09話 ゴミ掃除
「オイ……騒がしいな、いきなりなんだお前?」
右奥のソファーから顔中ピアスだらけの気持ち悪い男が言う
暢気に酒を飲みながら。
蝿庭の顔は一度TDOの書類で見た事があり、今口を開いた男と一致した。
「あ、悪い。人を探してて」
蝿庭の向かい側に座る二人組みを凝視しつつ
鴻は写真の顔を思い出し口角を上げる。
「お! 探したよ! 長壁、雨傘行くぞ!」
蝿庭の正面に座る二人がピクリと動く。
「まてまて……何勝手に進めてんだ? 殺すぞ」
「長壁と雨傘を渡せ。そうしたら帰る」
殺すという言葉に反応し、口調が強くなる。
「あ? 何で上からなんだ? 頭沸いてんのかテメェ」
「大体テメーは誰なんだ? こいつらに何の用がある」
まだ余裕があるのか
口ぶりとは逆に表情は笑っている。
「んーお前に説明する義理はない。そこの二人は覚えあるだろ?」
「あー……」
長壁が口を開こうとすると
「覚えがありすぎて……どれの事かわからねーってよ!!!」
蝿庭がそう言った瞬間、鴻以外の全員が爆笑し、腹を抱える。
引き笑いのような癇に障る声を出し
呼吸を乱しながら蝿庭は続ける。
「この前、轢いちまったからついでにまわして、そのまま裸で捨てた奴の復讐か?」
「それとも、車で街中を引きずってぐちゃぐちゃにして海に捨てた奴か?
わかんねーよ元々物覚えもわりぃーんだ」
尚も笑い続ける蝿庭達に鴻は奥歯を噛み締めながら
努めて平静を装い忠告をする。
「蝿庭、今回はお前らに用はないし、とやかく言うつもりはない。
イライラするからもう喋るな。黙ってそいつらを渡せ」
鴻があからさまに怒りを抑えている状態を見て蝿庭は何かが引っかかった。
「……」
抗争、闘争に日常的に触れている中
冷静に凶行に及ぶ人間
感情的に狂行に及ぶ人間
裏世界の人間も散々見てきた。その中で鴻は少しの違和感を感じる人間だった。
「お前一体何者だ? そこそこ腕に自信あるみたいだが、プロじゃねーな?」
「俺達みたいにお前がどこの誰だか分からず手を出しにくい状況と違って
お前はこっちの情報を掴んでて乗り込んできる。しかも感情的にじゃなくだ。
ならくっちゃべってないで、さっさとぶちのめせばいいんだ。
いやぶちのめすべきだろ? 相手が状況把握する前によォ?」
正論に少しの間思考が止まる。蝿庭の言っている事は正しく、ある程度鴻も理解している事。
図星だった。
九十九辺りなら部屋に入った瞬間全員の足がなくなるなんて事になるだろう。
そしてこんな事を言うかもしれない。
『聞きたいことがある。首は残したから喋れるだろう?』
しかし鴻にはいきなり乗り込んで制圧する程の気概をまだ持てない。
その甘さはこの世界では命取りになる。
「何にせよお前は殴り込みに来てんだ。生きて帰さねーぞ?」
旧式とはいえ銃を向けられ奥にはCランクとBランク。
鴻以外には危機的状況に見えているだろう。
「お前らは自業自得って言葉知ってるか? 振るった暴力が返ってくるんだ」
「その暴力を暴力で支配するのが俺達の世界だ」
『お前も解ってるんだろ?』と言いたげな口調で返答し
「怒りで歪んでた顔が絶望で歪んで穴という穴から変な液体出して最高にたまらねーよなァ
あの瞬間は本当に快感でな、絶頂に達するぜ」
ニタァと気持ちの悪い笑みを見せ不愉快極まりない笑い声をあげた。
(あ、やばい)
雑談をするように、全く悪びれる素振りを見せず
武勇伝を語っているような態度の蝿庭の悪意に中てられ
鴻の中のドス黒い何かがうごめきはじめた。
その余りにも大きな殺意に
体のさまざまな所に不自由が出始める。
笑い声が徐々に遠くなり、甲高い耳鳴りのように聞こえてくる
それに合わせて平衡感覚が揺らぎ、今にも意識が途切れそうになる。
「はっ」
呼吸が荒くなる。
「はっ」
心臓が破裂しそうな程に脈を打つ。
「はっ」
(気持ち悪い。はきそう。殺したい。メガマワル。コロ$&#@\……)
自分の声なのか幻聴なのか
言葉にならない音が鳴り響き
朦朧とする意識の中で見たものは
「……っ!?」
自分の手や体にびっしりと血と肉片が付き
部屋の中が一面赤に染まる凄惨な光景だった。