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救いのない世界にドロップキック  作者: 星鴉ゆき
第二章 存在するとは、行動することである
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18話 悪感

目的地の倉庫に着くと昨夜送られてきた設計図をARアプリで起動し、目を通す。

中央が大きく開けていて、二階建て。元々何かの工場の資材置き場だったような、簡素な造り。


隠れる所は少ないが、それは誰もが同じ。取引には好都合かもしれない。


周りを見渡し、人がいない事を確認すると素早く二階へ続く階段を駆け上がる。

ボロボロで鍵が壊れたドアを少し開け気配がないことを確認し内部に入るが、中が妙に静か過ぎる。

倉庫内に人の声、気配すらもない。


(時間的には早いけど見張りもいないのか?)


壁際にあるホコリ臭い通路を屈みながら進み、咳を我慢しながら一階を何気なく覗くと


「――――っ!」


脳を直接揺らされたかのような感覚に陥る程に衝撃的、想定外の状況になっていた。


少しの思考時間すらもったいないと風を切り、即座にニ階から飛び降りる。


それを見た瞬間、血の気が引いた。喉元に上がってきた異物を無理やり飲み込み。

口の中に残る不快感を我慢し、うるんだ目で現実を直視する。


死体、死体、死体、死体、死体、死体……。


ついさっきまで生きていたのだろう、湿っぽい空気に混ざったほこり臭さとむせかえるような血生臭い匂い。それがなければ、作り物かと思ってしまうような非現実感。


目の前にはまさに血の海。倉庫の傾いた床から足元に流れてくる赤黒い血。

人形のように雑に置いてある死体。息を確認をするまでもない紛れもない死体。


顔が確認できる死体や体格から推察するにおそらく、この国の人間ではない。

海外組織側であろう連中の死体は十体。全員が武器を抜かずに死んでいた。

抵抗したような様子が全くない。


バラバラという程ではないが不規則に、しかし狭い範囲に死体があり、移動した形跡がない。

この事と、死体の対面に少しだけスペースが空いている事からも取引中に殺された思われる。


(こんな風に簡単に殺されるものか……?)


力を使いこなす戦人クラスではないにしろ、プロだ。そこらのチンピラとは違う。

内部から裏切者が出たのか、不意打ちにしても何人かは戦闘体制に移行し武器くらいは抜くはずだ。

しかし彼らの脇のホルスターにはまだ使用されていない最新式の銃が冷たいまま刺さっていた。


服装の乱れはない。無慈悲ではあるが、怨恨などの類ではない綺麗な死体だ。


「被害者はっ!?」


死体の中には少女、子供の死体がないのは確認した。

しかし被害者の影も形もこの場にはなく。座らせられていた椅子を四脚と縛られていたであろう縄だけが無残に残っていた。


「くそっ!」


予定時間は間違っていない。むしろ早いぐらいだ。


「くそっ!!」


(何処でミスをした? 夏鈴と揉めた所為か? 時間が遅かっ――!)


「くそっっっ!!!!」


感情が爆発し、近くにあった椅子を粉々に蹴り砕く。


音を遮る物がない倉庫には予想以上の大きな音が響き

それを聞いた数人の男女が中に入ってくる。足音もさせず、嫌な気配を漂わせながら。


あれこれ考えても結果は変わらない、臨機応変に動かなければ

横目で月陰衆が入ってくるのを確認しつつ翼に連絡をする。


「翼さん。本用に申し訳ありません。失敗しました」


「取引はもう終わってて、争いがあったみたいです。はい。……ええ。救出対象はいません。……はい」


「……え?」


この場に留まって警察でも来たら、さすがに面倒な事になる。


基本的には、セキュリティー関係者、ボディーガード、SP、探偵、傭兵、中には殺し屋ですら

警察とのコネクションは必ずある。持ちつ持たれつ。


TDOも当然あるが、さすがにこの数の死体がある現場にいる所を見られてしまうと

警察も無視をする事はできないだろう。


見た少ないながら、詳細に事情を説明し返答を待つが返ってきたのは予想外の一言だった。


「海外組織は全滅したのか?……ならお前は帰っていいぞ」


反応する間もなくプツンと通話は切れた。

そして状況を説明するまでもなく月陰衆は死体を回収しもういなかった。



「――――!?」



翼の言葉と月陰衆の素早さに呆気に取られていると突然殺気を感じる。


それもとても濃い凶気。


「誰だっっ!?」


返事はない。間違いなくこの惨劇を起こした犯人だろう。


心臓が波を打つ、呼吸が荒くなり、身がすくむ。

震える手を片手で押さえいつでも戦闘できるように構えるが


殺気は綺麗に消えた。人の気配もない。


ずっと維持していた緊張がここで途切れ、一走りしたような疲労感が込み上げてくる。

先程の翼の言葉を思い出し、さらに疲労感を上乗せる。


胃がギリギリと痛みを発し、死体を見た時のように悪心を起した。

落日の陰湿な空気でもここよりはいいと、倉庫から出て新鮮な空気を何回か吸い多少の落ち着きを取り戻す。


「……ふぅ――っ!?」


しかし次の瞬間に空気以外の物も吐き出しそうになるのであった。

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