階段の下
皿洗いのバイトに出勤してまずすることは、タイムカードを押すことだった。
ガシャコン
「おお」
前職ではなかったマシンに、感動する。働いた時間だけ給与に反映されそう、スゲエ!朝出勤して翌朝終業とかなさそう。
「……三輪くん。なんか感動しているところ悪いけど、制服に着替えようか。ついてきて」
「あ、ハイ。すいません」
お客さんが通らない廊下の陰にある階段を下りる。洗濯機がぐわんぐわんと鳴っている。
「……ああ、ここ。ここで着替えたら事務所に戻って来てな」
「はい」
頭田さんの言葉に頷いて、着替えた。裸電球が一つだけの暗い部屋だった。
帰り道がわからなくなりそうだったが、なんとか戻る。
「戻りました」
「おお、じゃあ仕事の説明するわ」
話によると、休憩のお客さんにはドリンクが、宿泊のお客さんには朝食がサービスでつく。お客さんが帰った部屋にそれが入っていた食器を取りに行くこと、取ってきた食器を洗うことが主な仕事だ。
食器を洗う時の注意点などを聞き、仕事を始めた。
「あー、制服の洗濯は自宅でしたらいいですかね?」
「うん。そうやね。下の洗濯機はお客さんに貸し出したコスプレの衣装を洗うからね」
そんなモノもあるのか……。
お客さんが帰る時間が集中する時間にわたわたしたものの、その日の仕事を終えた。
ガシャコン。
「じゃあ、失礼します」
「おー、またな」
階段を下りて、暗い部屋で着替えた。どうして自分はここにいるんだろうか。そんなことが、ふと頭をよぎった。
階段を上り、部屋から聞こえる嬌声を聞き流しながら建物を出た。自転車での帰り道が少し冷たい10月初めのことだった。