表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

二人の高校生の日常が変化していく始まりの話

作者: natuki

「おはよう、祐也!」

「ああ、おはよう。葵」


 高校へ行く途中の見慣れた公園、そこで俺たちは待ち合わせをしていた。

 いつものことだ。登校するときは毎朝こうやってここで待ち合わせをする。小学校の頃から変わらない。

 今は夏。ちょうど衣替えの時期だ。俺も葵も夏服を着ている。

 葵は少し走ったからか、かすかに汗をかいていた。頬もほんのりと赤い。呼吸を荒くしながら汗を拭う姿は俺の瞳に扇情的に映った。思わず視線をそらす。


「今日は暑いね」

「走れば余計にな。まだ時間は大丈夫だったろ」


 待ち合わせの時間までまだある。だから急ぐ必要なんてなかったはずだ。

 そんな俺の言葉に葵は少し恥ずかしそうに笑い――


「祐也に早く会いたかったから」


 ――そう言った。

 あまりにも真っ直ぐな言葉に一瞬思考が停止する。

 昔からそうだ。葵はこっちが赤面しそうな言葉を平気で言う。……いや恥ずかしそうにしているから平気ではないか。

 ともかく、俺はこうして不意をつかれることが多くあった。だというのに未だ慣れない。


「そうか」


 顔をそらした俺を見た葵は何が面白いのか、にへーと笑って俺の手首を掴んだ。

 俺とは違う柔らかい手の感触。それを堪能する間もなく葵を俺を引っ張って前へと進んでいった。



 いつも以上に上機嫌な葵と一緒に教室へと入る。


「おはよう、みんな」


 葵の挨拶に大多数のクラスメイトが返事を返す。葵は性別関係なくみんなと仲がいい。

 俺が席に座ると隣の席の山田が話しかけてきた。


「早乙女が上機嫌だな。なにかあったのか?」


 早乙女は葵の名字だ。


「なぜ俺に聞く」

「恋人のことなら知ってるかと思って」

「おまえなぁ。葵には言うなよ、それ」

「安心しろ、俺は言わん。俺はな」

「何が言いたい」

「女子なら気にせず言うだろうなって」


 容易に想像ができてしまう。


「何の話?」


 自分の席にかばんを置いてきた葵がやってくる。


「なんで早乙女が上機嫌なのかって話だ」


 目を数回瞬かせたあと、葵はにやっと笑う。


「朝、久しぶりに祐也の照れる姿が見れたからだよ」

「なるほど、把握」

「二人揃ってニヤニヤするのをやめろ。俺の照れる姿を見て上機嫌になる理由がわからん」

「だって祐也の照れる姿がかわいいもん」


 まったくもって理解できん。


「いつものクールなときと、照れてるときのギャップがすごいよな」

「分かってるじゃん、山田くん」

「お前の次には夕凪と付き合い長いからな」

「中学の頃からだもんね」

「そうそう、いやぁ懐かしいな」


 俺をよそに俺の話で盛り上がる二人。付き合いきれんとばかりに俺はチャイムが鳴るのを待った。結局チャイムが鳴るまで二人は話し続けた。



 午前の授業が終わり、ようやく昼休みの時間となる。すぐに俺たち三人は席をくっつけて昼食を開始する。

 山田はコンビニで買っただろう菓子パンとコーヒー。

 そして俺と葵は。


「はい、祐也の分」


 そう言って葵は弁当箱を渡してきた。


「ブラックのコーヒーで良かった。危うく糖分過多になるところだったぜ」

「やかましいぞ山田」

「毎日、手作りの弁当とか羨ましすぎだろ」


 吐き捨てるように呟く山田。


「山田くんの分も作ってこようか?」

「まじで!? ……いややっぱいいや」


 上がったと思ったらいきなり下がるテンション。情緒不安定だな。


「どうして?」

「どこかの誰かさんに嫉妬されそうだから」

「なるほど」


 納得するな。

 俺は二人のやり取りを無視して弁当箱の蓋を開ける。

 色とりどりの食欲をそそるおかずに、唾液が出てくる。


「いただきます」


 作ってくれた葵に感謝を込めて。

 卵焼きを一口。


「うまい」


 俺は卵焼きはほんのり甘いのが好きだ。そしてこの卵焼きはほんのりと甘い。つまり俺の好みドンピシャだ。それは偶然ではない。葵が意図的に俺の好みに合わせてくれてるのだ。

 もう一口。やはりうまい。


「なんだ?」


 ふと視線を感じて顔を上げると、嬉しそうに微笑む葵がいた。


「頑張って作ったかいがあったなって思ってさ」


 なんとも言えず俺は食事を再開する。

 うん、うまい。


「……菓子パンは失敗だったな」




 放課後、俺と葵は公園にいた。ちなみに山田はいない。あいつは帰宅部ではないからな。そもそも帰り道が違う。


「うー」


 帰り道で買ったアイスを食べて葵は唸った。俺は眉間を抑えなんとか耐える。


「冷たい。でも美味しい」


 俺たちはベンチに座って遊具を眺めながらアイスを頬張る。時間が時間だからか公園には子供がいない。


「懐かしいね」


 葵がふと呟いた。


「昔はここでよく遊んだよね」

「泥だらけになったりしてな」

「うん、そのあとお母さんたちに怒られた」

「でも楽しかった」

「最高にね」


 ほんの少し冷たい風が吹き、俺たちの体温を下げる。


「今が過去を懐かしむように、未来も今を懐かしむようになるのかな」

「俺たちも大人になるからな」

「そうだね。そうだよね」

「将来が不安か?」


 葵は首を振る。


「ううん。ただ、寂しいなって。楽しい今が過去になっちゃうのが」


 今が永遠に続けばいいのに。

 

 葵はそう呟いた。俺はそれにどう返していいか分からなかった。


「さ、そろそろ帰ろ。アイスも溶けちゃったよ」


 溶けたカップアイスを飲み干し、俺達は公園をあとにした。



 翌日の朝、俺は公園ではなく葵の家の前に来ていた。

 さっきメールがきたからだ。文は短く。

 

 家に来てほしい。

 

 それだけだった。

 チャイムを押すと葵のお母さんが扉を開けた。


「おはようございます」

「おはよう、祐也くん。さ、上がって」


 おばさんは俺を急かすように家へと入れた。


「俺、葵に呼ばれてきたんですけど」

「知ってるわ。葵は部屋で待ってるから行ってあげて」


 何度も来た家だ。葵の部屋の場所は分かっている。


「葵のこと、よろしくね」


 よくわからないので適当に返事を返しておく。

 葵の部屋の前についた俺はドアをノックした。


「葵、俺だ。来たぞ」


 するとドアが開き俺は中に引きずり込まれた。転びそうになる体をなんとか支える。


「あぶねっ。どうしたんだよ葵」


 目の前にはパジャマ姿の葵がいた。そしていきなり脱ぎ始めた。

 思わず顔をそらす。


「あー、着替えるなら外に出てるぞ」

「見て」

「何を?」

「僕を」

「人の着替えをジロジロ見るのはマナーいはん――」

「ふざけないでちゃんと見て!」


 いつもは聞かない葵の怒鳴り声に、俺は渋々言うことを聞く。

 葵はパジャマの上を脱ぎ肌着も脱いでいて。つまり上半身裸だった。恥ずかしそうに腕を後ろに回して真っ赤な顔をそらしている。

 見慣れた華奢な体。でも一つだけ覚えのないものがあった。


「は?」


 思わずそんな言葉が溢れる。

 理解不能。

 葵の胸部。そこは少しだが確かに膨らんでいてまるで……。

 いや、ありえない。だって葵は、女としか思えない顔をしていても


「祐也」


 女のように華奢な体をしていても


「どうしよう……」


 女みたいな名前をしていても


「女の子になっちゃった」


 男のはずなんだから。

最後まで読んでくださりありがとうございます。

よかったら評価お願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ