#00 始まり
<能力>や<魔術属性>が存在し、そのスキルが人生を決めるとある異世界があった。
そんな異世界の一国の一角に屋敷を構える<ウィンディーネ>が居た。
齢600歳にして合法ロリの水精霊ウィンディーネのアラーナ・コールド邸には、<竜人族>のメイド、ドラノ・ハルカ・ウィランバード、門番の竜の少年、カイオン、大図書館の司書、テルナー・ミラジュールを始めとした妖精から人間、多岐に渡る種族が勤めていた。
アラーナは毎日、人里に出向き悩み事を解決したりして遊び、ドラノは毎日屋敷を掃除し、カイオンは家庭菜園を営み、テルナーは大図書館に貯蔵されている2億冊の本を読み漁って日々を過ごしていた。そんなある日、いつも通りカイオンがトマトに水をやっていると、空から一人の青年が降ってきた。
「うぉぉぉ!?<水華陽沌>!!」
得意の水魔法を発動し、着地点を作ったカイオンは、左手に付けていたワイヤーフックを<水弾>で発射し、青年を水華陽沌の場所に誘導する。
ポシャン!!
水の弾ける音と共に青年は水華陽沌の中に包み込まれる様に落ちた。
「…これからどうしよう」
◇ ◇ ◇
夜、俺は目を覚ました。確かよくわからないが砂丘の真ん中にある森で水を飲んだ辺りから記憶が抜けており、案の定天井は知らない天井だった。
「…誰が俺の服替えたんだ?」
机の上に無造作に置かれた何時も着ている何処の物か分からない民族衣装に着替えようとした俺の中に生まれた素朴な疑問だった。女性と言う単語が頭を過ったが、直ぐに頭を振り、思考を元に戻す。すると、
「きゃぁあぁぁ!」
と言う悲鳴が聞こえてきた。俺は部屋に置かれていた護身用と思われる絢爛豪華な短刀を握り、悲鳴のした下の大広間の様な場所に駆け付ける。
「……やばっ…」
目の前では、悲鳴の主と思われる妖精(?)が灰色の肌をした怪物に喰われており、一人の少年が魔法の様な物を使って怪物に攻撃を加えるが、怪物はお構い無しに周囲の妖精も食い殺していく。
俺は足がすくみながらも、短刀の鞘を投げ捨て、怪物に斬りかかる。
刹那、”世界が止まった”。否、世界が遅くなったと言うべきだろうか、”怪物”以外の動きが極限まで減速し、停止してるに等しい状況になった。無謀なまでに短刀一本で怪物を殺そうとしていた俺に怪物の視線が向けられる。
「グルゥゥゥゥゥ!」
怪物の蛎爪が俺を捉えた。と思ったその時、怪物と俺の間に一筋の光が割り込み、その光からメイド服の少女が出現し、怪物の鉤爪に太ももに隠していたと思われるナイフを投げて怪物と距離をとった少女は、鬼気迫った表情で俺に向かって、
「早く逃げなさい!能力を持たない人間が奴らに勝てる訳ないでしょ!?」
と言い放った。ちょっと待て、能力を持たない人間ってなんだよ。此処は異世界か?俺はそう思いつつも逃げた_振りをして物陰に隠れた。メイド服の少女は怪物と互角以上に戦っていた。しかし、怪物は妖精の死体に黒いナニカを注いだ。そして妖精の死体は屍として甦った。そしてメイドの腹に怪物の鉤爪がヒットし、少女はか細い息と共に血を吐いて倒れた。
「ドラノ!お前…!」
ドラノと言うのか少女の名を叫んで少年は水で出来た槍怪物に投げる。が、槍は跳ね返される。そして跳ね返された方向は俺の居る場所だった。
「なっ……」
俺は迫ってくる槍をただ見ていた…