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転生

はじめまして。初投稿です。

誤字・脱字・文法のおかしいところがあれば、教えていただけると嬉しいです。

突然、全身を襲う強い痛みに、八木太郎は目を覚ました。

 ーーいつっ!

 あまりの痛さに、呻き声を漏らす。

 すると、太郎のすぐ近くで、驚きを含んだ男の声がして、続いて落ち着いた女の声が耳に入った。それは記憶にない、初めて聞く声だった。加えて気になったのが、発音からして、日本語に聞こえなかったことだ。さりとて、英語というわけでもなく、太郎が今までに耳にしたどの言語とも当てはまらなかった。

 いや、そもそもの話、自分以外の誰かがここにいることに、太郎は驚いていた。

 昨晩、自室の寝床に入って寝たことは、しっかりと頭に残っている。太郎は一人暮らしをしているし、昨日誰かを家に泊めた記憶もない。だから、太郎の他に人がいるのはあり得ないことなのだ。

 太郎はパニックに陥りながらも、なぜだかやたら重たく感じる目蓋を押し上げて、目で状況を確認するとーー。


 視界に入ってきた光景に、頭が真っ白になった。

 そこは、太郎の自室ではなかった。いくつかの蝋燭が灯っている、狭くて薄暗い石造りの部屋だった。太郎は部屋の中心にある、黒いクロスのかけられた四角い台の上に寝かされていて、さながら、黒魔術か何かの怪しい儀式部屋のようである。

 そして、太郎の目の前には……見知らぬ女と男が立っていた。間違いなく、声を発していたのはこの2人だろう。

 女は、黒を基調としたドレスを纏い、ウェーブのかかった艶やかな長い金髪を際立たせていた。また、男の方は、女と同色の髪を短く整え、黒いコートを羽織っている。2人の顔つきは欧州系そのもので、その格好も含めて、少なくとも日本人ではないことは明らかであった。

 けれども、そんなことが気にならなくなるほど、我が目を疑うような奇異な特徴を、2人は有していた。

 頭にツノが生えている。背中越しにしなやかにうねる細い尻尾のようなものも見えた。その上、太郎を見つめるその真っ赤な瞳は、仄かに光っていたのだ。

 

 太郎が茫然自失していると、どこか優雅さを感じさせる足運びで、女が太郎のそばへ寄ってきた。太郎はそれを無意識に目で追っていると、ついと女の目が煌めく。

 その瞬間、太郎の頭の中に直接、女の声が響いてきた。


『無事にお目覚めになったみたいね。嬉しいわ。お体の具合はよろしいかしら?』


 そう問うた女の口は、ピクリとも動いていなかった。耳で認識した声ではなかったし、テレパシーの類なのかもしれない、と太郎はぼんやりと思った。

 そして太郎は、そうすることが自然であるかのように、無自覚に、口ではなく、心の声でそれに返す。


『……えっと、体は、全身痛みがあって』


 本当は、聞きたいことが山ほどあった。しかし、整理のつかない頭では、それらを上手く纏めることができず、しばし悩んだ挙句、聞かれた事だけに答えた。


『あらら……どうも、まだ魂が身体に定着していないみたい。ごめんなさいね?じきに治まると思うから、少し我慢して頂戴。……本当は、もう少し落ち着いてから、とも思ったけれど—』


 そこで一度言葉を切って、女は視線を男の方に投げる。


『最低限のことは伝えておかないと、かえって不安が大きくなるって言わちゃったから。自己紹介とここがどこなのかくらいは、話しておきましょうか』


 そう言うと、女は一歩下がってから、長い髪を払って姿勢を正した。


『はじめまして、異世界のお方。私の名前は、アナスタシア・シャントバーレ。そしてここは、私の居城シャントバーン城の中の一室。私達はここでね、異世界人をこの世界へ転生させる魔術を行っていたの。結果、魔術は無事に成功して、こうして今、私はその転生者と話をしている。—つまりね、端的に言ってしまうと、貴方は、この世界に転生させられた異世界人ということになるの……まあ何はさておき、私達は、貴方に危害を加えるつもりは一切無い、ということだけはわかっておいてほしい』


 アナスタシアと名乗った女が告げた事実に、太郎は目を丸くする。異世界だの、転生だのと、何かのファンタジー小説にでてきそうな話だ。しかし考えてみれば、太郎の目の前にいる、テレパシーを送ってくる角と尻尾の生えた人間もどきが、すでに十分ファンタジーじみた存在である。今更そこは驚くところではないだろう。むしろ、この状況では逆に現実味のある話にさえ思えた。

 半信半疑ではありつつも、太郎は欲しかった情報を手に入れて、自分の置かれている現状を少し把握する事ができた。少なくとも、太郎に敵意がないのだとわかり、ひとまずの安心を得られた。

 安心したからか、そこでふっと緊張が和らぎ、すっかり意識の外に追いやっていた痛みがかえってきた。それに思わず、太郎は眉間に皺を作る。

 その様子を見たアナスタシアは、少し考える素振りを見せてから、男となにやら話を始めた。太郎は、相変わらずテレパシーではない生の会話を理解する事ができず、困惑しながら成り行きを見守るしかない。話を終えたアナスタシアは再びこちらを向き、テレパシーを送ってきた。


『少し不安にさせてしまったかしら?安心して、貴方が辛そうだったから、一旦話を切り上げて、休息をとってもらうことにしたの。急ぐことではないし、貴方には体の休息と、頭を整理する時間が必要だと思うから。……それじゃあ、また後でね』


 アナスタシアは太郎に優しく笑いかけてから、踵を返して出口へ歩いていく。続くように男もアナスタシアの後につき、2人は部屋を後にした。



 2人が出て行った扉から、遠ざかる足音が完全に消えると、太郎はおもむろに、ふぅーと大きく息を吐いた。

 人が居なくなったこの部屋は本当に無音だった。普段なら心細くなる静寂さだが、今はそれが逆に安心感を与えてくれる。

 目覚めたら突然、知らない場所にいて、知らない人がいる。そんなところに放り込まれれば、たとえそこに敵意が無くても、恐怖を拭うことなどできるわけがなかった。太郎は強い警戒心からくる緊張状態が続き、精神は疲労困憊していた。

 鈍い痛みを意識から外したくて、さきほどのことをぼんやりと思い返していると、自然と眠気が襲ってきた。それから自分でも分らぬうちに太郎の意識は深く深く落ちていく。


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