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4.アケミ。

 リョウ、レンタの二人には無事連絡がついた。送り主であるアンナの居場所も分かっている。だが、ここで一つ困ったことが起きた。アケミとの連絡を取れる手段を持った人間が誰一人としていないのだ。俺も含め、三人がアケミと最後に会ったのは、中学校の頃だった。もっと精密に言うならば、中学校の途中までだった。俺たちが普段通りに学校生活を送っていたころ、アケミは忽然として姿を消したのだ。

 今日もまた、グループ通話が展開されている。

「アケミって結局あれは俺らに黙って引っ越したんだっけ?」

 レンタが本題を切り出す。リョウは、今となって当たり前となった落ち着いた口調でそれに応える。

「引きこもりっていう噂もたってたけどな。不良グループに巻き込まれて道を踏み外したっていう話も飛び交ってたな。──まぁ、色んなパターンの噂がありすぎて、本当のところは分からないけどな」

「どうしたものか……。どうやって連絡取りますかねぇ……」

 俺はまるで投げ出したかのようにため息交じりに喋った。でも、リョウもレンタも俺と同様唸っているようで、頭の中から意見を必死で絞っているようだった。レンタが沈黙を破る。

「アケミがどこの高校行ったとか知ってないか?」

 俺を含め、リョウも無言になる。知るわけがなかった。中学の途中で消えたメンバーの存在。でも、アンナが皆で再会することを望んでいる。一人でも欠けてるわけにはいかない気がした。

「とにかく、どうにかしよう。皆で集まらなきゃ意味がない」

 俺は気が付いたら綺麗ごとを口走っていた。電話越しと言え、赤面するしかなかった。

「かっけーぞユウタ」

 リョウがからかってきた。こういうところは昔のままだった。だが、もう俺たちは八方ふさがりになっていた。アケミとの連絡はつかない。そんな淀んだ空気を打ち破ったのは、レンタだった。

「あ、あのさ。実はさっき、中学の時の女子の友達にラインしたんだけど……。アケミの居場所、何となく分かるって」

「本当か……!」

 リョウが大きな声を出す。一瞬昔のリョウと重なった。

「あ、あぁ。覚えてるか? アケミと中学の頃仲良かったミホっていう女子。──卒業するとき、クラスが同じでその時ライン実は交換してて……」

「それで、アケミは今どこに?」

 俺は話の先が聞きたくて、レンタに急がせてしまった。レンタの口数が減っているのに気付いていなかった。レンタはぎこちなく、返事をすると、小さな声で呟いた。

「あいつ、都会の方の古いアパートに住んでるらしい……。何か、あんまり表で言えない仕事してるらしい……」

「は?」

 一瞬理解するのに時間がかかった。アケミは中学で俺らの前から姿を消す直前まで、小学校のころから変わらない笑顔を絶やさないヤツだった。

「それはつまり、あれだな。何をしているかは色々想像がつくな……」

 リョウが静かに呟いた。その時初めて俺の頭の中でレンタの言った意味が理解された。アケミから笑顔が消えて、暗い顔で仕事に向かうところが頭を過ろうとした。だが、想像したくなかった。

 ──直感的に言葉が口から出てきた。

「助けないと。アケミを助けるぞ。それで、場所はどこだ?」

「落ち着けユウタ。アケミは変わった。もう、そこは妥協しないか。あまりに住む世界が違いすぎる。それに、アケミはそこで生活している。それでいいじゃないか。何も俺たちと同じ状態じゃなきゃだめってもんじゃないだろ。人それぞれだ」

 口を挟んだのはリョウだった。リョウは昔に比べてとてもしっかりしているように思えた。

「そ、そうだぜ。ユウタ。それに、この情報も確かかどうかも分からないんだ。一旦、落ち着いて考えないか?」

「それもそうだな……。俺たち、変わってないわけがないよな。アケミは変わった……」

 俺は突然我に返った。よく考えて見ればそうだ。思春期を超えて大学生となった今、俺も含め、あの頃のままなどあり得ない。だが、分かっていても、それでもどこか、昔のアケミであって欲しいと願う自分がいた。机の上に置いてあったアンナの手紙が目に入る。そもそも、アンナだってどんな気持ちで俺に手紙を書いたのだろうか。アンナだって、昔のままのはずがない。それに、小学校に転校したアンナは俺らにとっては小学生までの付き合いだ。アンナにとってもそれは変わらない。そんな人になぜ手紙を書いたのだろう。

「おい、ユウタ。大丈夫か? 急に黙りこんだりして」

 レンタが心配そうに声を掛けてくれた。俺はまた、はっとなって、慌てて声を出す。お陰でまた、変な返事になってしまった。

「あ、うん……。あのさ……。その。──俺はそれでもダメ元でもいいからアケミに会いに行きたい」

「頑固だな、ユウタ。そういうところは昔から変わんないな。──分かった。俺も行く。俺たち幸い県内の大学だし、電車使えば都会の方には行けんこともない」

 口を開いたのはリョウだった。リョウがいう通りだった。俺は頑固で、一度考えを固めたことはいつも曲げなかった。自分の中では少しコンプレックスでもあった。リョウに言われて改めて変わってないことを実感してしまった。

「お前ら、俺抜きで行くつもりじゃないだろな? 俺も当然のことながら行くからな」

 レンタもすかさず口を開いた。

「結局レンタもリョウも行くのか」

「お前の頑固さには負けたよ。──でも、お前ほど結果に期待してないからな」

 リョウがため息交じりで言った。確かにそうかもしれない。アケミは今どうしているのだろう。

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