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救いのない世界にドロップキック  作者: 星鴉ゆき
第一章 人間の運命は自分の魂の中にある
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04話 学生の本分

国立大和高等学校こくりつやまとこうとうがっこう


日本の都市、大和市新都心のほぼ中央に陣を取る国立高校が鴻の通う高校である。


未だ社会的に畏怖の目で見られる戦人候補を守る為

そして力の使い方を学ばせ社会に送り出す為。


〝戦人特別育成学科〟を国内でもいち早く取り入れ

その教育に力を入れている。


早足で校門をくぐり、下駄箱付近でクラスメイトと軽い挨拶を交わし


教室に入った所で予鈴が鳴る。

舞雪と遊んでたおかげでギリギリだったが


「セーフ」


「相変わらず幼な妻に起してもらってるのか?」


「おい大きな声でヤメロ」


朝の挨拶もせずに不躾ぶしつけな事を言うのは鴻のクラスメイトの


矢城やぎ あさひ


「……ロリコンですわね」


「小声でもヤメロっ!」


音量は小、文字数も少のエコ仕様で心を見事に抉ってくる女子は


アイリス・フローレス


「鴻聞いてよ!! 遂に僕にもモテ期が来たんだよ!! ラブメールが鳴り止まないよ!!」


「二度とないかもしれないから、ひとつずつ丁寧に心を込めて返信するんだぞ」


「う、うん」



「相変わらずバカですわね」


「えっ」



「よ、よかったな」


「でしょぉーー!!」


旭だけお情けの返答をするが、他二人はいつもの事だと適当に流す。

毎日こんなぞんざいな扱いをされても全くめげない彼は


風越かぜこし 夏輝なつき


ちなみに馬鹿と辞書を引けば風越 夏輝と出てくる。


ほとんど放課後や休日を友人と過ごさない鴻は深い付き合いの友人が少ない。

挨拶をする程度、顔見知りと言っても大袈裟じゃない関係性のクラスメイトが大半な中

この三人は鴻にとって数少ない親しい友人達である。


「お金もくれるっていう人もいるんだよ! 僕の魅力がここまでとはさすがに自分でも怖いよ!」


「確かに色々と怖いな」


「そのお金があれば学校辞めても大丈夫ですわよ夏輝」


「アイリス……本当に辞めそうだから余りそういう事言うなよ」


授業が始まる前のこのやり取りが平穏な日常を感じる事ができる少ない時間であり

鴻が遅刻をしない本当の理由だった。


「あ、鴻、そういえばアイリスがなんか言って欲しいみたいだよ?」


「ナツキッ!?」


「ん?」


鴻はアイリスの足元から舐めるように見つめ、胸をスルーし顔へ

顔が徐々に赤くなり、目が泳ぎ始めているアイリスの顔をじっと見つめ


「今日は髪編んでるんだな。可愛いじゃん」


本心だが、からかい気味に言う所が鴻の悪い所だった。


「か! かわわわ! せ! セクハラれすわよ!!」


照れているのをごまかそうとするが、呂律が回らなくなりあたふたする。


「セクハラ? セクハラってのはこういう事を言うんだよ!」


アイリスの戸惑う姿が余りに可愛かったので楽しくなった鴻はそう言うと

そのまま膝を曲げ、目線をアイリスの胸の高さに下げ


「態度は大きいのに、胸さんは小さいままですねー!!」


進んで地雷を踏みに行く男気を見せた。


「……」


見る角度からは無表情のような、ひきつった笑顔

そこから繰り出される音にならない怨嗟の声。


「~~~~~~~~っ!!!!」



「……」



「~~~~~~~~っ!!!!」


首筋まで真っ赤にしたアイリスの手本のような正拳突きが鴻の顔へ

直後、やってしまったという顔見せながら、止めを刺すべくすぐさま追撃をした。


鈍器で殴ったかのような音を連続でさせながら眉間を貫き拳がめり込んだ。


「楽しそうだな」


薄れゆく意識の中で旭が苦笑いをしていた。



一限目を昏睡学習で終え、目を覚ました鴻をいつものように友人達がからかう。


斜め後にいるメデューサが殺気を撒き散らしていたので

夏輝をアイギスの盾代わりにするが、盾はボロボロ結局授業は全く耳に入らなかった。


午前の授業が終わり


昼休みで学校が騒がしくなる中


「今日はまだ見てないな。来ないのかな」


唐突に旭が言う。


「最近で来なかった日なんて水曜日以外にあったっけ?」


主語はないが会話は成立しているようで夏輝が返す。

それを聞きながら苦笑いをする鴻。


その時廊下がざわつく。徐々にざわめきが教室に近づいてくる。


「さて、行くわ」


と、呟くと同時に鴻が窓から飛び出す。器用に壁を蹴り木に腕を伸ばし着地

そのまま全速力で校庭を走り去ってしまった。


「相変わらずすげースピードだな」


「あ、お弁当持って行ってない! 鴻待ってー!」


ガラガラと教室のドアが開き、ざわめきの中心にいた人物が入ってくる。


「みなさんこんにちは。さて鴻ちゃんはどちらに逃げました?」


羞花閉月しゅうかへいげつ


そのうちこの言葉の意味にこの人の事が書かれるのではと

まことしやかに囁かれている程の容姿から


逃走犯を追いかける刑事のような質問をする彼女は


旭達と同じ2年でありながら生徒会副会長であり学園のマドンナ、そして舞雪の姉である


英守ひでもり 未羽みう


「そこの窓から飛んで行ったよ」


「旭君ありがとうございます。お礼はカツサンドで良いですよね?」


「ああ。毎回悪いな」


「いえ」


「ただ、できれば縛り付けておいてくれると嬉しいのですけど」


「できたらやっとくぜ」


「是非お願いします。それではお二方、失礼します」


物騒な事を言いつつ笑顔が崩れない彼女はそう言うと、鴻と同じように窓から飛び出した。


器用にスカートを抑えつつ、木の葉のように降りたつと


鴻と反対の方角へ走っていった……。


「あのスカートは一体何でできてるんだろうな」


旭は先程貰ったカツサンドを頬張りながら真面目な顔で呟き


夏輝は鴻のお弁当を持ち、至って真面目に自分のお弁当は忘れ、廊下を勢いよく走り去った。


一連の様子を遠目で見ていたアイリスは、窓の外を不機嫌に見つめていた。


犯人とそれを追う刑事のドタバタ劇に誰も干渉しない。


(いつも飽きないな)


クラスメイトはそう思うだけ。



すべての授業が終わった事を告げる鐘が鳴り、終礼も終わり


「んじゃまた明日な!」


アウトドアブランドのリュックに教科書などをそそくさと詰め込みながら鴻は言った。


「なーたまには帰りにどっか寄って行かね?」


「      行くー!      」


ほとんど荷物のない旭はリュックを担いで準備万端で鴻に聞く。


「悪い。今日もバイトでさ、時間ないわ」


「はぁ……。忙しいのは分かるけどたまには息抜きも必要だぞ」


「そうだな」


「    え、行かないの?    」


「俺らはまだいいけど、未羽ちゃんとはたまには帰ってあげろよ?」


「それは大丈夫」


「     聞いてるー?     」


話が長くなってしまいそうな事を感じた鴻はそう一言だけ告げる。


「何が大丈夫なのかは詳しく聞かないけど……ったく」


鴻の意図を汲み取った旭は言葉を飲む。


「悪い!また誘ってくれ。じゃーな、また明日」


「おう」


「無視しないでよーーー!!」


「悪い悪い夏輝。今日はパスだ。この埋め合わせは必ずする!」


「絶対だよぉ?」


「おう任せろ! また今度な、じゃーな」


「むぅーわかった! 今度ね!」


少しだけ気まずさが残るが

二人は鴻の足を止めさせる事なく見送り


鴻は足早に教室を出るのであった。

『羞花閉月』 読み方:シュウカヘイゲツ


美人の容姿のすぐれてうるわしいこと


あまりの美しさに花を恥じらわせ、月も恥じらい隠れる意から

『閉月羞花 へいげつしゅうか』ともいう

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