彼女
「わっ……綺麗」
女の人は綺麗な素顔を見せると、自分の着ている兵士の武装をはずした。
見たところ、私たちより2、3上かな。
「さて……行きましょうか」
「えっ? ど、どこに?」
いきなりそう言われて、当然私たちは動揺した。
一体、どこに行くんだろう?
そう不安がっていると、女の人はニコッと笑って「大丈夫よ、安全な所だから」と言って、ケツァールさんの下に向かった。
「あなたも来ます?」
「えっ? ………う~ん」
ケツァールさんは少し考え込んだ後、結論を出した。
「いいよ、僕は……戦場ジャーナリストとしての役目があるから戻るよ」
じゃあ、ここでケツァールさんとはお別れか……。
「そうですか……分かりました」
「そういうことです、はるちゃん、ぼろちゃん、お元気で!」
そう言ってケツァールさんはヘリに乗り込んだ。
「あっ、ケツァールさん!! ありがとうございました!」
私が頭を下げて言うと、春ちゃんも続いて「ありがとうございました!」と頭を下げた。
ケツァールさんはヘリの窓越しからグッドと手で表現して海の地平線の中に消えていった。
「……行っちゃったね、ケツァールさん…………なんか、寂しいね」
「ええ……ちょっと日本語の発音面白かったよね」
「うん……そうだね」
そう名残惜しいかのように話していると、女の人が「もういいかな?」と少し遠慮下に割り込んできた。
そうだった、これからどこかへ行くんだった……。
「あっ、はい……すみません」
「べ、別に謝ることなんかないよ……じゃあ、付いてきて」
私と春ちゃんは女の人に付いていくと、そこはさっきケツァールさんが飛び去った場所だった。
「えっ? ここが何なんですか?」
私がそう聞くと、女の人はあるところを指で指した。
その場所とは……。
「う、海?」
ま、まさか……泳ぐと無いよね?
私が心配そうに海を見つめているのが分かったのか女の人は「? もしかして、泳げない?」と聞いてきた。
やっぱり泳ぐんだ……まあ、泳げるか分からないけど。
そもそも、私記憶失くしちゃってるしね……。
でも、多分泳げるでしょ。
「いえ、泳げると思います」
「思う?」
「あっ、はい……実は私……記憶喪失なんです」
「ええっ!? き、記憶喪失!?」
「はい……」
まあ、いきなりこんなカミングアウトされたら、誰だって驚くよね。
女の人は少し驚いた後、春ちゃんに目を合わせた。
「じゃあ、あなたも?」
「い、いえ……私は違います」
「そ、そう……」
このままじゃあノリ君にも質問が来そうだから、いままでのことを話したほうがいいかな。
「あ、あの……」
「何?」
「今までのことをお話します……」
二回目だな~このくだり。
とりあえず今までのあらすじを話すと、女の人は「なるほどね~」と頷いた。
でも、直人さんの所話す時はやっぱりちょっと涙が出てきちゃう。
「……ボロちゃん」
春ちゃんは私がちょっと涙目になっているのが分かったのか背中を摩ってくれた。
「は、春ちゃん………ありがとう、でも、大丈夫だから! 心配しないで?」
そう、私が悲しんでたら、直人さんも悲しむんだ!
だから、もう泣かないって決めたんだから!
「ボロちゃん……ふふっ、ごめんね、少し私心配性だったかも」
「そうだよ! ふふふっ!」
私達が笑っていると、女の人が「素敵な友情ね」と羨ましそうに言った。
「そ、そうですか?」
私は若干照れて言うと女の人は「ええ……そんな短時間でそこまで絆が深まるなんて、本当、あなたたちって仲が良いのね」と言ってきた。
まあ、当然私達はまた照れたけど、女の人の表情が少し真剣な顔になった。
「でも、それが仇にならなければいいけど……」
「えっ?」
「……何でもないわ! じゃあ、一回、海の中に入りましょう!」
女の人は少し笑みを浮かべて海の中にゆっくりと入った。
「……!」
「さあ、ゆっくりでいいから」
「あ、はい……」
さっき、何言ってたか聞こえなかったけど……何だろう?
でも、何でもないって言ってたから、気にすることはない、かな。
よし……!