行けなかった学園祭
「三輪くん、悪いんやけどしばらく毎日入ってくれん?」
「はあ、まあいいですが。どうしたんですか?」
頭田さんが言うには、同じ時期にバイトを始めた二枚目くんが辞めたらしい。研修期間が終わってもバイト代が上がらなかったのが原因だろうと思った。
10月の終わりから11月の初めにかけて、出身大学の学園祭がある。去年は行けなかったが、今年は行こうと思っていた。
「まあ、忙しくて無理なんだが」
オートロックのドアが閉まらないように、スリッパを挟む。
「あー、またご飯残しやがって」
宿泊客へのサービスである朝食が、手を付けられずに残っていた。調理をしているおねいさんが頑張って作っているのを、知っている。そして、カネが無い僕は常に餓えていた。
「戻りましたー」
「お帰りー。残飯は捨てといてなー」
おねいさんの指示に従って、残飯を捨てる。
「なんか、もったいないですよね」
「あー、そうやけど。なにしてるかわからんし、捨てとき」
バイトを始めて間もない頃、食器にねちゃっとしたモノが付着していたことを思い出した。
「うえっ。そうですね」
そんなこんなで、学園祭には行けなかった。しかし、後輩が酒を持って訪ねてくれた。
「ああ、そうだ。学園祭に晴子さんが来てましたよ。三輪さんが来ないって言ったら、残念がってました」
「ふーん。だったら、手紙でも出してみるか」
晴子さんは、同期の美人さんでいつも笑顔だった。ただ、その笑顔がなんだか無理しているような、嘘くさいような気がする笑顔だった。
一度だけ泣いている顔を見たことがあって、この娘も泣くんだなあと思ったものだった。
その後は普通の友人の一人ぐらいな間柄で、五回生に進級してしまった自分に対して晴子さんは同期で最も早く卒論を提出して卒業した。
手紙は出したが、何を書いたか覚えていない。返事もおそらく来ないであろう。