敷いていたからです」
「それとこれとは違うだろ……」
「同じことです。気に食わないから行動する。簡単なようで、なかなかできることではないのですよ」
言いながらセバスはそっとアルの手首に触れた。
一瞬、鋭い痛みが走ったが、ずっと続いていた痛みは消え去った。
「少し骨がずれていました。次からは関節も守ることをおすすめいたします」
「次からは助けろよ……」
「命の危険があれば助けましょう」
クスリと笑って、セバスは告げたのだった。
■■■
数日後。
また城を抜け出したアルは、先日と似たようなところで少年たちに絡まれていた。
「おい、またいたぜ?」
「また財布をいただくか」
「いや、こいつを人質にして金を要求しようぜ。こんな馬鹿なお坊ちゃんの父親だ。どうせ馬鹿に決まってる」
ニヤニヤと笑いながら少年たちはアルを囲む。
そんな中、アルはどうするべきか考えていた。
このまま計画を実行に移されると、彼らはもちろん、彼らの周りにいる人物も含めて確実に処刑されるからだ。
そうなるとこれから気まぐれに散歩もできない。
後味の悪い展開は避けたい。
そんな風にアルが思っていると、唐突にアルを囲んでいた少年が吹き飛ばされた。
「なっ!?」
「またてめぇらか! 俺の弟分の借りを返しに来たぞ!」
そこにいたのは木の棒を持った少年だった。
問答無用とばかりに、少年は木の棒で少年たちを追い散らす。
「くそっ! ガイだ! 覚えてろ!」
「こっちの台詞だ! これで済んだと思うなよ!」
少年たちは散り散りになって逃げていく。
彼らを追い散らした少年、ガイはニヤリとアルへ笑みを向けた。
「お前か!? 俺の弟分を助けてくれたお坊ちゃんってのは!」
「さぁ? どうだろうな?」
「ここで猫を庇ってたやつがいただろ? 俺の弟分なんだ! 貴族のお坊ちゃんが助けてくれたって言ってたぜ! ありがとうな!」
「別にお礼を言われることじゃ……」
「あいつらは外層でも性質の悪い奴らだ。本当に助かったよ! 悪かったな! 臆病者だから弟分は逃げちまった。ちゃんと叱っておいたから安心してくれ!」
快活な笑みを浮かべ、ガイはアルの肩を掴む。
そして。
「この後、全員で遊ぶんだ! 一緒に行こうぜ!」
「いや、俺は……」
「気にすんなって! 俺たちは貴族だろうが、皇族だろうが気にしないからよ!」
そう言ってガイは無理やりアルを連れていく。
その様子を眺めながらセバスは優しく微笑んでいた。
「友達ができたようですな」
身分違いだと止めるようなことはしない。
今の皇帝も宰相とは身分違いの友情を育んだ。
時には身分が違うほうが良い場合もある。
きっと良い経験になるだろう。
そんな風に思いながら、セバスはその場を後にした。
向かうのはアルを囲んだ少年たちが合流していた場所。
「ちくしょう……! ただじゃおかねぇぞ! あいつら!」
「人数集めようぜ!」
「ああ! 外層の大人たちも金の話なら乗ってくるだろうさ!」
不穏な計画。
そんな少年のたちの背後にセバスは回り込んだ。
その首にナイフを突き付けながら。
「行儀のなっていない動物にはしつけが必要ですな」
「なっ……えっ……?」
「動くと死にますぞ? 静かに私の話を聞きましょう」
ナイフを突き付けられた少年は動けず、それを見ていた別の少年は逃げようとするが、一歩動いた瞬間。
顔の前をナイフが通りすぎていった。
恐怖に少年たちはへたりこんでしまう。
彼らが感じたことのない殺気をセバスが笑顔で放っていたからだ。
「彼らに関わるのはやめると約束していただけますかな?」
「あ、あ……」
「約束していただけないなら、ここで殺すしかないですな」
「や、約束します! 約束しますから! 助けてください!」
全員がその場で頭をこすりつける。
そんな彼らを見て、セバスは静かにその場を去った。
恐る恐る顔をあげた彼らは、自分たちの顔の傍に刺さっていたナイフを見て、一目散に逃げ去ったのだった。
それを見送ったセバスは、小さくため息を吐く。
「なかなかアルノルト様の護衛も大変ですな」
小さく呟きながらセバスはアルの傍へと戻ったのだった。