表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
救いのない世界にドロップキック  作者: 星鴉ゆき
第一章 人間の運命は自分の魂の中にある
3/22

02話 リマインド

声と同時に足元に練成陣が展開し、黒い闘気と同時に右手に出現したのは

周りの光をすべて吸い込むような漆黒の刀。

禍々しい力を撒き散らせながら、黒き刀身で正面のウサギに斬りかかるが


その瞬間、両側面から四つの斬撃が飛んできて

その間を使いウサギはバックステップで攻撃を避ける。


お互いを邪魔しないような角度で斬りこんでくる所に力量の高さと多対一への慣れが見えるが

避けられた刀身を切り返し、黒い軌跡を描きながら∞を描くようにすべてはじき返す。


ぶつかりあう剣戟の音が四つほぼ同時に鳴り

衝撃で鴻の手は若干痺れるが

連中は武器を大きく弾かれ体勢を崩す。


その中で一番体制が崩れていた白人の被り物の敵を肩口から斬りつける。


予想外の反撃だったのか、一瞬動揺が走ったように硬直した隣のカボチャの腹部を刺し

そのまま蹴りつけ、反動で刀身を抜き、流れるようにすぐさま葵衣の前に戻る。


意識はまだ戻っていないようだ。この惨状を見たらまた気を失うかもしれないが。


たった一瞬の確認すらまたず、ゾンビとアニメキャラの被り物が襲ってきた。

刀身に力を込め、黒い斬撃波を飛ばしそのまま自身も飛び掛る。


一合で油断が消えた相手はもう隙がなく打ち合いに突入する。

騒ぎを聞きつけ警察が来るのも時間の問題だった。

警察が来ると多少なりとも面倒な事になるので早く片を付けたい。


焦り始めたのは相手も同じだったようで状況が大きく動く。


「なっ――!?」


二人の攻撃を上段で受け流しながらチャンスを伺っていたその時


予想していなかった場所への長剣の一振り。


咄嗟に防御に転じたが腹部がえぐられながら吹き飛ばされる。


「――っ!!」


痛みを感じたのも一瞬、目の前の驚愕の状況に思考がもっていかれた。


正面にいたゾンビとアニメキャラが不自然に止まっていたのだ。


ガクンと手が止まり、目から活力が無くなりピントがずれ

上半身から布と肉が擦れる異音を発し、横にゆっくりとスライドする。


接続面から血を噴き出しながら

砂袋が落ちたような鈍い音を地面に鳴らした。



無表情なウサギが舞い散る血で徐々に紅く染まる。



見た目と状況のギャップがかもしだす異常性と

それ以上に、仲間を盾にし死角を作り

その裏から躊躇いもなく斬りつけてくるウサギに


死に限りなく近い恐怖を抱き、身が竦んでしまった。


その恐怖で心が折れかかった


その瞬間


「ッーーーー!?」


鴻の魂の奥底がざわめき、悲鳴のように黒い闘気が溢れ出す。

まるで黒い影が鴻をむさぼるかのように暴力的に体に纏わり付く。


それに呼応して自身だけでなく空気、周りの生物の生気を吸い込むように黒き刀身が闇を増す。


矢継ぎ早に纏った闘気を爆発させるような勢いで距離を詰め


一瞬で上段、下段、中段とあらゆる方向から剣撃を浴びせ

空が舞う血で紅く染まり、多数の黒き剣閃が宙に浮かんだ。


意識はほぼ無い。


半ば暴走状態のような、意識が飛んでいる状態にも関わらず

凄まじい連撃で相手を圧倒し、徐々にウサギに刀傷が増え、みるみるうちに動きが鈍くなる。


それでもさすがプロというべきか、絶妙なタイミングで反撃をしてくるが

攻撃がくる場所がわかっているかのように鴻は避ける。


いや攻撃がはずれる。


打ち合いにすらならなくなり

戦闘の終わりが近づいてきた。


鴻は〝黒葬百鬼〟を両手で持ち

相手の長剣を下から振り上げ大きくはじく。


最早武器の創造も維持できなくなり、空中で文字通り長剣がはじける。


防戦一方のウサギが耐え切れず、ついに膝を着いた所へ


上段から大振りの剣撃で決着が着いた。


「……はぁ……はぁ」


刀身から流れ落ちる血に同調するように呼吸が落ち着き、意識も徐々に鮮明になっていく。


想定外の消費で膝が笑い、足元がふらつくが

ゆっくりとした足取りで倒れた三人に近づく。


ピクリともしない姿を見て息を飲むが、呻きつつ息をしているのを確認して、ホッと安心する。

いつかは来るとはいえ人を殺さないですむならまだ経験したくはなかった。


周りの状況を軽く確認し、警備会社ではなく、自分の雇い主である九十九つくも つばさに連絡をする。

指示通り処理班が来るのを待ち、引き継ぎ、そのまま家路につく。


凄まじい疲労感に襲われながら家につき自室に入った瞬間

プツリと糸の切れたマリオネットのようにベッドに倒れこんでしまった。


「♪~♪♪」 


浅い眠りの中スマホの呼び出し音で目が覚める。


「死んだよ」


翼は感情のない冷淡な声でそれだけ告げると電話を切った。


トドメはささなかった

しかし結果的に死んだのであれば、それは殺したのと同じ事。


心がズキッと痛みを発する。


初めて人を殺した。


思う事は色々あるはずだが、寝起きだからか全く頭が回らない。


「そっか――」


自分の手に落としていた視線を外に浮かぶ月に合わせ

音にならない声がこぼれた。


美しく降り注ぐ月の光と反対に心に影が落ちる。

自然と瞼が落ちるまで


擦れたため息が続いた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ