脱出
★は台詞のみの視点になります。
★
「……まだ見つからないのか?」
「はい……現在、東京、北海道に捜査員を送り込んでいるのですが、未だ収穫はなしです」
「………で、あの施設から逃げ出した者の名前は?」
「桜木仄香、16才です」
「絶対に見つけ出して殺せ、あの施設の秘密を知ったものは生かしておくな」
「はい…………あの娘は?」
「放っておけ、期待に応えない出来損ないなど」
「はい。分かりました」
☆
サン・イシドロ san lsidro de EI GeneraIへと向かい始めた私達に最初に訪れた困難は、山登りであった。チリポ山と呼ばれる標高3,820mある山を越えなければサン・イシドロ san lsidro de EI GeneraIには行けないらしいが、流石に装備も何も整っていない私たちが夜中の山を登るのは危険すぎるので、一旦遠回りをして山を避け、そこから向かうことにした……だが、今は戦時中、地雷がどこに埋まっているのか分からないので慎重に進む必要があった。
そして、私達は1日かけてついに、チリポ国立公園から出ることが出来た。
だが、出たとはいえ、まだ山岳地帯を出たに過ぎない、まだサン・イシドロまでの道のりは遠い……。
「はあ……」
私は目の前にある倒れた標識を見てため息を付いた。
そこにはサン・イシドロ san lsidro de EI GeneraI 100kmとギリギリ読める字で書かれていた。
「あと100キロかあ~」
「まあ、行くしかないわね……それに、どうやらここからは安全のようだし」
「何ですか?」
「それは、アレよ」
春ちゃんはそばに指してある白くて少しデカイ看板を指した。
しかし、私には何て書いてあるのか全く分からなかった。
それに気付いたのか、春ちゃんは「やっぱりね」とため息を付いた。
「や、やっぱりって?」
「貴方が日本人だってことかな?」
「に、日本人? 私が?」
「ええ……」
「じゃ、じゃあ、私は日本からきたって事ですか?」
「そういうことになるわね……」
「ど、どうして、ここに?」
「そんなこと私に言われてもね……ただ、貴方がコスタリカ語を話せないのは分かったわ」
「な、何かすみません……」
私が軽く謝ると「いいよ、いいよ! 私話せるから! ……それで、あそこに書いてあることなんだけど、地雷は磁力式、武器は捨てよ!と書いてあるの」
「じ、磁力式?」
「ええ……だから私達、そういう物持って無いでしょ?」
「そ、そうですね……」
確かに、私たちが今持っているのは、地図と缶詰入りの袋ぐらいかな。
「でしょ? それに、缶詰減ってきてるし……急がないとね」
「……はい」
確かに、ここに向かう途中、結構缶詰を食ってしまった。
「持って、あと2日と行った所かしら」
「すみません。私が……二人で盗りに行こうと言ったばかりに追われることになって、あの病院から離れなくちゃあいけなくなって……」
「いいのよ。それに、貴方が居なかったら、私は死んでたんだから」
春ちゃんは私の肩に手を置いて「だから、私がお礼を言いたいくらいだわ。ありがとう」と笑みを浮かべた。
「さあ、行きましょう?」
少し溢れてきた涙を拭いて私は「はい!」と少し明るく答えた。