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救いのない世界にドロップキック  作者: 星鴉ゆき
第一章 人間の運命は自分の魂の中にある
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07話 アンダンティーノ

目的地の〝北灰原〟に着き、繁華街から少し離れた所にバイクを停める。


〝北灰原〟は繁華街があり、奥には飲み屋街、そこからはずれると歓楽街もある。

主に若者が集まり、治安はそこまで良くないが学生も見られ

学生服では入れない所も着替えれば入れる為、深夜でも年齢層は余り変わらない

夜でも明るく賑やかな街だ。


(まずは……聞き込みだな)


依頼書に付いていた二人の写真を手に持ち、パチンコ屋、ゲームセンター、コンビニの前などに集まっている若者に目を向ける。


「いないな」


彼らの中で特殊な雰囲気を持っている奴を探す。

〝力〟を持っていたり、異常な日常に身を置いてる人間はやはり雰囲気が違う。

その暴力を普段から撒き散らしているような輩は特に。


〝力〟である〝魂の狼煙(リベリオンソウル)〟を自身の力として行使できる人は戦人候補と呼ばれ

大体脅威度はCランク。


そして〝魂の狼煙(リベリオンソウル)〟を具現化する能力が〝戎器創造アルケミーアームズ〟と呼ばれ

そこへ至った者は〝戦人〟と呼ばれる。


魂の狼煙(リベリオンソウル)〟を使える人間は総人口の三割、戎器創造アルケミーアームズまで至る者は二割と言われているが

希少なだけで、普通の一般人と同じように生活しているし隠れてもいない。


ただ大きな力を持つので争いを非日常と考えている人々とは違う道を歩む事が多く

年齢と共に表では交わる事がなくなっていく。


(時間的に早かったかな)


まだ帰宅ラッシュ中の時間、人も多く、その大半が一般人だ。


やはり表側にはいなさそうだなと、周囲に気を配っていた。


その時


「釣れたかな」


鴻は緩んでいた顔を、すぐに引き締めそう呟いた。


おのぼりさんのように、頻繁に首を動かし、何かを探しているような素振りをしていた鴻を

チラチラと見ている二人組みの男がいたのである。


さすがにここで揉め事を起こすと面倒くさいので、路地裏に進み相手を待つ。


三十秒、一分……二分になりそうなタイミングで


「こんばんは。突然なんですがこの二人を知ってますか? 探してまして」


路地裏に入ってきた青年の目の前に写真を出し、直球でそう聞いた。


二人は突然の事と余りにも敵意を隠さない相手に、驚きと恐怖を覚え

今からカツアゲをしようと上がっていた気分が落ちるところまで落ちる。


本能的に逃げ出すが、一人は走った直後に右脇腹に強い衝撃を受けそのままふっとびゴミ箱をはじく。

少し距離を稼げた男は首を掴まれ、そのまま壁に投げ飛ばされ意識を失った。


蹴りを食らった方は痛みで顔を歪ませながら背後にいた鴻を睨み付けるが


鴻は笑顔で繰り返しこう言った。


「この二人知ってる? 探してるんだ」


まだ痛みと恐怖で呼吸が整わない、答えないとヤバイかもしれないと思いながらも男は声が出ない。


「急いでてさ、知ってるなら教えて欲しいんだけど」


「オ゛ェッ……ちょ、ちょっと……待っ……てくれ、コフッ!」


衝撃と動揺により呼吸困難に陥る。


「抵抗をしないなら何もしない、まず落ち着けよ」


逃げる相手の背後から回し蹴りはやりすぎたかと少し反省をしながら

鴻は青年が落ち着くのを待つ。


「ふっ……ふっ……はぁ――」


痛みが多少引いたのであろう、青年は脂汗を袖で拭いながら


一回深呼吸をして


腹に力をいれ、ようやく弱弱しいが声を出した。


「で、アンタ何者だ? ここら辺で見ない顔だ。なんでその人達を探してる」


「俺が何者かはお前に関係ないだろ? 聞かれた事に答えろよ。立場が理解できないのか?」


相手の口ぶりにイラだちを覚え、ついつい拳を振り上げてしまい

また相手を萎縮させてしまうが


『はっ!』と


振り上げた拳をゆっくり下げ、優しさを意識して語りかける。


「とりあえずこの二人を捕まえたいんだよ。急ぎで」


深い溜息をするとすぐに納得したという顔に青年はなった。


「ま……またなんかやらかして、相手方が報復しに来たって感じか」


「そんな所。深く聞かないでくれるとありがたい。お前が知ってる事を教えてくれればこれ以上は何もしない」


すぐには答えられなかったが、先程のやり取りを思い出し、青年は口を開く。


不意打ちとはいえあの威力の蹴り、瞬時に蹴って足を止めるという強引な判断

片手で成人男性をぶん投げる怪力


一つも普通の所がない。


自分達の幹部にも通ずる異常性。あっち側の住人には逆らうべきではない。


「相手方が報復しに来るのは珍しい事じゃない、でも大体は本人に辿り着く間に処理されるんだ」


「ウチのグループは血気盛んな奴が多いから」


「だから隠れるって発想にならないだろうしその辺にいると思う」


「ちなみに二人の隊は?」


「長壁さんと雨傘は遊撃隊だ」


「遊撃か、よかった親衛隊じゃなくて」


何件かたまり場になっているお店を聞き出し、AR地図アプリで確認。


あまり長い時間足止めをさせていると、不審がって青年の仲間が捜しに来るかもしれない

とりあえず聞きたい事は聞けたので解放する事にした。


「ありがとう。俺の事は秘密でお願いね」


口元に指をそえ歪な笑顔でそう伝える。


「当たり前だ。俺達みたいな名前も覚えてもらえないような雑兵はよっぽどじゃなきゃ幹部に目は付けられないし」


「アンタ、アンタ達とやり合うのはまずいって事は分かる。無関係を装わせてもらう」


「オッケー。じゃまた機会があれば」


「もう会いたくねーな」


そう言うと名前も知らない青年は人目を気にせず、まだ気を失っている相方を引きずり

足早に繁華街から遠ざかって行った。

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