1、もう一つのプロローグ
「んー…よく寝た……」
彼女は家の前で大きく背伸びをしていた
小山の一角をくりぬいたように作られた木造の家
その前には小さく囲われた柵があり、そこでは金色に揺らめく植物が育っていた
「今日も変わらない朝。うん、心地いいね」
彼女は家の隣に置かれているチェストを開けると
中で何かをゴソゴソ探していた
取り出した物は両手で丁度良いサイズの斧
「さて、と」
彼女は手にした斧を腰のベルトへと装着させると、そこから何処かへと歩きだした
家の目の前は覗き込めば吸い込まれる程の深さの水
その水底からは天を隠す程の巨木が点々と、力強く生えていた
水の上に設置された、しかし長年の歳月で所々が崩れてしまっている石橋を歩いていくと
右手にはその巨木に囲まれた泉が、左手には様々な種類の木々が植わっている植林場が見えてくる
彼女が斧を持つ理由は、その植林場にあった
毎朝彼女は生活の糧にしている木材を収穫するため、植林場へと向かう
暫く作業をした後、向かい側の泉のほとりで昼食を取ることが日課だった
彼女は今日も所狭しと生えている木を伐採しに向かおうとしていた
毎日変わらぬ風景を、さも新鮮に眺めながら向かおうとしていたのだ
しかし、今日は違った
いつもは植林場へ真っ直ぐ視線を向けている筈が、今日はふとした拍子で泉の方を眺めながら歩いていた
「……何か、居る?」
彼女以外誰一人として見かけなかったこの森に、あの泉のほとりに
生えている雑草とは全く掛け離れた色が配置されているのだ
彼女は咄嗟に走っていた
あのいつもと違う風景の正体は何なのか
もしそれが、彼女以外の人間だったら
期待をしても、違ったときの喪心は計り知れない
一筋の希望と、一抹の不安を覚え、その正体の元へと走っていった