皿洗い終了
「ありがとうございました」
「三輪くん、欠勤がないから助かってたわ。ありがとうな」
頭田さんが言う。正直仕事が出来る方ではなかった、それでも役に立てていたなら良かった。
「今度は客として来なさいよ」
「……ガンバリマス」
「なんで片言なんよ。三輪くんは、悪い子じゃないんやし本当に頑張んなさいよ」
「ありがとうございます」
おねいさんはそう言ってくれたが、このラブホテルを客として利用することはなかった。数年後、頭田さんもおねいさんも辞めて潰れたからである。
「久しぶり」
「そうだね。元気だった?」
最後のバイトを終え、晴子さんと駅で落ち合い酒場へ向かった。
晴子さんも僕も日本酒が好きだった。僕はそこそこ、晴子さんはうわばみ。いつも独りで飲む酒を、二人で飲むのは新鮮だった。
「もう少しで、地元に帰るんだねえ」
「そうだね」
「また、手紙を書くね」
「ありがとう」
それなりの量の酒を飲み、駅で別れた。
「三輪くんの部屋に泊めてくれたら楽なのに、友達甲斐がないなあ」
どきっとした。
「……大事な友達だと思っているから、泊めないんだけど」
晴子さんは、こちらを見て微笑んだ。
「ありがとう。またね」
「うん。また」
晴子さんがエスカレーターに乗って遠ざかってゆくのを眺めた。上に着いた後こちらを振り返り、目が合った。嬉しそうに手を振ってくれるのを見ながら、幸せな気持ちで手を振り返した。
夢も希望も一度は無くしたけれど、その時の僕は希望を感じていた。
なお、この時に晴子さんを部屋に泊めなかったことはその後長く後悔することになる。
晴子さんとの話の続きは、「叶わなかった恋の話」向きなのでここで終わりです。あっちに続きを書くとしてもすぐではないですね。
最後まで読んで下さった方がいらっしゃったら、ありがとうございました。