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救いのない世界にドロップキック  作者: 星鴉ゆき
第一章 人間の運命は自分の魂の中にある
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03話 安穏な日々

「…」


朝の淀みのない空気に鳥の澄んだ声が響き渡る。


「…」


日が昇り、差し込む少し暖かい光で


浅い眠りから意識を呼び起こし


体も起こす。


「…」


ハラリと掛け布団が床に落ち

タラリと流れ落ちる嫌な汗を反射的に拭うと


ドアがトントントンと規則的にノックされ

それと同時に部屋の外から声が聞こえた。


「鴻にーちゃーん朝ご飯だヨ~!!」


「んん……はーい」


「着替えて! 早くっ!」


「お、おう。すぐ行くよ」


「冷める前にね! 早くっ!」


いつも元気な声で起こしにくるのは英守家の次女


英守ひでもり 舞雪まゆ


鳴らなかったアラームを解除しつつ、制服に着替え階段を降りる。


「おはよう鴻君」


「おはようございます。夜見さん」


鴻にマイナスイオンの塊のような爽やかな笑顔を向ける女性は

英守家の大黒柱であり舞雪の母親。


英守ひでもり 夜見よみ


寝惚け眼で挨拶するのは、十七夜 鴻、英守家に二年前から居候している男子高校生である。


「鴻君、今日はお夕飯には帰ってくるの?」


朝ご飯を食べ始めてた手を一旦止め、口の中を空にしてから答える。


「いえ、すいません。今日もバイトがあるので早く終われば……」


朝の光に照らされていた夜見の顔が僅かに曇る。


「そう……おまり遅くならないようにね。帰ってくる前には連絡ちょうだいね」


「はい」


ばつが悪くなってしまい、鴻はそそくさと朝ご飯を済まし洗面台に向かう。


「ふぅ……」


顔に水をかけ、歯を磨き、寝癖を手ぐしで直し


「それじゃ、いってきま……」


「鴻にーちゃん! 舞雪も行く!」


満面の笑みで舞雪が後ろに張り付いた。


「それじゃ、いってきます」


「いってきまーす!!」


「はい。いってらっしゃい。二人共気をつけてね」


桜が散り始め、世の中が少し落ち着き始めた朝

二人は途中まで一緒の通学路を歩き始める。


「昨日みーちゃんがね――」


学校の話、昨晩見たアイドルの話などたわいもない話題で会話が進むが



「鴻兄ちゃん、ママは心配なんだよ?」


「……うん。わかってる」



唐突な舞雪の真剣な眼差しは、普段とのギャップがありすぎて

鴻を驚かせ、純真なまなこは鴻の心をひどく苦しめる。


「わかってないでしょ? あんまり心配かけるとお姉ちゃんに言うよ?」


「うっ、ごめん。お姉ちゃんには言わないで」


「どーしよーかな~? 甘い物が食べたいナ~?」


「プリン? シュークリーム? ケーキ? 今日にでも買ってくるよ!」


「絶対だヨ~? プリンね! あ、あと、バイトもいいけどたまには舞雪とも遊ぶんだよ! 指きりね!」


「そうだな。わかった。指きり」


舞雪の目線に合わせ鴻は少し屈み

そっと小指を差し出すが



――うりゃああああああ



指きりでは聞いた事がない効果音が聞こえ

ぐるんぐるんと腕がはずれるかと思う程に腕を回され


「ゆーびきりげんまん、うそついたらはりせんぼんのーます♪」


「ゆびきった!!」


「腕折れたっ!!」



鴻がアームブリーカーをくらったレスラーのようなリアクションをしていると

ニヒヒヒと女の子には似つかわしくない笑い方をするクソガキは

スキップをしながら先を進んでいた。


「ほら! 周りをちゃんと見て! 気をつけろー」


テンションが上がってショートの髪がなびく程に走り回る舞雪を

ハラハラしながら見守る事数分

舞雪の通っている学校である青鳳学園せいほうがくえんに着いた。



「よし!しっかり勉強するんだぞ」


「りょーかいだヨ~」



「いってらっしゃい」


「いってきま~す」



大げさに両手を振り


「バイバーーーイ!!!」


と大きな声で周りの注目を一身に集め、まだあどけなさの残る少女は走り去っていった



――あ、こけた。


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