1.都会の夏。
三坂糀と申します。
ゆっくりと書いていこうと思います。
ほんの少しだけお付き合いいただければ幸いです……
ここに引っ越してどのくらいの時間が経っただろう。大学一年生の春を迎えて、すっかり夏色に染まった空を床に寝転んで見た。ここは、自分が幼少期を過ごしたところに比べて都会で、車の音が大通りの方から聞こえ、夜には大きなエンジン音を鳴らして過ぎていくバイクの影がうっすらと見える。窓から見えるもの聞こえるものはすべて騒がしく、幼少期のころに粗末な半袖半ズボンを引っ掛けて虫網を振り回していた頃の記憶が反動で微かによぎる。
「夏だな……」
俺はただ、昔の記憶の中に封じ込めた何かが弾けそうな心を抑えていた。夏という季節は嫌いではないが、ただ、妙に暑いせいか、途方もない孤独感に悩まされるときがある。
例えば夕暮れ。夏の夕暮れは、幼いころから、とても寂しい気持ち襲われるものだった。
例えば、真昼の木漏れ日。小さいころにかくれんぼをしていた神社の御神木が作り出すコントラストをじっと見つめると光と影が見えて怖くなった。
「夏だな……」
俺は意味もなくもう一度呟いた。誰かに会いたい。過去の記憶に埋もれていった友達は今どうしているだろうか。どこで、何をしているだろうか。
「神社に行こ!」
突然、どこかから無邪気な少女の声がした。まだ小学生くらいの声だ。あまりに耳元で囁かれたので、思わず床から起き上がった。──だが、そこに誰もいなかった。
俺は冷静になって考えた。そうだ、俺は一人暮らしをしていたんだと。だが、それが非現実的に起こった出来事とは思えなかった。
「暑さに頭がやられてるのか……? ──それとも」
その時、窓の外に赤い郵便局のバイクが走り去っていくのが見えた。
「ポスト最近見てなかったな……」
桜が頭に降りかかる入学式のころはまだまめにポストの中を確認していた。ここ、一か月ぐらいはいつ見ただろうか。
俺は広くもないアパートの鍵を開けて、郵便受けへと向かった。
中に入っていたものといえば近くに新しい店がオープンしただとか、バイト募集のチラシだとか、雨に濡れて何が書かれているかわからないものまであった。そんな郵便受けのごたつきの中に異色なものが一通あった。
「何だこれ……」
チカチカする広告の中にポツリとパステル調の質素な封筒が入っていたのだ。
「田上雄太様」
俺宛てに来ていた。まぁ、それはそうかと思ながら裏返す。送り主の名前を確認する。
「山並杏奈」
山並杏奈……? どこかで聞いたことのあるような名前だなと思い記憶を巡らす。そしてやっとこの人物が誰なのかが分かった。
「幼馴染だ。──懐かしいな……!」
人間古い友人から手紙がくると喜ぶ生き物らしく、俺は他の広告類を全てグシャグシャに丸めてその封筒だけを大事に持って部屋へ戻った。
俺は部屋に戻ると、取りあえず麦茶をコップに注いで、丁寧に封を切った。何せ久しく連絡を取ってない幼馴染だ。一体何だろうかと形の無い期待と不安で心が揺らぐ。
<ユウタへ。
住所は貴方のお母さんに聞きました。今は一人暮らしをしているそうですね!あ、お久しぶりです!覚えてるかな??アンナです。ユウタと会ったのは小学6年の夏で最後だったよね!私は途中で転校してしまったからね。
どうですか?元気にしてますか?? 私は今年の夏はとてもいい夏にしようと思ってます!!笑
ユウタはどうしてますか? 夏休み、エンジョイしてますかー??笑
あ、なんで今回手紙を送ったかというと、私のワガママなんだけど、今度、みんなで集まりませんか?? 小学生の頃の親しい仲間と!笑
何か、あっという間に時間が経って、もう私たちも大人になっちゃうよね。その前に、最後にさ、大人になる前に、残り僅かな子供としての夏を楽しみたいな……!みたいな!(日本語下手でごめんなさい)
そこでユウタにお願いがあるんだけど、小学校の頃、私たちがよく遊んでいたグループ、覚えてる?
その人たちに声掛けをしてもらいたいんだ! お願いしまする~!笑
じゃぁまたね! 連絡がついたら教えてください!
アンナ>
先は長いですが、少しでも展開が気になって頂ければ、いつかご訪問ください……m(__)m
ではまた。