SS・RT企画2・ヴィルヘルムとの勝負
400RT記念SSですm(__)m
感謝!!
九年前。帝剣城の中層。
そこにある中庭で二人の子供が金髪の青年に立ち向かっていた。
「おっと」
青年は両手に一本ずつ木剣を持ち、左右から攻撃を仕掛けてくる子供を相手取る。
左から来るのは桜色の髪の少女。
右から来るのは漆黒の髪の少年。
笑顔で二人の相手をしながら、青年は華麗な剣技を見せつける。
左右の剣で精度が変わらない。どちらも利き手として使えているからだ。
熟練の二刀流。
しかも青年は器用に左右で剣術を変えていた。
少女とは互角に打ち合い、少年には教えるかのような剣捌きだった。
そこにあるのは余裕。
それを感じ取り、少年も少女も躍起になるが結局、二人の剣は当たらなかった。
「二人とも強くなったじゃないか」
気持ちの良い笑みを浮かべ、青年は二人の頭に手を置く。
少年、レオナルトは照れ臭そうにして、少女、エルナは悔しさを露にした。
「さすがヴィルヘルム兄上です……敵いません……」
「あとちょっとだったのに! 皇太子殿下! 次は一対一で!」
「二対一で剣を当てられたら考えよう」
笑いながら帝国の皇太子、ヴィルヘルムは二本の木剣を片付ける。
多忙な皇太子にはこの後も予定が詰まっていたからだ。
そんな皇太子の目に、つまらなそうにこちらを眺める少年の姿が映った。
「アルはやらないのか?」
「勝てないと分かっているのに戦うのは嫌です」
「三対一なら私に勝てるかもしれないぞ?」
「勝って何かあるんですか?」
気だるげに少年、アルは答えた。
自堕落な弟に苦笑しつつ、ヴィルヘルムは一つの提案をした。
「そうだな……明日また時間を作ろう。三人がかりで私に剣を当てることができたなら」
「できたなら?」
「好きなことをやらせてやろう。もちろん責任は私が取る」
「海を見に行きたいんですよね」
「構わないぞ。私に一太刀入れられたなら、な」
そう言ってヴィルヘルムは仕事に戻っていった。
破格の条件を提示されたアルたちは、すぐに集まって作戦会議を始めたのだった。
■■■
「やる気になったか、アル」
「ヴィルヘルム兄上の余裕を崩してみたくなったので」
「生意気だな」
ニコリと笑いながら、ヴィルヘルムは両手の木剣を構えた。
一瞬の静寂の後。
真っ先にアルが突っ込んだ。
正面からの突撃。
最も技量に劣るアルは囮。
本命は確実にエルナ。
しかし、エルナでもヴィルヘルムの防御は突破できない。何か仕掛けてくるはず。
そうヴィルヘルムが考えた時。
アルが盛大につまづいた。
勢いをつけていたせいで、体が浮かぶ。
咄嗟にヴィルヘルムは片手でアルをキャッチした。
しかし。
「勝負ありです」
ヴィルヘルムの腕の中でアルはほくそ笑んでいた。
それを見てヴィルへルムは感心した。
素直に良い作戦だと思ったのだ。
転べば必ずヴィルヘルムはアルを助ける。
その隙に二人が攻撃する。
子供が大人に勝つには、子供の部分を使うしかない。自分の強みを最大限に生かした作戦だった。
しかし。
「甘いな」
ヴィルヘルムは片方の剣でエルナの剣を弾き、その反動を利用して、今度はレオの剣を受け止める。
絶好の隙を逃した形になったエルナとレオは目を見開く。
その間にヴィルへルムはアルを下ろし、両手に剣を構えてしまっていた。
「終わった……」
「ま、まだわからないでしょ!?」
「諦めの早い奴だ。まぁ良い作戦ではあったぞ」
ヴィルヘルムはアルの作戦を褒める。
それと同時に駄目だしもした。
「だが、切り札を切るのが早すぎたな。もっと私の余裕を消してから使うべきだった」
「ヴィルヘルム兄上に受け止める余裕がなかったら、俺が痛いじゃないですか」
「馬鹿にするな。どんなに余裕がなかろうと、弟を受け止めるくらいはできる」
言いながらヴィルヘルムはアルの頭を撫でる。
そして。
「勝負はまた今度だな。私は地方の視察に向かう。次はもっと面白い作戦を考えてみることだ」
次も通用しないだろうけど、と付け加えてヴィルヘルムは去っていく。
エルナは悔しがり、レオはその背に憧れの眼差しを送る。
そしてアルは。
「次はリーゼ姉上もいれて四人にするのも手だな。それが一番早い」
自分が頑張るという発想が出ないあたり、アルらしいといえた。
どんな手を使っても、面白ければ褒めてくれるだろうというヴィルヘルムへの信頼が、そこにはあったのだった。