夜の大通り
「三輪ちゃん、バイトせえへんか」
「……つげ先輩に紹介してもらったバイトしてるから、やらないです」
「まあ、そう言わんと」
つげ先輩が持って来たのは、つげ先輩紹介で始めたラブホテルの皿洗いにも関わりがあるものだった。電柱などにラブホテルの広告を巻き付ける、それが仕事だ。
「ちゃんと許可とかとってるんですか?」
「さあ?でももしPに捕まっても、俺が話したるから大丈夫やで」
そんなわけで深夜、自転車に乗ってビラを巻き付けにラブホテル近くの大通りへ向かった。少し寒い11月の夜だった。
ががーーっ
車が横を走ってゆく。
「……寒い。帰りたい」
電柱だけでなく、街路樹にも広告を巻き付ける。しかし、巻き付けても巻き付けても減ってゆかない。
結局、夜が明ける少し前にやっと終わった。今日も皿洗いはある。急いで帰ってわずかな時間眠って、バイトに行った。
いつもより疲れた体を自転車に載せて、帰宅した。どうせチラシぐらいしか入っていないだろうと思いつつ、下駄箱兼郵便受けを開く。
「ん?」
茶色の便箋が入っていた。
「誰からだろう?」
ひっくり返して、差出人の名前を確認する。
「……晴子さん。……え?」
返事が来るとは思っていなかった、晴子さんからの返信だった。携帯電話の時代に、文通が始まった。
「……三輪ちゃん、バイト代な」
「あ、つげ先輩ありがとうございます」
「……なんか、いつもと違ってにこやかやけど。どうしたん?」
「え?そうですか?まあ、収入があってホッとしたせいですかね」
「ふーん」
思っていたよりも、返信が来たことで気分が良くなっていた。我ながら単純なものである。妙に周りに親切にしたい気分、それが3週間程は続いた。