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救いのない世界にドロップキック  作者: 星鴉ゆき
第一章 人間の運命は自分の魂の中にある
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06話 春陰

毎日のように事件、事故が起こり何処かで涙と血が流れている。

だからと言って闇に自分から擦り寄ってはいけない。


裏世界に身を落としていても

心まで闇に落とす訳にはいかない。


鴻は呼吸のように、陰の気を吐き出すために、今日も学校に通う。


平和な日々が続く事を好ましく思いつつ、少しの物足りなさを抱えながら。


「鴻! 今日こそは遊びに行こうぜー! 〝北灰原きたはいばら〟でナンパとかどうよ」


全ての授業が終わり最近よく見る光景。

最早断られる事が当たり前のようになっているが、旭は段々と楽しくなってきていた。


『いつ成功するのか、放課後チャレンジ!!』


毎日、ひたむきに誘ってくれる旭に


「旭……すまねぇ。本当にすまねぇ」


心から謝罪をしつつ

本当に申し訳ないと思いながら

今日もバイトを理由に断る事になった。


「またかよ? 嘘だろ? 奴隷かなんかなのか?」


「時期的に辞める人が多くてさ、しばらくは忙しいんだよ」


「ああ確かに。ならしょうがねーな」


学生を雇用する会社なら、どんな業態でもこの時期は忙しい。

進学、就職などで辞める人も多く

新人が入ってきてもしばらくは教育に人をさき、負担は残りの人材に降りかかる。


〝 ‐jack(ジャック) of(オブ) all(オール) trades(トレーズ)‐ 〟


も例外ではなく


店長の母里は毎日出勤していて、いつ休みを取っているか分からない。

バイトでは守屋 縁がリーダーに着き

九嶋 葵衣、十七夜 鴻が主力となり店を切り盛りしていた。


「んじゃ暇になったら稼いだ金で奢りだぞ?」


「もちろん」


遠慮なく踏み込んでくるかと思えば、見事に境界を見極め距離を空けてくれる。


こんな日常の場面ですら、鴻に取っては心が休まるひとコマで

その目に見えない心遣いが自然と顔をにやけさせていた。



大和高校から大和駅まで徒歩で少し。

駅を抜け南口の路地に入った所にある


〝 ‐jack(ジャック) of(オブ) all(オール) trades(トレーズ)‐ 〟


余り人通りのない場所にあるが、若い女性に人気で今日はいつもより賑やかだった。

いつも通り、裏口から事務所に入ると母里が遅い昼食を食べていた。


「おはようございます」


「……んぐ……もはよぅ……十七夜君」


「うまそうですねホットサンド」


「うまいよ。食べる? あ、でも急がなきゃいけないわ。所長が呼んでるんだった」


「え、あー今日は上ですか?」


「そうそう。今日はこっちはいいから、所長の所へ行って」


「はい。わかりました」


「頑張ってね」


にやけながら見送る母里とは反対に鴻の顔は少しひきつる。

事務所を一回出て、同じ建物内にあるもう一つの階段を上り


〝 九十九探偵事務所 ‐Tukumo detective office‐ 〟と書かれている扉の前に立つ。


(今日はどんな仕事を言いつけられるのか)


緊張しながらドアを二回ノックしそれ程大きくない声を出す。


「おはようございます。十七夜出社しました。」


「入れ」


解錠と思われる電子音が鳴り、ドア越しに微かな声が響く。

少し開いたドアからは威圧感が煙のように溢れ出る。


「はい。失礼します」


見た目とは裏腹に非常に重いドアを開けた先にいたのは

カフェのオーナーであり、九十九探偵事務所の所長


九十九つくも つばさ


鴻が入ってくると、今切ったであろうスマホを机に置き

代わりに机に置いてあった書類を持ち近づいてくる。


「おはよう十七夜。久しぶりじゃないか?

で、今回の仕事だが捕縛任務だ。こいつとこいつを捕まえ――」


「ちょ、ちょっと待ってください」


黒髪を後ろで縛り、女優かと思うような美貌を隠さずに露出している女性は


「なんだ? 早くしろ。私は忙しいんだ」


見た目に反して少し子供っぽい仕草でせかし始め、煙草に火を付ける。


一時期健康被害への懸念や、電子タバコの普及で市場から姿を消した紙巻き煙草だが

ここ最近では有害物質を取り除き、煙と香りを楽しむ嗜好品として復活し人気が再燃している。


特に強い香りのする物が好まれ、翼の吸う『ジョーカー』はその最たるものだ。


「それはすみません。まず仕事の概要とか説明して欲しいんですけど」


「現地に向かう前にさっと読めばいいだろ。難しい仕事じゃない。結果が伴えば問題ない」


無茶苦茶だなと思いつつも、この一瞬のやり取りで鴻の緊張はふっとんだ。


「と、言いますけど翼さん……結果が伴っていても内容次第でメチャクチャ怒るじゃないですか……」


「ん? ふむ。しょうがない、とりあえず座れ。そしてこの書類に目を通せ。説明してやろう」


少し固めの片側三人掛けソファーの中央に腰を落とし、渡された書類を読み始める。


「――期限が、三日!?」


と声を出して驚いてはみたがいつもの事だった。

護衛任務や、何かしらの調査でもない限り短期決着が基本である。


書類を読み進める。



《依頼書》


《危険度》 C


《ターゲット》


長壁おさかべ たける


雨傘あまがさ 一磨かずま


《所属》


〝パルプフィクション〟


《脅威度》 Cランク


《捕獲レベル》 B



〝パルプフィクション〟通称ゴミだまり。暴行、恐喝、強姦、強盗までやるクズの集まり

便所虫と呼ばれ嫌悪、畏怖の対象にされている水仙高校の卒業生、在校生が過半数を占める。


「今回は婦女暴行ですか、でもウチに依頼が来るという事は私刑目的ですか?」


「ああ。相手が悪かった。きっちり落とし前をつけさせたいから生かして渡せだとさ」


「自分達でやればいいのに……」


「さすがにパルプとは表だって争いたくないんだろう。やるなら根こそぎになっちまうし、未来の自分達の兵隊を減らしたくないってのもあるだろうな」


パルプは数ある集団の中では最弱と言われている

個々の力やトップの力だけで言えば他のグループに到底勝てない。


しかし大半が未成年で裏社会のルールを無視し、無鉄砲な行動をしてくる。

数も多く把握ができず、その他に名前のない捨て駒が多数存在する。

損得ではなく感情で動き、交渉の席にも着かない為、単純に面倒な相手なのだ。


少数をターゲットとした場合はとにかくこちらを特定されない事が重要視される。


「ま、危険度的にもレベル的にも問題ないですね。なるべく目立たないようにできるかが問題ですが」


脅威度はEからSSランクまでで、A以上は人外と言っていい。


捕獲レベルはAがなるべく傷を付けず、Bが意識があれば、Cが息があれば、Eが殺して良い。


今回はBなので楽ではある。Aはとても難しい。

こんな所に依頼が来る相手にそんな芸当は中々できない。


「大体の場所も書いてありますし、今から調査がてら行ってきます。今日は早く帰りたいので終わりは明日か明後日でいいですよね?」


「ん?]


翼は大きく煙草を吸い煙をゆっくり吐き出し続けてこう言った。


「なめてるのか?」


「すぐ終わらせられるならすぐ終わらせろ。忙しいと言っただろ?」


「お前……仕事をガキのおつかいかなんかだと、まだ思っているじゃないよな?」


口調が強い。


目つきも先ほどより鋭く、瞳の中は優しさの欠片もない深い黒。

このような時は反論や言い訳をしてはいけない。


今までの空気が嘘のようにヒリつく。


「はい。すぐに片付けます」


「最初からそう言え。遊びじゃないんだ、依頼者がいるんだぞ。さっさと行って来い」


眼光の鋭さが弱くなるのを確認して一息付く。


「――はい! 行って来ます。失礼しました」


完全に失敗した。


命のやり取りにも慣れてきて仕事に対して緊張感が無くなってきていた。

気持ちの緩みは命取り、緊張が命綱にもなる事を知っていたのに。


それは九十九の前でも例外ではない

雇い主であり、師匠でもあるのだから。


『常に気を張れ戦人も人間だ。死ぬんだ』


『誰の前でも緊張の糸を張り、気を許すな』


最初の頃から散々言われてたのに、忘れていた。


鴻は冷や汗を拭いながら退出し、右手側にある『 STAFF ONLY 』と掻いてある更衣室で

制服から私服に着替え外へ出る。


そして店の駐車場に置いてある愛車


黒の〝 Samurai-XX-1000R 〟に跨り、目的地の〝北灰原きたはいばら〟へ急行した。

〝 Samurai-XX-1000R 〟


モデルは〝 Ninja 1000 〟


大型自動二輪ですが、この世界では16歳から免許が取れます

障害物センサーなどが自動車、自動二輪と販売されている全車種に搭載され

自動運転などの性能も良く

マニュアル運転で故意に事故を起こそうとしない限り事故は起きません


速度センサーも搭載されていて、高速などに乗らない限りリミッターは自動解除されませんが

マニュアル操作に変更すれば解除も可能です

しかし事故にあった場合はマニュアル操作の時点で過失割合は10対0になるでしょう

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