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5.電車に揺られて。

 日程を合わせるのにそう苦労はしなかった。何せ大学生の夏休みだ。時間は沢山あった。俺らは、今週の土曜日、つまりは今日、県内一の大きな駅で待ち合わせをすることとなった。と同時に、早くも俺たち三人は再会を果たすこととなる。

 電車の中で揺られながら様々な事を考える。三人とも県内と言うが、思いのほかバラバラに散っていて、路線は誰一人として同じじゃない。そのせいで、待ち合わせまでの間、一人で電車の外の風景を眺めることとなった。

「ほんと何もないな……」

 二人掛けの席に一人で窓際の方に座って、過ぎていく風景に声を掛ける。俺が通う大学の周辺は多少、街として賑わっていたが、そこから少しでも外れてしまえば、俺の育ったところと張り合えるほどの田舎っぷりで何もない。広がるのは田んぼ、山、川。この三つに限られてしまう。

 そんな風景を横切る電車の中は土日だというのに、そこまで人はいない。俺と同じように都会に出るのだろう。化粧を綺麗に決めた女性が何人かいる。音楽を聴く高校生。おそらく、部活か何かだろう。久しぶりに高校生を見て思わず昔の俺と重ね合わせてしまう。俺も高校生のときはこんなだったな。何も考えてなくて、ただ目の前にある事で精一杯だった時期。それが許されていた時期。

「ユウタ」

 突然幼い少女のような声が俺の名前を呼んだ。はっとなって、辺りを見渡す。何もいない。誰も俺のことを見ている人などいなかった。そして、そもそもこの車両に小学生のような小さな影はどこにもなかった。そしてこの声は初めて聞いたわけではなかった。この前一人でアパートでいた時に聞こえていた声と同じだった。

「やっぱ夏バテしてるのか……」

 俺は座席にもう一度深く腰掛けて、深呼吸をする。外の風景は何一つ変わらない。電車はずっと同じリズムで揺れていた。

 ──どのくらい時間が経っただろうか。俺は気が付くと寝ていたようだ。辺りの風景が先ほどとはガラリと変わり、高いビルやマンションに埋め尽くされていた。

「まもなく終点──」

 駅員がアナウンスするのが聞こえる。前方に巨大な建物が見える。ホームが近づいてた。

「本日もご利用ありがとうございました」

 扉が一斉に開き、俺も含めぞろぞろと電車から一気にホームに流れ出す。久々の都会の空気を感じ、都会の慌ただしさを感じる。大学の周りの都会具合とは比べ物にならない。スーツ姿のビジネスマン。アクセサリーをキラキラさせる女性。電話を掛けながら早歩きで過ぎていく人。何というか、頭に入ってくる情報量が多すぎて処理しきれないような感覚に襲われる。呼吸をするたびに入ってくるのは香水の香りだった。

「ほんと都会だな……。こんなところにアケミは住んでるのか……」

 俺だったら、三日で気分が悪くなりそうだった。根っからの田舎育ちの俺にとってここは住むところではなかった。アケミも俺と同じ田舎育ちだが、よくここに住めるな。そんなことを思ってしまった。

 駅のエスカレーターを降りて、俺は二人と待ち合わせをしている場所へ向かった。

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