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救いのない世界にドロップキック  作者: 星鴉ゆき
第一章 人間の運命は自分の魂の中にある
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01話 リコレクション

「――っ...はぁ...」


今日の依頼は簡単な護衛のはずだった。


依頼主は保険業界で急成長中のクジマホールディングス社長


九島くじま あらし


護衛対象はその娘


九嶋くじま 葵衣あおい


近々、大きな契約があるらしく、ライバル企業の妨害工作などを危惧し

念の為に雇った護衛が数人


その中の1人


十七夜かのう こう


は、めまぐるしく状況が変わる中

一度ため息のような深呼吸をし、すぐに戦闘モードに頭を切り替える。


学校から送迎の車に乗せ、少し寄り道の為に車を降りたわずかな時間にそれは起きた。


極秘の護衛任務ではないが、筋肉隆々の男が黒のスーツを身にまとい

周囲を囲んでは余りにも目立ちすぎるという事で

一見友達のように見える、歳も近い鴻がすぐ傍で任務についていた。


妨害や襲撃があったとしてもせいぜい反社会勢力や下位武装組織程度

鴻が戦闘に加わる程の相手ではない。


そもそも殺人などの凶悪事件が昔程珍しくなくなった現代でも

まばらとはいえ、人がいる場所での大きな襲撃など想定していなかった。


しかし


目の前にいるウサギの被り物を被った人間はあきらかに荒事、殺しを家業とする者のたたずまい

周囲にまぎれていた護衛を襲撃した連中の手際も明らかに素人のそれではなく、プロ。


しかも鴻に与えてきた2メートルはあるであろう長剣での轟撃は一般人には過剰すぎる威力であり

避けた場所からは土煙がたち、それが消え表れた地面は大きく陥没していた。


この一撃からおそらく護衛である事と〝戦人〟である事はバレていた。


「情報漏れ……?」


この護衛任務はあくまでも念の為であり

戦闘を想定してなかった為、鴻以外は一般的な警備会社の人間である。


装備こそ防刃、防弾、耐衝撃と優秀なプロテクトジャケットと(小型電撃機銃(スタンバレット))など充実しているが

一般人が裏家業の人間と対峙するには根本的な部分で足りない物が多すぎる。


葵衣は先ほどの攻撃の余波で吹き飛ばされ気を失っている。

鴻が抱え守ったおかげで、すり傷などの目に見える怪我はないが

このまま連れて逃げる事が難しくなった。


この仕事を続けている中、戦闘になる事も珍しくはないし、それなりに経験もある

しかしここまで危機的な状況は今までにない。


準備に膨大な時間を費やし、見落としがないように万全な計画を立てるのが当たり前であり

情報漏洩にも最大限注意し、任務中も慎重に、用心し行動する。


それがあっさり覆された。


警備会社が主導の任務だからと言い訳はできない。


関わる以上、失敗は許されない。


信用第一のこの業界では特に。


鴻が動揺しながら頭の中を整理していると


鴻に攻撃してきたリーダー格と思われるウサギの周りに護衛を片付けた数人が

一糸乱れず集まってきた。


「誰に雇われた?」


「……」


「大丈夫。素直に答えるなんて最初から期待してない」


「……」


「で、目的はなんだ?」


「……」


「言いそうになっただろ?」


「……」


「……」


「……はぁ」


緊張感のないトーンで話しかけ、高まった鼓動と呼吸を落ちつかせる時間を稼ぐ。


「交渉の余地は?」


「……」


沈黙。


リーダー格以外も全員が仮装で使うようなマスクを被っていた為

表情からも思惑を読み取る事ができない。


目的は葵衣の誘拐だと思われるが、護衛全員を襲撃する必要が果たしてあったのか

情報が漏れているなら、もっと目立たない行動ができたはずなのに。


――なんでだ…?


こんなに目立つ行動をする理由が全くわからず息と共に思った事を呟く。


ウサギを中心に左に白人の被り物とカボチャの被り物。

右にゾンビとアニメキャラの被り物。


全く隙を見せず微動だにしない相手を目の前に、鴻の喉は渇き、ひりついた肌にツーと汗が流れる。


交渉も会話すら受け付けず、殺意しか感じられない。


これから殺し合いが始まるのは言うに及ばない。


ウサギの持つ長剣は戦人が扱う〝戎器創造アルケミーアームズ〟で間違いない。


(身のこなし的に他四人も〝戦人〟と見たほうがいいな)


頭をフル回転させ相手を分析し、活路を探すが

絶体絶命という言葉がこんなにしっくりくる事もなかなかないだろう。


――殺らなきゃ殺られる……!


初めて感じるいつもと違う空気感。


生存本能による防衛機能が働いても人を殺す事は強力な理性が止める。

大半の人が理性に負け死を迎えるのかもしれない。

その理性を振り切り生き延びたところでもう普通の日常には戻れないが。


白と黒の間にある聳え立つ大きな壁。


対峙する相手と自分を隔てるその壁の向こう側に行かなければこの状況は打開できない。

人を守りながらこの相手を殺意無く無効化する事は今の鴻には不可能だ。


この仕事を始めてからいつかは来る日を想定し、何回もイメージした行程

理性にフィルターをかけ、心に闇を落として保護をし、本能を開放


腹をくくり、殺意を声に込め呟く。


「いくぞ……〝黒 葬 百 鬼(こくそうひゃっき)〟――ッ!!」

『轟撃』 造語 読み方:ゴウゲキ


轟音+衝撃+攻撃


とても重く轟くような風きり音をさせた攻撃

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