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救いのない世界にドロップキック  作者: 星鴉ゆき
第一章 人間の運命は自分の魂の中にある
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08話 ヴィヴァーチェ

時刻はまだ19時、店内に入るなら人も多く紛れ込みやすい時間だ。

とりあえず教えてもらった店をハシゴする事にした。


(遊撃なら隊長は蝿庭はえにわか)


〝パルプフィクション〟は四つの隊で構成されている。


リーダーの下に親衛隊、特攻隊、遊撃隊、別動隊があり親衛隊は少数精鋭

主にリーダーの護衛として機能している。


特攻隊は他グループとの抗争など戦闘面を受け持ち

遊撃隊はその他の悪事を一挙に引き受け、運営面での仕事が多い。


別働隊は正式には隊ではなく、パルプの名前を借りたい若者達

先程の青年のような雑兵の総称である。

もちろん名前を借りる反面、金や女を収めるというデメリットも発生する事になるが。


「いないとは思うけどもし現場にいたらめんどくさいな……」


隊長クラスと争う事になると話が大きくなり鴻の手にはおえなくなる。

その旨を翼に相談しようとスマホをいじっていると後から声をかけられ肩を叩かれる。


「おいおい鴻! 俺の誘い断っておきながら遊びに来てんじゃん!! 嘘つきめ!」


旭だった。


非常に気まずい。


仕事モードを解除し、作り笑いを浮かべながら返事をする。


「おおー旭ぃー違うよ? 遊びじゃないんだよ? バイトだよ今絶賛バイト中」


旭は探偵事務所でアルバイトをしている事は知っているが、荒事に関わっているのは知らない

薄々感づいているようだがそれを言って来ないのが旭の良さであり


明らかに不振な態度にも突っ込まないのが旭の良さだ。


「嘘つけよ? こんな所に突っ立って、私服にまで着替えて、如何わしい店でも探してたんだろ?」


「いやほんと。現在進行形なんだよマジで」


「えー?」と顔を傾け、疑惑の眼差しを向けながら旭は会話を続ける。


「まさか……尾行とかか? もしかして邪魔したか?」


「いや、大丈夫。内容はいつも通り守秘義務ってやつで……」


「オーケー。わかった。聞かないよ。お前なら大丈夫だと思うけどあんまりヤバイ事すんなよ」


「おう」


「邪魔すると悪いから俺はもう帰るな。そろそろ物騒な時間帯になってくるし、お前も早めにあがれよ」


「ありがと。もうすぐあがれるから心配無用だ」


「そっか。じゃーな!」


「おう」


旭の背中が見えなくなるのを確認した所ですぐに翼に連絡。通話中だったので何回か掛けなおす。

なるべく隊長クラスとは揉めるなと言われたが、とにかく早く終わらせろとの事。


(『絶対に!』って言わなかったしオッケーだな)


正直根回しや、人払いをしたり、小細工するのは性に合わないが、事務所に迷惑かける訳にはいかないので報告はしておく。

隊長が邪魔をしてきたらその時はその時だ。


すぐに近くの店から順に回る。


時には店の前の黒服に止められ、時には店のトイレでドラッグを進められ

酔っ払いにからまれ、露出多めの女性に抱きつかれながら


五件目で当たりを引いた。


「アンタ、長壁を探してるんだろ?」


知らない青年に声をかけられる。少し声が震えているようだが

敵意はなさそうなので話を聞くことに。


「クラブ〝‐テンプテーション‐〟今ここにいるはずだから行ってみるといい」


こちらが必要な情報だけを与え彼はすぐさま人混みに消えた。


胡散臭さ充分、完全に罠だと思ったが

逆にチャンスでもある。


「虎穴に入らずんば虎児を得ずだな」


相手を軽視しており、ショートカットしたいだけだったので、このことわざは少しだけずれているのだが

鴻は好都合と乗ることにし、〝‐テンプテーション‐〟にすぐに向かった。


ブラックライトとブルーライトで照らされている店内にはダンスフロアがあり

顔をしかめたくなる程の音量のBGMが鳴り、そこで若者達が踊り狂っていた。


その奥に一際大きい個室があり、そこから非日常の匂いを感じた鴻は一直線に近づく。


「止まれ」


〝 VIP ROOM 〟と書かれた個室に繋がる階段の手前で

近くにいた体格が良い長身の男と

背は平均より少し低いが背に対し反比例するかのような筋肉の男m

おそらく護衛び二人に止められた。


「上に何の用だ?」


「え、蝿庭さんに呼ばれて来たんですけど、聞いてませんか?」


おそらく上にいるであろう人物の名前を出しカマをかける。


「今日は客が来るとは聞いてない」


「伝達ミスではないですか? 俺も直接やり取りした訳ではないので途中で齟齬そごがあったのかも」


思い当たる事があったのか分からないが、少し難しい顔をして


「確認してくるお前はそこにいろ」


と長身の方が言い、階段を上がって行った。


部屋に入るのを確認して鴻が動く。


残った方の護衛の鳩尾に素早く拳をめりこませ、下がった顎に拳をかすらせる。

その速度に反応もできなければ声もあげられない。一瞬で意識を刈り取った。


その男を軽々と肩に担ぎ近くにあったソファーに寝かせる。


「飲みすぎたみたいだから起こさないであげて」


「キャー何この筋肉ぅー!!!」


近くで飲んでいた女性に一言だけ言っておく。

ベタベタ触っているが当分起きないだろう。


こういう時には店内の暗さが都合よく、暗闇と人混みに紛れながら

念の為に被っていたキャップを深く被りなおし、その上からフードを被る

これで頭上にある防犯カメラに記録が残っても顔を確認はできない。

そのまま〝VIP ROOM〟へ走る。


ちょうど確認を終えて部屋から出てきた長身の護衛を勢いのまま蹴りつけ

部屋の中にぶっ飛ばし


一歩足を踏み入れると


四つの銃口が鴻に向けられていた。


「反応いいね」


そう言うと鴻は危機的状況にも関わらず、薄ら笑いを浮かべるのであった。

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